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作成: 1996/02/01 佐々木 隆

データ番号   :010010
西独における電子線硬化による紙・フィルム加工技術の開発
目的      :紙・フィルム加工における電子線硬化技術の応用
放射線の種別  :電子
放射線源    :スキャン型電子加速器(ESH150)
線量(率)   :15-40 kGy
利用施設名   :ミュンヘン高専電子線照射施設
照射条件    :窒素気流中、室温
応用分野    :ラミネーション

概要      :
 無溶剤の加工技術である電子線硬化法を紙・フィルム加工の分野に適用する目的で、塗工・ラミネート技術における種々の問題点を解決すべく、ミュンヘン高専照射施設で数多くの研究開発を進めた。紙、フィルム類のシリコーン剥離処理、フィルム/紙やフィルム/フィルムのラミネーションの技術を確立した。

詳細説明    :
  
 環境保全のための規制の関連で、無溶剤の加工システムに強い関心が寄せられている。電子線(EB)硬化による照射加工は従来法にくらべて、1)溶剤の揮散がなく、環境調和型である、2)熱乾燥不要、3)省エネルギー的、4)高速硬化(< 0.1s) 、5)硬化中に基材は加熱されない、6)製品が高性能、などの利点がある。
  
 低エネルギー電子加速器は1段加速方式で得られ、高圧電源もコンパクトである。エックス線は法的に人体に害が無いようなレベルに自己遮蔽が簡単にできる。Polymer-Physic(Durr)社(ESH 150)の電子加速器はマイクロプロセッサーを用いて真空度、電圧、電流を制御している。紙、フィルムなどのウェッブを照射するには図1のような配置にする。


図1 ウェッブ照射用加速器配置図。1:電子線、2:高電圧部、3:電子線導入管、4:電子射出窓、5:回転ドラム、6:試料出入部(原論文1より引用)

 EB硬化用配合物はオリゴマー、2及び3官能のモノマー、顔料などの種々の添加剤で構成されている。オリゴマーは市販品としてポリエステルアクリレート、エポキシアクリレート、ウレタンアクリレート、ポリエーテルアクリレートなどがあり、EB用配合物の主要成分(100 - 50%)で硬化フィルムの柔軟性、硬度、耐摩耗性、耐薬品性などの物性を付与する。モノマーは反応性希釈剤ともいわれ、配合物の粘度調整などに用いられ、高反応性のアクリレートが好まれる。最近では、低揮発性の反応希釈剤が第2世代モノマーとして上市されている。主な市販モノマーを表1に示す。

表1 主な市販モノマー(原論文2より引用)
Bezeichnung Abkurzung Funktiona-
litat
Hexandioldiacrylat HDDA 2
Trimethylolpropantriacylat TMPTA 3
Tripropylenglycoltriacylat TPGTA 3
Pentaerythrittetraacrylat PETA 4
 ミュンヘン高専の照射施設には、Solama 600型コータ/ラミネータ、コロナ処理装置、Durr社製スキャン型電子加速器ESH 150、IST Metz 社製紫外線照射装置が装備されている。塗工厚さは製品の仕様に応じて2-12g/m2に調節でき、トップコート、光沢加工、バリヤー性付与などに応用できる。更に、紙への直接メタライジング、化粧フィルム製造などが可能である。1981年にミュンヘン高専との連携で25社が参加した「ウェッブの放射線加工」のワーキンググループが結成され、開発研究を進めた。
 剥離処理:アクリル化シリコーンのEB硬化によって、室温で紙、フィルムへの剥離処理ができる。基材を加熱しないので、熱に弱いPE、軟質塩ビ、セロファン、EVAフィルム等を容易に扱える。フィルムの場合には、塗工量0.4 g/m2で、また、紙の場合には紙質により0.8-1.2 g/m2剥離処理できた。アクリル化シリコーンの硬化線量は15ー20 kGyであった。
  
 ラミネーション:紙/フィルム、フィルム/フィルム、紙・フィルム/アルミホイルの接着加工を試みた。結果を表2に示す。コロナ処理をしていないポリエステル(PET)フィルムにはどの基材も接着しなかった。しかし、コロナ処理をすることによりPE、延伸PPフィルムと良好な接着性を示した。アルミホイルと蒸着処理PETフィルム等の接着加工ではモノマー濃度を減らし、樹脂粘度を低下させるため高温で塗工することにより密着性が向上した。これは、モノマー濃度の低下が硬化収縮を少なくしたからである。

表2 接着加工試験結果(原論文2より引用)
Substrat 1 Substrat 2 Verbundfestigkeit
Papier

PETP
(ohne Corona)
PETP
(mit Corona)
PETP-X


PETP

oPP

PE
PE,PP
Al
alle ubrigen
Substrate
PP,oPP
PE,oPP opak
PP,oPP
PE,oPP opak
Al
PP,oPP
PE,oPP opak
PE
Al
Al
4
3-4
1

4
4
4
4
3-44
4
4
4
3-4
3-4
1 = schlechte Verbundfestigkeit, 2 = mittlere Verbundfestigkeit (gute Haftung jedoch Delamination moglich), 3 = gute Verbundfestigkeit(Delamination nur stellen weise moglich), 4 = optimale Verbundfestigkeit(keine Delamination des Verbundes moglich)
 照射加工品の物性:紙等は照射によって強度が低下するが、20-40 kGyの線量では基材の強度に影響ない。

コメント    :
このような開発研究が行われた結果、西独ではEBによるシリコーン剥離処理が実用化されるに至った。

原論文1 Data source 1:
Electronenstrahltechnik Moeglichkeiten derAnwendung in der Druckindustrie,
P. Holl,
Verpackungs-Rundschau, 1986(3), 214(1986).

原論文2 Data source 2:
Neue Entwicklungen in der Papier-und Kunstostoff-veredelung,
Knut Nitzl,
Adhasion, 1987(6), 20(1987)

キーワード:電子線キュアリング、紙、フィルム、剥離処理、ラミネーション、アクリル化オリゴマー、アクリル化シリコーン,
EB curing,paper,film,release,lamination,acrylate oligomer,silicone acrylate
分類コード:010303

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