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作成: 1996/02/01 関口 正之

データ番号   :010007
滅菌前医療用具の微生物評価と滅菌線量の選択における問題
目的      :医療用具の滅菌と滅菌線量の選定
放射線の種別  :ガンマ線,電子
放射線源    :コバルト-60、電子加速器
線量(率)   :1-15kGy(ガンマ線)、1-16kGy(電子線)
利用施設名   :東京都立アイソトープ研究所第一照射室(ガンマ線)、住友重機械工業(株)筑波電子応用開発センターダイナミトロン型加速器(電子線)、AECL J6600型照射装置(ガンマ線)
照射条件    :空気中照射、乾燥および水溶液での照射、共存物(培地,血清等)存在下の照射
応用分野    :非経口薬剤、医薬品等のパッケージ類、汚染廃棄医材

概要      :
 従来,滅菌線量には,バイオバーデンと最大抵抗性菌や指標微生物(バチルス・プミルスなど)の抵抗性に基づく方法,十分な安全マージンを持つことを前提に25キログレイや45キログレイといった固定的な線量が使用されてきた.現在は,ISO規格により個々の製品のバイオバーデン(汚染菌数)の状態に応じた線量設定法が使われようとしている.ISO規格使用における課題を現在の研究から振り返る.

詳細説明    :
  
 放射線滅菌線量についての研究は,欧米を中心に精力的に行われてきた.初期の研究において,医療用具を汚染する微生物の中で放射線抵抗性の高い微生物(バチルス属やストレプトコッカス属細菌)を指標として滅菌保証レベルが100万分の1以下となるように十分な安全マージンを含んで設定されていた.しかし,国によって採用した指標微生物とその抵抗性評価方法が違うことにより,同一の滅菌保証レベルを得るための線量が異なるという矛盾を生じた.そのため,個々の製品に自然な状態で存在する微生物群の放射線抵抗性を評価し滅菌線量を設定する方法(AAMI法)が開発された.この方法は,各種線量設定法を国際的に整合させるための原案とされ,各国のコメントに基づき改良され現在ではISO規格(ISO 11137)となっている.しかし,まだ課題が残されている.
  
 滅菌前汚染菌数が非常に小さい製品の滅菌線量設定にISO法は有効であるか?
 ISO法は,製品に付着している自然状態の微生物の抵抗性を統計的に評価して滅菌線量を設定するため,微生物の数が1より小さい(非常に清浄な環境で製造された)製品では,サンプルから得られる情報に限界がある.約3万個の注射針を段階的に線量照射し,無菌試験結果から汚染微生物の抵抗性を評価した結果を図1に示す.平均D10値(10分の1殺菌線量)は,1.3kGyで滅菌線量は7.5kGyとなった.直線的な生残曲線は比較的放射線抵抗性の揃った菌群から構成されることを示している.


図1 Propotion of nonsterile needle(P) as a function of radiation dose(D) over the measurable range of P(error bar represent 95% confidence limits). (原論文1より引用。 Reprinted from Radiat. Phys. Chem., 31, Doolan P. T., Hall N. A., Tallentire A.,Sub-process Irradiation of Naturally Contaminated Hypodermic Needles,p.699(1988),with permission from Elsevier Science.)

 このような製品の菌群をISO法で評価した場合,最初に設定した滅菌線量は,平均バイオバーデンの変動が大きいため,他のロットでは不合格となる可能性がある.図2にAAMI法(ISO法とほぼ内容は同じ)で注射針について調べた例を示す.


図2 Relationship between bioburden and sterility test(↓:failed lot in AAMI audit experiments).(原論文2より引用。 Reprinted from Radiat. Phys. Chem., 46, Tabei M., Sekiguchi M., Evaluation of sterilization dose for disposable hypodermic needles manufactured under ultra-clean condition,p.629(1995), with permission from Elsevier Science.)

 バイオバーデンが非常に小さい場合, ISOの線量設定法(Method1,Method2)ではバイオバーデンから得られる抵抗性の情報が少なく,一度設定された滅菌線量が100試料の検定試験(無菌試験)で不合格となる可能性が高い.しかし,理論上は,バイオバーデンが低い製品では,検定試験の感度(不合格とする確率)が低下することが明らかにされ,検定試験の有効性にも疑問が提起されている.図3に,この関係を示す.


図3 Sensitivity of verification test at SAL of 0.01 using 100 samples.(原論文3より引用。 Reprinted from Radiat. Phys. Chem., 46, Takehisa M., International standard(ISO) of radiation sterilization and issues in the sterilization dose setting,p.1349(1995), with permission from Elsevier Science.)



コメント    :
ISO規格のMethod1(標準微生物群の抵抗性分布を指標にして線量設定する方法)およびMethod2(製品バイオバーデンだけの抵抗性評価に基づき線量設定する方法)を菌数の小さい製品に適用することが適正であるかどうか,検定試験の有効性をどのように考えるか,ISOの微生物学的試験法がAcinetobactorなど他の抵抗性菌の評価にも有効であるかなどの議論がある.

原論文1 Data source 1:
Sub-process Irradiation of Naturally Contaminated Hypodermic Needles
*Doolan P. T., **Hall N. A., ***Tallentire A.
*Becton Dickinson and Company, Franklin Lakes, New Jersey, USA **Becton Dickinson and Company, Dun Laoghaire, Co. Dublin, Ireland ***University of Manchester, Department of Pharmacy, M13 9PL, United Kingdom
Radiat. Phys. Chem., 31, 699(1988)

原論文2 Data source 2:
Evaluation of sterilization dose for disposable hypodermic needles manufactured under ultra-clean condition
Tabei M., Sekiguchi M.
Tokyo Metropolitan Isotope Research Center, 2-11-1 Fukazawa, Setagaya-ku, Tokyo 158, Japan
Radiat. Phys. Chem., 46, 629(1995)

原論文3 Data source 3:
International standard(ISO) of radiation sterilization and issues in the sterilization dose setting
Takehisa M.
Radia Industry Co., Ltd., 168 Ooyagi, Takasaki, Gunma 370, Japan
Radiat. Phys. Chem., 46, 1349(1995)

参考資料1 Reference 1:
Whitby J.,
Radiat. Phys. Chem., 46, 639(1995)

参考資料2 Reference 2:
Aoshuang Y., Tallentire A,
Radiat. Phys. Chem., 46, 591(1995)

参考資料3 Reference 3:
ISO, Sterilization of Health Care Products -Requirements for Validation and Routine Control- Radiation Sterilization, ISO Standard 11137(1995)

キーワード:滅菌保証レベル、ディスポーザブル注射針、放射線滅菌、滅菌線量、バイオバーデン、放射線抵抗性、国際標準化機構(ISO)
sterility assurance level, disposable hypodermic needle, radiation sterilization, sterilization dose, bioburden, radiation resistance, international organization of standardization(ISO)
分類コード:010401,010402

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