ダイヤモンドとサファイアの放射線照射・熱処理着色試験

放射線利用技術データベースのメインページへ
作成： 1996/08/26 梅田　巌データ番号　　　：010027 ダイヤモンドとサファイアの放射線照射・熱処理着色試験目的　　　　　　：ファンシーカラーダイヤモンドの製造と結晶による照射線量検出器の開発放射線の種別　　：電子,陽子,中性子放射線源　　　　：電子加速器 (10,100,800 MeV)、サイクロトロン(18 MeV)、研究炉線量（率）　　　：10¹⁶-10¹⁸ electrons/cm², 10¹³-10¹⁴ protons/cm², 10¹⁶-10¹⁸ neutrons/cm² 利用施設名　　　：大阪府大先端科学研究所 10MeV電子加速器、日本原子力研究所東海研究所100MeV電子加速器、電子総合研究所800MeV電子加速器、住重試験検査（株） 18 MeV サイクロトロン、武蔵工大炉、京大炉、日本原子力研究所東海研究所JRR-4 照射条件　　　　：室温水冷却応用分野　　　　：宝飾品、大線量放射線検出器概要　　　　　　：　無色透明の天然ダイヤモンドに、原子炉速中性子、10,100,800 MeV電子線または 18 MeV 陽子線を照射し、熱処理を行った。照射後はいずれの場合も青緑色になった。これを熱処理すると 300～400 ℃では青緑色のまま色が薄くなり、 400～600 ℃では緑色になり 600～800 ℃では黄色、橙色または赤茶色に変った。無色の合成サファイアは照射で橙色になり、青緑色になったダイヤモンドと同様、濃さから線量の検出器にも利用できる。詳細説明　　　　：　　ダイヤモンドに放射線を照射すると、炭素原子と相互作用を起こして結晶に格子欠陥が生じる。また加熱によってこの格子欠陥が移動し、別の格子欠陥と結合して新しい格子欠陥を生成する。これは物性物理学として興味ある現象であるが、宝石学上でもダイヤモンド結晶のミクロの世界に人為的な操作を加えることにより、ジュエリーダイヤモンドとしても面白い変化が起きる。即ち適切な放射線照射と熱処理によって、無色透明のジュエリーダイヤモンドを人工着色することができる。　　　研究用原子炉、線型電子加速器またはサイクロトロンを用いて、ダイヤモンドに速中性子、高エネルギー(10,100,800 MeV)電子線または 18 MeV 陽子線を照射して着色し、更に熱処理を行って変色させ、一つ一つの石に対して処理前後の常温における分光吸収スペクトルを測定し、その変化を調べた。なお、原子炉照射後1か月以上も経てば放射能は減衰してバックグラウンドに隠されてしまう。また、天然のファンシーカラーダイヤモンドのスペクトルも測定し、似た色調の人工着色したものと比較、それぞれの特徴を調べた。図1の分光吸収スペクトルに示すように、原子炉速中性子、電子線または陽子線照射をすれば、いずれの場合も 520 nm 付近に反射率のピーク(吸収が少ない)をもち, 青緑色に見える。なお、各スペクトルは重ならないように反射率をずらしてある。図1　放射線処理カラーダイヤモンド分光吸収スペクトル。①無処理（無色透明、0.050ct）、②原子炉速中性子照射（4x10¹⁶速中性子数/cm²、0.051ct)、③10MeV電子線照射（5x10¹⁶電子数/ cm²、0.205ct)、④18MeV陽子線照射3x10¹⁴陽子数/ cm²、0.364ct) （原論文1より引用）図2　原子炉照射・熱処理によるダイヤモンドの反射率変化。①照射なし、熱処理なし、無色透明、②照射3.6x10¹⁴(n_f/cm₂)、熱処理なし、薄緑色、③照射3.6x10¹⁴(n_f/cm₂)、熱処理650C、薄黄色、④照射4.4x10¹⁶(n_f/cm₂)、熱処理なし、濃緑色、⑤照射4.4x10¹⁶(n_f/cm₂)、熱処理600Ｃ、赤茶色図3　電子線照射・熱処理によるダイヤモンドの反射率変化。①照射なし、熱処理なし、無色透明、②照射10MeV,10⁸Gy、熱処理なし、青色、③照射10MeV,10⁸Gy、熱処理300-400C、緑青色、④照射10MeV,10⁸Gy、熱処理400-600C、青緑色、⑤照射10MeV,10⁸Gy、熱処理600-800C、黄金色　図2は原子炉、図3は 10 MeV の電子線を照射・熱処理試験をした場合のスペクトルの変化を示す。　　　青緑色の着色は、10¹⁶-10¹⁸ electrons/cm², 10¹³-10¹⁴ protons/cm², 10¹⁶-10¹⁸ neutrons/cm²で、更に照射線量が大きくなると黒色になってしまう。　　　放射線照射で青緑色に着色したダイヤモンドを 300～400 ℃で熱処理すると、格子欠陥が多少修復され、青緑色の色調はそのままであるが色の濃さは薄らいで透明度が良くなり照りも増してくる。次に、 400～600 ℃で熱処理すると、青色のダイヤモンドは緑色に変わる。