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作成: 1997/01/03 須郷 高信

データ番号   :010024
放射線グラフト重合法による繊維状吸着材の開発
目的      :繊維状吸着材の開発とその特性
放射線の種別  :電子,
放射線源    :電子加速器 1.5MV
線量(率)   :200kGy
利用施設名   :日本原子力研究所高崎研究所 2号加速器
照射条件    :窒素雰囲気、室温
応用分野    :環境保全、機能材料創製

概要      :
 既存の繊維素材に放射線前照射グラフト重合技術を応用してイオン交換基を導入し、有害ガスの吸着材を合成した。アンモニアなどの塩基性ガスの吸着にはスルホン酸型強酸性イオン交換基が有効であり、アンモニアガスはスルホン酸基と1対1のモル比で効率的に吸着された。スルホン酸基にNi,Cu,Co,Zn,Mnなどの2 価金属を配位させた樹脂はアンモニアとアンミン錯体を形成し、スルホン酸基単独よりも2 から6 倍の吸着容量が得られた。

詳細説明    :
  
1.繊維状吸着脱臭材の製造
 繊維状イオン交換体合成のフローチャートを図1 に示す。


図1 繊維状イオン交換体合成のフローチャート(原論文1より引用)

 ポリエチレンやポリプロピレンなどの既存の繊維素材に、あらかじめ電子加速器を用い、加速電圧1.5MV,電子線電流1mA,コンベア速度2.3m/minで200kGy照射した後、目的のイオン交換基に合ったグラフト重合を行なった。強酸性カチオン交換繊維はスチレンをグラフト重合した後、クロルスルホン酸でスルホン化した。弱酸性カチオン交換繊維はカルボキシル基を含有するアクリル酸をグラフト重合して得られた。強塩基性及び弱塩基性アニオン交換繊維はクロルメチルスチレンをグラフト重合した後、トリメチルアミンやジメチルアミンで4 級化及び3 級化反応で得られた。

2.ガス吸着特性
 スルホン酸型強酸性イオン交換繊維はアンモニアガスに対して30〜40分で吸着平衡に達する。吸着平衡に達したイオン交換繊維を減圧脱気すると物理的に表面吸着されたアンモニアが脱離し、化学的にイオン交換されたアンモニアの吸着量が得られる。スルホン酸基濃度とアンモニアガスの化学吸着量の関係を図2 に示す。


図2 スルホン酸基濃度とアンモニアガスの化学吸着量の関係(原論文1より引用)

 イオン交換吸着されたアンモニアガスはスルホン酸基と1対1のモル比で吸着され、スルホン酸とアンモニアの中和反応が効率的に起こっていると推察された。スルホン酸基にNi,Cu,Co,Zn,Mnなどの2 価金属を配位させた樹脂はスルホン酸基単独樹脂と比較して吸着速度はやや遅くなる傾向にあるが飽和吸着量は2 〜6 倍大きくなった。スルホン酸基にNiを配位させた量とアンモニアの飽和吸着量の関係を求めた結果、この図の勾配からNiの配位数とアンモニアとのモル比は6 となり、(R-SO3)2- Ni +6NH3→(R-SO3- )2- [Ni(NH3)6]2+ の化学反応が成立し、Niのヘキサアンミン錯体が生成したと考えられる。  
 法定悪臭物質のトリメチルアミンもアンモニアと同様に市販の脱臭用活性炭などと比較して50倍以上の吸着性能を示した。
  
 硫化水素などの酸性ガスの吸着は強塩基性イオン交換樹脂が用いられるが、空気中では多量の炭酸ガスの影響で吸着性能は全く認められない。放射線グラフト重合で得られた表面積の大きい強塩基性イオン交換繊維に有機金属化合物を配位させることにより、炭酸ガスの影響を受けない酸性ガス吸着性能に優れた脱臭材の合成技術を確立した。
  
3.実用化に向けて
 放射線グラフト重合法による製造技術の特徴及び得られたイオン交換繊維の特性を表1 に示す。

表1 製造技術の特徴及びイオン交換繊維の特性(原論文1より引用)
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<合成法の特徴>
(1)各種の形状の素材に機能を付与できる
   (繊維、織布、不織布、マットなど)
(2)放射線照射工程とグラフト重合工程の分離が可能
(3)気相ブラフト法の応用により洗浄工程を省略できる
<性能の特徴>
(1)吸着速度が大きいためガス吸着材への応用可能
(2)流動抵抗が小さい
(3)活性炭に比べアミン系ガスの吸着性能が大きい
(4)静電吸着による微粒子除去能力が大きい
(5)活性炭に比べ除菌能力に優れている
(6)乾燥しても劣化しない(微粒子発生なし)
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 この技術を応用して得られた繊維状イオン交換体を用いて、トイレ臭、食品の腐敗臭の除去や密閉された車内、会議室、劇場、オフィスなどの有害臭気成分の除去を目的とした空気清浄器の高性能化、コンパクト化が可能となり、快適な生活空間が提供されるだけでなく化学、食品、原子力などの工業分野など幅広い応用が期待される。
  

コメント    :
 強酸性カチオン交換繊維の合成でスルホン酸基を導入する方法はクロルスルホン酸がステンレスを腐食させる程の強酸化剤のため現在ではグリシジルメタクリレートをグラフト重合した後、亜硫酸ソーダ水溶液でスルホン基を導入する温和な方法で企業化が進められている。放射線グラフト重合法で合成した繊維状イオン交換フィルターは従来の技術では除去不能であったppb オーダーの極微量の有害気体成分の除去に優れているため、超 LSI製造設備のスーパークリーンルーム用ケミカルフィルターとして実用化されている。

原論文1 Data source 1:
放射線グラフト重合法による繊維状吸着材の開発
岡本 次郎
日本原子力研究所高崎研究所、〒370-12 群馬県高崎市綿貫町1233
化学経済 1月号,P88(1989)

キーワード:放射線グラフト重合、機能材料、吸着材料
radiation grafting, functional material, adsorbent
分類コード:010203

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