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作成: 幕内 恵三 1997/02/06 改定 放射線利用技術データベース工業分野専門部会 2004/03/02

データ番号   :010011
放射線架橋
目的      :高分子の放射線架橋とその特徴
放射線の種別  :ガンマ線,電子
応用分野    :耐熱性電線・ケーブル製造、熱収縮チューブ製造、発泡プラスチック製造、タイヤ製造工程、ケイ素系セラミック繊維製造

概要      :
 放射線照射により、ゴムやプラスチックの高分子の分子間に新たな結合を誘起し、網目構造(ネットワーク構造)を形成させる。これを放射線架橋というが、「放射線橋かけ」ともいう。室温あるいはそれ以下の温度でも放射線架橋は進行するのが特徴であり、ゴムやプラスチックを熱で成形加工した後で放射線架橋が施される。架橋により高分子の流動性が抑制されるので、耐熱性の向上、形状記憶性の付与などに応用される。

詳細説明    :
架橋(橋かけ)とは、高分子の分子鎖の間に化学結合をつくり、網目の分子構造(ゲル)を形成させることである。架橋の方法として、硫黄を添加して加熱する方法がある。天然ゴムなど、二重結合を有する高分子鎖に適用され、歴史が長く加硫と称されている。過酸化物を添加して加熱する方法は、ポリエチレンなどのポリオレフィンに適用され、化学架橋と呼ばれている。加硫や化学架橋は熱化学反応であり、通常は成形加工と同時に行われる。
 
 放射線架橋は、高分子への放射線照射で分子鎖に反応活性種を誘起させ、分子間で新たな結合を形成させる方法である。この反応活性種は高分子の炭素-水素の結合が切断されて生じた炭素原子のフリーラジカルであり、室温あるいは低温においても十分に生成される。このフリーラジカルは分子運動によって互いに近接すると反応して分子間の結合が形成される。ゴムの分子運動は室温よりも低い温度で起こるので、室温での放射線照射で架橋が進行することになる。プラスチックにおいても、非晶部の分子運動が室温より低い高分子では、室温での照射により、非晶部で架橋が進行する。化学架橋では、加熱により過酸化物が熱分解して高分子から水素を引き抜きフリーラジカルが生成され、架橋が起こるが、この場合には過酸化物が分解する温度(100℃〜200℃)まで、架橋させる高分子を加熱する必要がある。
 
 高分子の分子構造(一次構造)によって、放射線照射で分子鎖が切断するものがある。ポリブチレン、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネ-ト、ポリα-メチルスチレン、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリサルホン、セルロースなどが切断型高分子であり、架橋による網目構造は形成されない。また、酸素など、高分子の生成されたフリーラジカルと反応性のある分子が十分に供給されると、分子鎖切断が起こり、架橋は阻害される。また、特殊な例として、放射線を照射する温度によって架橋と切断が入れ替わる高分子がある。PTFE、ポリサルホンはある特定の温度で架橋が進行し、ポリスチレンは切断に変わる。
 
 放射線架橋の特徴は、高分子にほぼ均一な分布で架橋が起こること、架橋の密度を容易に調整できること、高分子の形状に係わらず架橋できること、高分子の純度が保存されることである。高分子は架橋によって、高温での流動性が失われるので、温度を上げても材料としての形状が保持されることになり、実用的には耐熱性が向上することになる。また、高分子のガラス転移温度を上回る温度域では、弾性率(ヤングモジュラス)が増大し、破断時の伸びは低下する。プラスチックでは、降伏点強度が上昇するが破断時の強度は減少する場合が多い。
 
 放射線架橋の応用は、上記の特徴が発揮される分野であるが、高分子を成形加工した後に室温で架橋できることが、最大の利点である。高分子で絶縁した電線に放射線照射して架橋すると、高分子の被覆加工時の温度をはるかに超えても、被覆が保持されるので、家庭電化製品や自動車用電線の耐熱化へ応用(010032)されている。室温で放射線架橋したチューブを高温で伸張した状態で室温に冷却して形状を固定させ、これを加熱によって架橋時の形状に復元する性質(形状記憶効果)を利用した熱収縮チューブ製造へ応用(010062)、放射線架橋で高温での流動性を調整した発泡ポリエチレン製造へ応用(010062)、ケイ素系高分子の極細繊維を放射線架橋により不融化処理する高純度セラミック繊維の製造への応用(010016)など、数多くの放射線架橋が実用化されている。

参考資料1 Reference 1:
Atomic Radiation and Polymers
A. Charlesby
Pergamon Press, Oxford(1960)

参考資料2 Reference 2:
The Radiation Chemistry of Macromolecules.
M.Dole
Academic Press, New York, 1972(Vol.I) and 1973(Vol.II)

参考資料3 Reference 3:
Radiation Chemistry of Hydrocarbons; Studies in Physical and Theoretical Chemistry 14.
G.Foldiak (Ed.)
Elsevier, New York, 1981

参考資料4 Reference 4:
Temperature Effects on Radiation Induced Phenomena in Polymers
Y.Tabata, A.Oshima, K.Takashika, T. Seguchi
Radiat.Phys.Chem. Vol.48, 1996, 563-568

キーワード:放射線橋かけ、多官能性モノマー、ゲル生成、橋かけ促進剤、耐熱性向上
radiaition crosslinking, multifunctional monomer, gel formation, crossliking accelerating agent, improvement of heat resistance
分類コード:010101

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