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作成: 1997/01/28 杉本 雅樹

データ番号   :010018
放射線不融化ポリカルボシラン繊維からのセラミックス窒化ケイ素繊維の合成
目的      :耐熱、耐放射線性窒化ケイ素繊維の開発研究
放射線の種別  :電子
放射線源    :電子加速器 (2MeV,15mA)
線量(率)   :10〜15MGy, 2〜5kGy/s
利用施設名   :日本原子力研究所高崎研究所1号加速器
照射条件    :ヘリウム中
応用分野    :耐熱耐放射線性絶縁材料、セラミックス基複合材料(CMC)

概要      :
 有機高分子であるポリカルボシラン繊維を放射線で不融化し、アンモニア中で焼成するとセラミック窒化ケイ素繊維を合成できた。この繊維は、空気中1300℃で1時間の熱処理後も1GPa以上の強度を継続し、絶縁抵抗もほとんど変化しなかった。

詳細説明    :
  
 窒化ケイ素繊維はケイ素系の高分子を前駆体としてアンモニア中で焼成することにより合成される。この過程を図1に示す。ポリカルボシラン(PCS)は分子量約2000のケイ素系高分子で、これを溶融紡糸する事により直径20μmのPCS繊維を作成する。これに不活性ガス中で電子線を照射することにより、PCSの分子間で架橋が起こり、溶融紡糸温度以上に加熱されても繊維形状が保持できるようになる。


図1 放射線を利用した窒化ケイ素繊維の製造プロセス(原論文1より引用)

 こうして不融化されたPCS繊維をアンモニアガス中で熱処理すると、500℃から窒化反応が始まり、メタンと水素を発生して約700℃の温度でほぼ終結する。しかし、この状態で繊維を空気中に取り出すと、繊維に反応活性があり、酸素が多量に取り込まれる問題があった。
  
 そこで1000℃までアンモニア中で加熱し、さらに1300℃まで窒素中で加熱することにより繊維が安定化され酸素の導入が抑制されることが明らかになった。この窒化反応機構を元素分析及び赤外分光から考察すると、PCS分子間のSiがNHで結合され、その後Si-CH-SiのCHがNHで置換され、焼成温度の上昇につれてHが離脱して窒化ケイ素に変換する。ここで700℃付近では大部分のCHがNHで置き換わっているが、繊維中にSi-NHの分子結合の型で残っており、これに空気中の酸素や水が反応して、繊維に酸素が取り込まれるものと推定される。


図2 窒化ケイ素繊維の引張強度と絶縁抵抗の高温熱処理効果 空気中において各温度で1時間熱処理した後、室温で測定(原論文1より引用)

 2段階の焼成で作成された窒化ケイ素繊維は、微結晶を含む非晶質繊維で、室温における繊維強度は2.5GPaであり、電気絶縁抵抗は1013Ω・cmのオーダーであり、絶縁材料として十分な値を持っている。この繊維を空気中で1300℃までの温度に1時間曝した後、室温で測定した強度と電気抵抗を図2に示す。比較のために石英ガラス繊維とアルミナ繊維を同じ条件で処理した際の値を併記する。強度は熱処理温度が上がるに従って徐々に低下するが、1300℃で熱処理した後でも約1.5GPaを保持している。また絶縁抵抗では1300℃の熱処理でもほとんど変わらないことが確認できた。これに対して、石英ガラスやアルミナ繊維では絶縁抵抗の絶対値が低いこと、また石英ガラスでは900℃以上で強度が著しく低下するので1000℃での使用には適さない。

コメント    :
 この窒化ケイ素繊維は、耐熱性及び電気絶縁性を備えた新規材料として発展が期待できる。窒化ケイ素繊維の製造工程において放射線による無酸素不融化は繊維の耐熱性の向上に大きく寄与している。しかし、窒化反応のメカニズムなど必ずしも明確になっていない点があり、実用化に向けてさらに最適な合成条件を探求する必要が有ると思われる。

原論文1 Data source 1:
核融合炉材料への応用としての窒化ケイ素繊維の開発
瀬口 忠男、岡村 清人、神村 誠二
日本原子力研究所高崎研究所材料開発部、大阪府立大学工学部、日立電線(株)パワーシステム研究所
ニューセラミックス(1995) No.11 pp.13-16

原論文2 Data source 2:
プレカ-サ-SiC繊維およびSi3N4繊維の合成
岡村 清人
大阪府立大学工学部
「粉体および粉末冶金」第39巻第6号 1992年6月 P441

原論文3 Data source 3:
放射線利用による耐熱性セラミック繊維の研究開発
瀬口 忠男、岡村 清人
日本原子力研究所高崎研究所材料開発部、大阪府立大学工学部
放射線化学 P43

キーワード:セラミックス基複合材料、窒化ケイ素繊維、ポリカルボシラン、放射線不融化、反応機構
ceramic matrix composite, silicon nitride fiber, polycarbosilane, radiation curing, reaction mechanism
分類コード:010103

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