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作成: 1996/02/13 堀野 祐治

データ番号   :010009
集束MeV重イオンビームのPIXE(粒子線励起X線分光法)への応用
目的      :収束(数ミクロン)重イオンビームによる局所元素分析
放射線の種別  :陽子,重イオン
放射線源    :タンデム加速器(1.5MeV)
フルエンス(率): 1.3〜15pA/9μm2
利用施設名   :大阪工業技術研究所
照射条件    :真空中、室温
応用分野    :材料分析

概要      :
 数μm に集束したエネルギー3MeVの炭素、シリコン、ニッケルの各イオンビームをアルミニウム等の様々な試料に照射してPIXE分析(粒子線励起X線分光法)を行った。これまでは陽子(軽イオン)が用いられてきたが、炭素イオンなどの重イオンを用いたのがここの特長である。その結果、X線の発生収率が入射イオンとターゲットとの組み合わせにけた違いに依存し、ターゲットに応じて入射イオンを選択することで分析感度が向上することが分かった。

詳細説明    :
  
 目的は、これまでほとんどが陽子、ヘリウムの軽イオンが用いられてきたPIXE分析(粒子線励起X線分光法)に、炭素イオンなどの重イオンビームを用いて材料表面近傍での元素分析の感度を向上させること、特に、集束イオンビームを用いて、局所的な分析感度の向上を目指している。
 
 実験は次の通りである。試料はアルミニウム、シリコン、銅、銀、金のターゲット及びシリコン基板上に蒸着した金薄膜(厚さ20nm)を用いた。これらの試料に集束したエネルギーが3MeVの炭素、シリコン、ニッケルの各イオンビームを照射し、発生したX線をSi(Li)半導体検出器で検出した。検出器には15μm のベリリウム箔をX線の入射ウィンドウとして用いており、エネルギー分解能は150eVである。照射は真空中で行い、その真空度は5x10-7Torrであった。重イオンビームの他に比較のため、従来から用いられている2MeVプロトン照射による測定も行っている。各ビームの大きさは 約3μm x 3μm で、ビーム電流は1.3から15pAであった。


図1 X-ray spectra of aluminium induced by focused 2MeV H+(A), 3MeV C2+(B), Si2+(C) and Ni2+(D) ion impact. (原論文1より引用。 Reproduced from Nuclear Instruments and Methods in Physics Research B77, 128-131(1993), Fig. 2(p.129), Mokuno Y., Horino Y., Kinomura A., Chayahara A., Kiuchi M., Fujii K., Satou M., Takai M., Application of MeV Heavy Ion Microprobes for PIXE Measurements; Copyright(1993), with permission from Elsevier Science.)

 図1にターゲットとしてアルミニウムを用い、各イオンを照射した場合のX線スペクトルを示す。プロトン、炭素イオンの照射の場合はアルミニウムのKα線、シリコン、ニッケルイオン照射の場合はアルミニウムのKα線の他に照射イオン自身からのシリコンのKα線、ニッケルのKα線がそれぞれ観察されている。


図2 X-ray yield of Al Kα, Si Kα, Cu Lα and Au Mα induced by focused 2MeV H+(circle), 3MeV C2+(square), Si2+(triangle) and Ni2+(cross) ion impact as a function of incident atomic number.(原論文1より引用。 Reproduced from Nuclear Instruments and Methods in Physics Research B77, 128(1993), Fig. 4(p.130), with permission from Elsevier Science.)

 図2に各試料からの規格化されたKα線のX線収量をイオン種をパラメーターにプロットしたものを示す。各試料で、イオン種に応じてX線の収量が数桁に渡って変化しており、目的とする試料により、励起のイオン種を変えることで感度が変えられることが分かる。例えば、アルミニウムを分析しようとした場合、シリコンイオンビームを用いると感度があがる。これは、標的原子と入射イオンとの衝突の際に分子軌道を形成し、離れる際に、標的に空孔を形成するからで、分子軌道効果と呼ばれ、標的原子と入射イオンの原子番号が近接するときに強く起こる。

表1 The minimum detectable weight of gold in silicon. (原論文1より引用。 Reproduced from Nuclear Instruments and Methods in Physics Research B77, 128(1993), Tab. 1(p.131), with permission from Elsevier Science.)
IncidenceWeight〔g〕
2 MeV H+ 3.4x10-13
3 MeV C2+1.3x10-13
3 MeV Si2+3.6x10-13
3 MeV Ni2+4.0x10-13
 表1にシリコン基板上の金薄膜を用いて決定した、ミクロンオーダーに集束した各入射イオンビームによる金原子の最小検出重量をまとめている。これは金のMα線のピーク強度をNp、バックグランドをNbとしたとき、Np>3(Nb)0.5の関係から決定したものである。これから、3MeV C2+イオンビームを用いると、通常のプロトンの場合に比べ、約1/3だけ金原子の最小検出重量が向上するのが分かる。

コメント    :
1)普通、PIXE法では同時に多元素が定量的に計れることが特徴で、本方法ではその点が無くなるが、特定の元素が非破壊的に定量的に感度良く計れることが魅力である。

原論文1 Data source 1:
Application of MeV Heavy Ion Microprobes for PIXE Measurements
Mokuno Y, Horino Y, Kinomura A, Chayahara A, Kiuchi M, Fujii K, Satou M, Takai M
Osaka National Research Instutute, Ikeda, Osaka 563, Japan
Nuclear Instruments and Methods in Physics Research B77, 128(1993)

キーワード:PIXE、マイクロビーム、集束イオンビーム、重イオンビーム、高速イオンビーム,
PIXE, microprobes, focused ion beam, heavy ion beam, high energy ion beam
分類コード:010305

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