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作成: 1996/11/12 工藤 久明

データ番号   :010021
エポキシを母材とする繊維強化樹脂の放射線劣化
目的      :繊維強化樹脂の放射線劣化のメカニズム解明
放射線の種別  :ガンマ線,電子
放射線源    :コバルト60ガンマ線源、電子加速器
線量(率)   :ガンマ線;3.5kGy/h,2MGy、電子線;0.15kGy/s,2MGyおよび5kGy/sec、120MGy
利用施設名   :Isotope Division of Bhabha Atomic Research Centre, Bombay、日本原子力研究所高崎研究所
照射条件    :室温・大気中
応用分野    :原子力工学、核融合工学、航空工学、宇宙工学

概要      :
 エポキシ樹脂を母材とする数種の繊維強化樹脂に、ガンマ線または電子線照射し、引張り試験・曲げ試験、および超音波顕微鏡(SAM)・走査型電子顕微鏡(SEM)による試料の損傷観察を行った。曲げ強度や引張り破断強度は照射により低下した。照射されたGFRPでは、SAM観察によって干渉縞などが見られ、界面の剥離やマイクロクラックの発生がわかった。またSEM観察によって、繊維と樹脂の接着性が低下していることがわかった。

詳細説明    :
  
1.エポキシ樹脂をマトリックスとするGFRPの引張り試験
1.1.ガンマ線照射試験
 2MGyまで照射した後の引張り試験では、変位-荷重曲線から、荷重が240N以下では変形は弾性的であったが、240Nを越えるとマイクロクラックの開始や繊維の引き抜きに由来すると思われる非弾性的挙動が見られた。破断強度は、1MGyを越えると初期値から低下した。破断伸びは1.4MGyまでは線量とともに増加し、1.4MGyで極大値を示した後は線量とともに低下した(図1)。低線量域での破断伸びの増加は分子鎖がルースになることに、高線量域での破断伸びの減少はマトリックス中の架橋により複合材が脆くなったことによる。


図1 Variation of strength and elongation with doses of gamma and electron irradiation.

1.2.電子線照射試験
 変位-荷重曲線は荷重が320Nとなるまで弾性を示した。破断強度と伸びは、0.9MGyまでは、分子鎖間の架橋により増加するが、それ以上の線量では分子鎖の切断により減少した。
  
1.3.ガンマ線照射と電子線照射の比較
 破断強度はほとんどの線量で、ガンマ線、未照射、電子線の順に大きくなった。破断伸びでは未照射、電子線、ガンマ線の順で大きくなったが、1-1.5MGyの範囲で伸びが増加しているので、延性が増している。1MGy照射時では、試験片が脆くなり始め、弾性変形を示さなくなるので、1MGyを境にGFRPが劣化し始めると言える。

2.ジアミノジフェニルメタンで硬化したビスフェノールA系エポキシ(ビスフェノールAのジグリシジルエーテル)を母材とするFRPの曲げ試験および超音波顕微鏡(SAM)観察
2.1.三点曲げ試験
 電子線照射による曲げ強度の変化(図2)では、30-60MGy照射後から強度が減少し始めたが、GFRPと比較してCFRPの方がより高い線量から劣化し始めた。


図2 Flexural strength for GFRP and CFRP vs. absorbed dose.(原論文3より引用)

2.2.超音波顕微鏡(SAM)観察
 GFRPでは、60MGy以上の照射でSAM像に繊維束に輪郭が見られ、繊維と樹脂の界面で剥離が生じていること、さらに大線量では樹脂層に干渉縞が見られ、マイクロクラックが発生していることがわかった。同じ母材のCFRPでは電子線120MGy照射までの範囲で明瞭な違いがなかった。

3.ジアミノジフェニルスルホンで硬化した4官能エポキシ(テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン)を母材とするFRPのスリット付き曲げ試験および走査型電子顕微鏡(SEM)観察
3.1.スリット付き曲げ試験
 このFRPのスリット付き曲げ試験による層間破壊靭性は、初期値はGFRPの方がCFRPより大きかったが、照射によって樹脂が脆くなることにより減少する。減少はGFRPの方が著しく、60MGy以上の照射によってGFRPとCFRPとで同様の値になった(図3)。


図3 Dose dependence of Mode II interlaminar fracture toughness, GIIc(103rad=10MGy).(原論文2より引用。 Reprinted from Takeda N., Tohdoh M., Takahashi K.: Degradation Damage Mechanism of Epoxy Matrix Composites Exposed to High-Energy Electron Irradiation, Proc. 4th Japan-US Conf. On Composite Materials, with permission from Technomic Publishing Co., Inc., copyright [1989])

3.2.走査型電子顕微鏡(SEM)観察
 SEM観察によって、GFRPでは、照射されると樹脂自体が脆くなることに加え、繊維表面のシランカップリング剤のカップリング力低下により繊維と樹脂の接着性が低下していることが分かった。CFRPでは、120MGy照射した試料でも破壊は樹脂内で起こり、繊維と樹脂の界面は劣化していなかった。GFRPの化学的接着と違ってCFRPでは繊維表面の粗さによる物理的接着によって層間せん断に対する耐性を発現させていることによる。

コメント    :
 引張り試験を行ったGFRPは、試料の組成に関する詳細が明らかにされておらず、耐放射線性を他報と比較議論することは出来ない。コバルト60ガンマ線と2MeV電子線とで照射効果に差があるとしているが、無いとする報告(参考資料1)もある。照射雰囲気が明らかにされていないが、酸素存在下で照射されたと思われる。GFRPとCFRPの耐放射線性の比較では、樹脂と繊維の接着力による説明だけでなく、繊維を介したエネルギー移動による保護機構によってCFRPが耐放射線性に優れることが宇田川(参考資料2)によって提案されている。

原論文1 Data source 1:
Effect of Gamma and Electron Irradiation on the Mechanical Strength of Glass Fibre Reinforced Poymer (GFRP)
Dubey V., Bajpai R., Datt S. C.
Department of Postgraduate Studies and Research in Physics, Rani Durgavati University, Jabalpur 482 001, India
Polymer Testing, vol. 11, 61-70 (1992)

原論文2 Data source 2:
Degradation Damage Mechanism of Epoxy Matrix Composites Exposed to High-Energy Electron Irradiation
Takeda N., Tohdoh M., Takahashi K.
Research Institute for Applied Mechanics, Kyushu University, 6-1 Kasuga-Koen, Kasuga, Fukuoka 816 Japan
Proc. 4th Japan-US Conf. On Composite Materials,(1989), pp. 331-338

原論文3 Data source 3:
ビスフェノールA系エポキシを母材とするGFRPとCFRPの耐放射線性
宇田川 昂、瀬口 忠男
日本原子力研究所高崎研究所、〒370-12 群馬県高崎市綿貫町1233
電気学会絶縁材料研究会資料EIM-90-121(1990)

参考資料1 Reference 1:
高分子複合材料の放射線照射効果
江草 茂則
日本原子力研究所高崎研究所、〒370-12 群馬県高崎市綿貫町1233
放射線化学、55号 page 13(1992)

参考資料2 Reference 2:
繊維強化プラスチックの放射線劣化に及ぼす繊維の影響
宇田川 昂
日本原子力研究所高崎研究所、〒370-12 群馬県高崎市綿貫町1233
高分子論文集、vol.49 page 551(1992)

キーワード:繊維強化樹脂、放射線劣化、曲げ試験、引張り試験、界面
fiber reinforced plastics, radiation degradation, bending test, tensile test, interface
分類コード:010103

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