放射線利用技術データベースのメインページへ

作成: 1997/01/30 幕内 恵三

データ番号   :010012
放射線分解
目的      :高分子の放射線分解の概要と特徴
放射線の種別  :ガンマ線,電子
放射線源    :
応用分野    :廃PTFEからの微粉末製造、加硫ブチルゴム

概要      :
ポリマーの放射線分解について解説

詳細説明    :
  
 放射線分解とは、放射線の直接または間接的作用でポリマーの主鎖が切断され分子量が低下することを意味する。放射線の直接的作用による分解は、ポリマーの放射線照射で生成した励起分子及び励起分子の安定化過程で生成したポリマーラジカルの開裂による主鎖の切断による。このようにして分解される代表的なポリマーはポリテトラフルオロエチレン(PTFE)である。このほか、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)やポリイソブチレン(PIB) などモノマー単位の構造が -CH2-CRR- であるポリマーが放射線の直接作用で分解する。PMMAでは次ぎのような放射線分解機構が考えられている。先ず、放射線の直接作用で側鎖エステル部位のメチル基から水素が取れた側鎖ラジカルが生成する。次いでこの側鎖が脱離して3級ラジカルが生成し、最後に3級ラジカルがβ開裂して主鎖の切断が起きる。
 
 直接的分解は、ポリマー自身の性質によるが、照射温度の影響を受ける。一般に照射温度が高いほど照射効果は顕著になる。PIB のガラス転移温度(Tg)は-70℃であり、Tgより高い温度では分解のG値、G(s)は増加する。一方、PTFEの220 ℃まで照射温度を変えた実験では、温度とともに分子量が低下するが、照射線量が増加すると分解が抑制される。さらに高温の340 ℃での照射では橋かけが観察される。
 
 間接的な放射線分解は、生成したポリマーラジカルが酸素などと反応し、その結果として主鎖が切断されることによる。したがって、間接的分解では、雰囲気、線量率など照射時の条件ならびに試料の厚さの影響を受ける。雰囲気の影響では、酸素の効果が顕著で、放射線分解に酸化劣化による分解が加わり、放射線橋かけ型ポリマーでも分解(主鎖切断)が起きる。線量率と試料の厚さは、酸素存在下の照射で問題となる。線量率が低いほど、また試料が薄いほど酸化されやすく、主鎖切断が促進される。 放射線分解の実用化は廃PTFEからの微粉末製造が唯一のものである。これは、分解によってPTFEが脆化し、機械的操作で容易に粉末になることを利用している。微粉末PTFEは固体潤滑材として利用されている。中国では加硫ブチルゴムの放射線分解が実用化されている。

参考資料1 Reference 1:
Atomic Radiation and Polymers
A. Charlesby
Pergamon Press, Oxford(1960)

参考資料2 Reference 2:
Radiation Chemistry of Polymeric Systems
A. Chapiro
Interscience Publishers, New York(1963)

キーワード:放射線分解、線量率効果、酸化劣化、雰囲気、主鎖切断
radiation degradation, dose rate effect, oxidation degradation, atmosphere, mainchain scission
分類コード:010101

放射線利用技術データベースのメインページへ