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作成: 1996/12/26 竹下 英文

データ番号   :010022
タイヤ製造における電子線照射利用
目的      :タイヤ製造における電子線照射利用技術についての解説
放射線の種別  :電子
放射線源    :電子加速器(1-5MV)
線量(率)   :0-50kGy
応用分野    :工業

概要      :
 タイヤ製造における電子線利用技術について放射線化学の基礎から実際の製造装置や線量計測に至るまで簡略に解説している。

詳細説明    :
  
 ゴム産業、特にタイヤの製造では、各種部材のグリーン強度を高めるため電子線照射による部分的な橋かけを前加硫の手段として利用している。
  
 放射線によるゴムの加硫は1950年から知られているが、工業的に実用化されたものは多くない。これは、ガンマ線を用いた放射線加工では、他の方法と比べコスト面で競争力がなかったためである。しかし、現在ではガンマ線に代わって電子加速器を用いた照射加工が、電線やシート製品など多くの分野で利用されている。タイヤ製造では、電子線による前加硫を部品の寸法精度を向上させる手段として用い、グリーン強度を損なわずに天然ゴムを合成ゴムで置き換えられる。前加硫によって部品の成形性や加硫性が向上し、そのため薄くできるので原料を大幅に節約できるとともに組立工程の自動化を容易とし生産速度の向上に寄与している。前加硫を実施している部材としては、インナーライナー、プライ、サイドウオール、チェーファーストリップ、ベニアストリップおよびトレッドプライ・スキムなどが挙げられる。
  
 ゴムの製造工程では種々の特性を持たせるために配合という手段が用いられる。電子線照射での配合方法は、過酸化物による架橋の場合と同じである。したがって、酸性充填剤は好ましくない。なお、充填剤はコンパウンドの密度を増すため、電子線の透過深さが減少する。アクリル系モノマーに代表される多官能モノマーを加えると放射線感受性が増すので、必要な線量を低減できる。ラジアルタイヤのインナーライナーを例に電子線加工の詳細を以下に示す。
  
 ラジアルタイヤの製造では特に厳密な寸法精度が要求される。インナーライナーのグリーン強度としては、伸びが100-300%の範囲で引張り応力―伸び曲線の傾きが正であることが必要である。ハロゲン化ブチルゴムをベースにしたインナーライナーは、十分な曲げ寿命と耐熱性、ならびに空気保持性に優れているが、グリーン強度が十分ではない。部分的に天然ゴムで置き換えればグリーン強度は増加するが、反対に空気および水分に対するバリア性が低下する。電子線照射では、タイヤ性能を損なうことなくハロゲン化ブチルゴムの部分的な橋かけによるインナーライナー用配合ゴムのグリーン強度の改善だけでなく、十分な接着性を保持するように前加硫の程度を抑えることが必要である。


図1 Green strength of irradiated inner liner compounds(原論文1より引用)



図2 Tack to self of irradiated inner liner compounds(原論文1より引用)

 図1および図2は、それぞれ電子線で50kGyまで照射した2種類のハロゲン化ゴムベースのインナーライナー用配合ゴムのグリーン強度および粘着性を示したものである。これらの結果からグリーン強度と粘着性の最適バランスは、塩素化ブチルでは10-15kGy、臭素化ブチルでは10-25kGyの線量範囲であると言える。照射によってグリーン強度は改善できるが、加硫製品の引張り強度は減少する。20kGyまでの最適線量範囲では減少の程度は許容範囲内であるが、50kGyでは減少量がもとの1/3に及ぶこともある。幸い、インナーライナーの性能としては引張り強度は、それほど重要でない。
  
 試験温度が100度の場合は、粘着性は照射処理によって減少する。全般的に、臭素化ブチルの粘着性が優れている。10kGy以下の線量では、臭素化ブチルの疲労破壊耐性は改善されることも注目される。臭素化ブチルのインナーライナー配合ゴムの疲労破壊耐性が、エージングの有無にかかわらず改善されることは、タイヤの性能を向上させることになる。照射は塩素化ブチルの配合ゴムのエージング耐性に悪影響を及ぼすが、臭素化ブチルではほとんど影響しない。

原論文1 Data source 1:
Application of Electron Beam Radiation Technology in Tire Manufacturing
Mohammed S.A.H., Walker J.
Polysar Limited, Sarnia, Ontario, Canada N7T 7M2
Rubber Chemistry and Technology, Vol.59, p.482(1986)

キーワード:電子線、タイヤ、グリーン強度、ゴム、ラジアルタイヤ
electron beam, tire, green strength, rubber, radial tire
分類コード:010104

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