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作成: 1996/08/26 梅田 巌

データ番号   :010028
真珠の放射線着色
目的      :真珠の放射線着色
放射線の種別  :ガンマ線
放射線源    :コバルト60γ線照射設備
線量(率)   :0-300 kGy
利用施設名   :大阪府大先端科学研究所
照射条件    :空気中、室温
応用分野    :宝飾品

概要      :
 真珠の核は線量の増加につれて反射率が急速に低下し特に短波長側の低下が著しい。10 kGy以下の線量では真珠の銀色化が線量とともに線量率に関係なく増加するが、10 kGyを超えると線量の増加に対する銀色化の速度が鈍り、やがて飽和状態になる。10 kGyのオーダではキズと思われる黒い斑点はほとんど見出せないが、100 kGy 以上になると黒い斑点の大きさ、数が急速に増加し1000 kGy以上になると表面が劣化する。

詳細説明    :
 
 真珠の主成分は炭酸カルシウム(CaCO3)で約 86%あり、残りの約 12%は角質のコンキオリン(C30H4N8O11)と呼ぶ一種の蛋白質と約 2% の水からなっている。アコヤガイ養殖真珠も、図1(a) に示すように、その中心部に淡水産の貝殻で作った球状の核がある。その外側を養殖年数に応じた厚さの真珠層が覆っている。


図1 真珠の断面構造様式図(原論文2より引用)

 その厚さは約 0.4 mm である。真珠層は図1(b) に示すように炭酸カルシウムの無数の微結晶(あられ石)がタンパク質のバインダーで連結され、微結晶が配向して薄い膜(0.25〜0.6 μm)を作っている。この膜が核の上に1000層以上も累積して約 0.4 mm 厚の薄い真珠層を形成している。良質真珠は真珠層と核が密着してきれいな球形をしているが、なかには真珠層と核の間に有機物の介在層があり、変形球、ドロ球として嫌われている〔図1(c)、図1(d)〕。
  
 真珠の放射線照射によって生じる銀色化は、真珠の光の反射の変化によるものである。真珠層は半透明で、波長が 550〜700 nmの黄色から赤色の光をよく透過させる。真珠に放射線を照射すると、真珠の種類や放射線の照射量にもよるが一般に茶褐色から銀色になる。図2に示すように、真珠層は照射によって顕著な変化はなく、波長が 400〜550 nmの紫色から緑色の光に対する反射率がわずかに低下する。


図2 γ線照射による真珠層の反射率変化(原論文2より引用)



図3 γ線照射による真珠核の反射率変化(原論文2より引用)

 一方、図3に示すように、核は線量の増加につれて反射率が急速に低下し、特に短波長側の低下が著しい。即ち真珠が照射されると核が黒くなり、真珠層を透過してきた黄色から赤色の光を吸収してしまい、真珠面での光は照射される前に比べて紫色から緑色の反射光量の比率が多くなるので青味がかって見え、真珠全体としての反射光量が少なくなるために銀色になる。
  
 真珠層と核との間に黒褐色の有機物介在層が入った養殖ブルー真珠と、核が黒くなった照射ブルー真珠と、真珠層裏面にある光の吸収体によって反射光量が少なくなるために銀色に見えるメカニズムが同じである。真珠のγ線照射による着色において、真珠や核の直径の違い(7〜9 mm)で、大きな差は生じない。また線量率を変えて照射しても、真珠表面の着色の色調や経年変化での耐久性に大きな相違は現れない。
  
 γ線照射によって真珠が着色するのはアコヤガイの真珠では主として核の変色によるもので、真珠層ではほとんど変色が起こらない。しかしイケチョウガイの真珠では、真珠層の変色も核と同様に変色することが認められる。また真珠や真珠貝殻の構成成分である炭酸石灰やコンキオリンのような蛋白質もほとんど変色しない。更に淡水産の貝殻では、 50 kGy 程度照射すると、内部は均一に変色しているが殻皮層に近ずくと縞模様になり、貝殻全体が変色されるものではない。 
 
 養殖真珠の核材に淡水産の二枚貝の貝殻が用いられているので、同様に縞模様に着色する。それ故できるだけ一様に黒く、濃く着色する核を使用すれば、真珠層の薄い真珠が放射線調色法によって、より以上に黒く、美しく着色できる。しかし、照射ブルー真珠の退色の面から考えると、真珠層が薄いとそれを透過するエネルギーの高い光が多くなり核が光によって退色するので、真珠の耐久性はよくない。真珠や真珠貝の貝殻がγ線照射によって着色するのは、この中に含まれるマンガンが過酸化マンガンのようなものに酸化されて起こるので、変色の程度はマンガンの含有量に関係すると推測された。10 kGy以下の線量では真珠の銀色化が照射線量とともに線量率に関係なく増加するが、10 kGyを超えると線量の増加に対する銀色化の速度がにぶり、やがて飽和状態になる。
  
 10 kGyのオーダではキズと思われる黒い斑点はほとんど見出せないが、100 kGy 以上になると黒い斑点の大きさ、数が急速に増加し、1000 kGy以上になると表面が劣化し、光沢が失われて白い粉が付着する。大線量照射による真珠面の劣化を防止する目的で、純水、メチルアルコール、ベンゼン、アセトン等の溶液に真珠を漬けて照射すると、10 kGyのオーダでは空気中の照射と大差がないが、100 kGy 以上になると肉眼での比較では、空気中で照射した真珠の表面の光沢が一番劣る。

コメント    :
 真珠の放射線着色は既に実用化されており、下記の文献も貢献したと思われる。

原論文1 Data source 1:
放射線着色真珠の耐久性
岡本 信一
大阪府立放射線中央研究所、〒593 堺市新家町704
RADIOISOTOPES 35,520-527(1986)

原論文2 Data source 2:
真珠の放射線着色
岡本 信一
大阪府立放射線中央研究所、〒593 堺市新家町704
RADIOISOTOPES 34,668-674(1985)

キーワード:真珠、放射線照射着色、ガンマ線照射
pearl, irradiation coloring, gamma-ray irradiation
分類コード:010109

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