これは放射線と相互作用を起こして格子間原子となった炭素原子が、結晶格子の熱振動で移動するが不純物として含まれている窒素薄板の所へ到達して落ち着く。この組み合わせは青色領域の光を吸収し、紫外～紫色領域の光を吸収する格子間原子のカラーセンターと合いまって緑色に見えるようになる。更に 600～800 ℃で熱処理すると、元は青緑色であったダイヤモンドは一転して黄色から橙色になり、または重照射で黒色になったものは赤茶色に変わる。　　　これは高温状態で格子の熱振動が大きくなって空孔も移動できるようになり、空孔にあった余分の電子が窒素薄板に結びついてしまい、その結果、空孔によって吸収されていた黄色～赤色領域の光の吸収が減ってくる。ところが窒素薄板や格子間原子に結びついてできたカラーセンターは存在していて、紫色～青色領域の光はそのまま吸収されるので、結果的にダイヤモンドは黄色から橙色に見えるようになる。　　　放射線照射・熱処理によって出来た格子欠陥は画一的なものではなく、種々の状態のものが生成されるので、結果として表れる色調はどの種類の格子欠陥が優勢かによるものである。即ち個々の格子欠陥が形成するミクロなものが集成して、マクロな色調という目に見える結果を示すものである。また合成結晶と異なり、生まれも育ちも違い、かつその生成条件も不明な天然のダイヤモンドは、同一の放射線照射・熱処理を行っても必ずしも同じような色調になるとは限らない。なお天然のカラーダイヤモンドと人工着色ダイヤモンドは、分光吸収スペクトルの形状や吸収ラインから区別できる。　　　一方、無色のダイヤモンドも合成サファイアもγ線や熱中性子の照射では着色せず、速中性子や荷電粒子の照射によって着色し、照射線量と特定の波長の光の反射率の指数関数的な関係から超小型大線量検出器としても利用できる。無色の合成サファイアはダイヤモンドと同様これらの照射でオレンジ色になるが、ダイヤモンドより着色し難いので高線量の領域で使用できる。即ち耐放射線性が高いので、高線量放射線場における窓ガラスや光学レンズとしての利用に適している。コメント　　　　：　日本では放射線着色ダイヤモンドは試作段階で少ないが、最近海外で商業的に生産されて我が国にかなり輸入されており、その鑑別上参考になる。原論文１ Data source 1：陽子線照射によるダイヤモンドの着色試験梅田巌ジュエリーラボウメダ、〒413 熱海市熱海1739-34-904 放射線と産業 No.67 (1995) 原論文２ Data source 2：ダイヤモンドの放射線着色梅田　巌、飯田　孝一* 、ジュエリーラボウメダ、〒413 熱海市熱海1739-34-904 、* 日本彩珠宝石研究所〒110 東京都台東区上野5-11-7 司宝ビル放射線と産業 No.63 (1994) 原論文３ Data source 3：放射線によるダイヤモンドとサファイアの着色試験梅田　巌ジュエリーラボ　ウメダ、〒413 熱海市熱海1739-34-904 日本原子力学会誌 Vol.35, No.6 (1993) 原論文４ Data source 4：ダイヤモンドの人工着色梅田　巌ジュエリーラボ　ウメダ、〒413 熱海市熱海1739-34-904 NEW DIAMOND 26, Vol.8 No.3 (1992) 原論文５ Data source 5：ジュエリーにおける放射線利用梅田　巌ジュエリーラボ　ウメダ、〒413 熱海市熱海1739-34-904 原子力工業,40,(7)(1994) 参考資料１ Reference 1：ダイヤモンドの人工着色試験梅田　巌、飯田　孝一* ジュエリーラボウメダ、〒413 熱海市熱海1739-34-904 、* 日本彩珠宝石研究所〒110 東京都台東区上野5-11-7 司宝ビル日本宝石学会誌 Vol.15 No.1-4 (1990) 参考資料２ Reference 2：ファンシーカラーダイヤモンドの分光吸収スペクトルと紫外線による蛍光梅田　巌、飯田　孝一* ジュエリーラボウメダ、〒413 熱海市熱海1739-34-904 、* 日本彩珠宝石研究所〒110 東京都台東区上野5-11-7 司宝ビル日本宝石学会誌 Vol.16 No.3-4 (1991) 参考資料３ Reference 3：原子炉を用いたダイヤモンドの人工着色梅田　巌、飯田　孝一* ジュエリーラボウメダ、〒413 熱海市熱海1739-34-904 、* 日本彩珠宝石研究所〒110 東京都台東区上野5-11-7 司宝ビル日本宝石学会誌 Vol.17 No.1-4 (1992) キーワード：ダイヤモンド、サファイア、格子欠陥、放射線照射着色、分光吸収分析、照射線量効果、照射後熱処理 diamond, sapphire, lattice defect, irradiation coloring, spectroscopy, irradiation dose effects, post irradiation heat treatment 分類コード：010109
放射線利用技術データベースのメインページへ