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作成: 1996/10/18 吉井 文男

データ番号   :010023
シクロヘキサンの脱水素反応における金属担持触媒へのガンマ線の照射効果
目的      :金属担持触媒存在下で照射したシクロヘキサンの放射線分解生成物の分析と生成機構に関する研究
放射線の種別  :ガンマ線
放射線源    :3.6 PBq ガンマ線照射セル
線量(率)   :線量率7.5 Gy/s、 線量54 kGy
照射条件    :照射温度、350℃ 、 470℃、 Ar中100℃
応用分野    :化学工業

概要      :
 金属担持触媒である0.6-8%Pt/Al2O3、1%Pt/MS-5A、1%Ni/Al2O3、1%Ni/MS-5Aの存在下でのシクロヘキサンの放射線分解について研究した。放射線分解の全生成物量は触媒の存在に依存しないが、生成物のアルカンとアルケンの割合が異なってくる。照射によって生成したアルケンに触媒が保持していた水素(spill−overhydrogen)が付加してアルカンに変わる。

詳細説明    :
  
 シクロヘキサンを触媒も放射線も使わないで500℃のような温度で加熱すると脱水素反応によりベンゼンが生成する。白金を使うと低い温度で脱水素反応が起こり、0.1%の収率でベンゼンが生成する。種々の金属触媒存在下での100℃加熱とその条件で照射した場合の脱水素反応によるベンゼン収率は、両者あまり変わらず照射の効果は顕著に現れない。一方、室温での照射シクロヘキサンの放射線分解生成物は、主にエチレンとプロピレンであり、僅かに飽和炭化水素が生成する。図1は触媒存在下で照射した場合の放射線分解生成物を示した。


図1 Yield of fragment products formed from 1μl pulse of cyclohexane upon irradiation with a dose rate 7.5Gy/s.(原論文1より引用)

 金属担持酸化物触媒存在下の照射と触媒の存在しない照射とでは、分解生成物の成分には違いは認められないが、生成物の割合が異なる ニッケルや白金を担持した酸化物の存在下で照射を行うと、エチレンやプロピレンのようなアルケンが減少して、エタンやプロパンのようなアルカンが生成しやすくなる。これはアルケンに水素が付加したものであるため、ニッケルや白金担持酸化物触媒存在下の照射のときの水素源について調べた。水素源としては4つほど考えられる。(1)シクロヘキサンの放射線分解、(2)吸着水、(3)シクロヘキサンの解離吸着(4)金属担持酸化物の水素雰囲気中での前処理(spill-over hydrogen)である。これらについて詳細に調べた結果、(4)に起因してアルカンが生成しやすくなることが分かった。水素雰囲気下の前処理中に金属担持酸化物が保持していた水素がアルケンに付加したことによる。

コメント    :
 触媒存在下で照射を行うと触媒のない照射に比べ放射線分解生成物が異なるという興味ある論文である。これは廃プラスチックから有用物質の回収を行うなどの開発に対し有用な知見である。

原論文1 Data source 1:
Effect of Gamma-Radiation on Supported Metal Catalysts of Cyclohexane Dehydrogenation.
I. Gyorgy, Gy. Szauer, G. Foldiak, and Z. Paal
Institute of Isotopes of the Hungarian Academy of Sciences, H-1525 Budapest, P. O. Box 77, Hungary
Zeitschrift fur Physikalische Chemie Neue Folge, Bd. 132, S. 241-249 (1982)

キーワード:シクロヘキサン、金属触媒、脱水素反応、ガンマ線、アルカン、アルケン、水素付加、放射線分解
cyclohexane, metallic catalysts, dehydrogenation reaction, gamma rays, alkane, alkene, hydrogen addition, radiolysis
分類コード:010203

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