放射線グラフト重合

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作成： 1997/01/04 須郷　高信データ番号　　　：010013 放射線グラフト重合目的　　　　　　：高分子の放射線グラフト重合及びその特徴放射線の種別　　：ガンマ線,電子放射線源　　　　：電子加速器:200keV ～5MeV, Co-60: 1～10kGy/h 線量（率）　　　：10kGy ～ 300kGy 照射条件　　　　：大気中～窒素雰囲気、室温以下応用分野　　　　：機能材料創製概要　　　　　　：　放射線グラフト重合法は繊維や粒子、膜などの既存の素材の特性を損なうこと無く新しい機能を付与する手法として優れている。例えば、従来のフィルターは細孔の篩効果を利用して粒子などを濾過する物理的濾過分離機能に優れているが、溶液に溶けているイオンを分離する能力を持たない。放射線グラフト重合の応用により従来のフィルターの細孔にイオン吸着機能を導入し、物理的濾過分離機能と化学的吸着分離機能の複合機能を有する高機能フィルターの合成が可能となる。詳細説明　　　　：　　 1. 放射線グラフト重合法とは　放射線グラフト重合とは放射線の作用を利用した化学の接ぎ木の技術である。放射線グラフト重合の模式図と陽イオン交換体の合成工程図を図1に示す。図1　放射線グラフト重合の模式図。（原論文1より引用）　ポリエチレンなどの高分子素材に放射線を照射するとC-H 結合が切れてラジカル(C・) が生成する。このラジカルが反応の活性種となり、二重結合 (ビニル基) を持つ反応液と接触すると二重結合が切れてラジカルと結合して接ぎ木の様に枝が成長し、高分子素材が主鎖となり、グラフト重合鎖が側鎖 (接ぎ木) となる。図1はポリエチレン素材にスチレンをグラフト重合した後,陽イオン交換基(官能基)を導入する工程である。この技術を応用して高分子のフィルター素材にイオン交換基 (官能基) を持つグラフト重合鎖を導入すると物理的濾過分離機能と化学的吸着分離機能の複合機能フィルターが得られる。従来のイオン交換樹脂はスチレンとジビニルベンゼンを乳化重合法で架橋型粒子に合成した後、濃硫酸やクロルスルホン酸でスルホン化するため、イオン交換繊維や膜への成形加工は困難であるとともに、官能基の種類や構造に制約が多かった。放射線グラフト重合法はあらかじめ成形した膜や粒子、繊維、濾布、中空糸などにイオン交換基やキレート形成基を直接導入することができるため、従来法と比較してモジュール化など各種の形状に加工することが可能となり応用範囲の広いことが特徴である。　　放射線グラフト重合法を放射線の照射段階で分類すると同時照射法と前照射法の2法に分けられる。同時照射法は高分子素材とモノマー(反応液)を共存させて同時に照射する方法であり、グラフト重合と同時にモノマーの単独重合体が生成し易いため、その除去工程が必要となる。前照射法は放射線照射とグラフト重合を分離させる方式であり、照射と重合反応工程を専業化できる。我が国では照射専門企業が発達し、照射ラジカルの長期保存技術の確立により、前照射グラフト重合法での企業化が進められている。グラフト重合に適した放射線源としてはCo60のγ線と電子線が工業的に広く利用されている。Co60のγ線源は透過深度、すなわち照射できる基材の厚みが大きいため、長尺膜をロール状にしてバッチ法で照射する方法に適している。単位時間当たりの放射線強度(線量率)は電子線よりも低いため照射に要する時間が長い。　電子線源は照射線量率がγ線源の300 から1000倍と高く短時間照射が可能であるが、透過深度が小さいため、搬送装置を用いて薄膜を連続的に照射する方法に適している。図2　加速電子線の透過深度。（原論文1より引用）　加速電子線の透過深度は図2に示すように加速電圧に依存するため200keV～5MeV の加速器が一般的に利用され、被照射体の厚みや照射規模によって選択される。グラフト重合に必要な照射線量は一般的に10～300kGy程度であり、γ線で約10時間、電子線で10秒程度の照射時間を要する。グラフト重合に利用する放射線源は基材の厚みや形状、照射規模を考慮してγ線と電子線の特性を生かした選択が必要である。 2. 放射線グラフト重合法の特徴　放射線グラフト重合は次に示す幾つかの特徴を有し、目的の機能に応じて選択することができる。　　�既存の成形材料への機能の付与が可能。　�共グラフト重合や多段グラフト重合技術の応用で官能基の複合化が可能。　�加速電圧の選択と遮蔽技術の組合せにより反応の場のコントロールが可能。　�照射ラジカルの保存環境を制御することにより30日以上の長期保存ができるため、放射線照射工程とグラフト重合工程との分離が可能。　　コメント　　　　：放射線グラフト重合技術を応用して幾つかの技術の工業化が進められている。例えば、ポリエチレンにアクリル酸をグラフト重合した薄膜がアルカリ一次電池用隔膜として,1995年からほぼ100%採用されるようになった。放射線グラフト重合法で合成した繊維状イオン交換フィルターは活性炭等の従来技術では除去不能であったppb オーダーの極微量の有害気体成分の除去に優れているため、超 LSI製造設備のスーパークリーンルーム用ケミカルフィルターの主要製品として採用されている。原論文１ Data source 1：新しい分離機能材料の開発須郷　高信日本原子力研究所高崎研究所、〒370-12 群馬県高崎市綿貫町1233 空気清浄、Vol.34,No.2,p.1(1996) 参考資料１ Reference 1：猫とグラフト重合斎藤　恭一、須郷　高信* 千葉大学工学部機能材料工学科、〒263 千葉県千葉市稲毛区弥生町1-33、 *日本原子力研究所高崎研究所、〒370-12 群馬県高崎市綿貫町1233 丸善出版、化学セミナー: 猫とグラフト重合(1996) 参考資料２ Reference 2：放射線グラフト重合による分離機能膜の開発須郷　高信日本原子力研究所高崎研究所、〒370-12 群馬県高崎市綿貫町1233 日本海水学会誌,Vol.3,No.4,p.235(1993) キーワード：放射線グラフト重合、機能材料、イオン交換能、高機能フィルター、電池用隔膜 radiation grafting, functional materials, ion exchange ability, high functional filter, separator for battery 分類コード：010101
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