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作成: 1996/02/01 藤村 俊一

データ番号   :010006
ガンマ線照射による水溶液中および繊維工場廃水中の染料の分解
目的      :ガンマ線照射による染料を含む廃水の処理
放射線の種別  :ガンマ線
放射線源    :Co-60
線量(率)   :0-100kGy x 0.014-2Gy/s
利用施設名   :Institute of Applied Radiation Chemistry of Technical University in Lodz
照射条件    :空気中、室温
応用分野    :環境保全、廃水処理

概要      :
 ガンマ線照射による染料水溶液の分解挙動を評価した。4種類の染料の中で黄色は脱色が早いが、褐色は最も脱色し難かった。線量率効果は低い線量で見られるが、線量の影響の方が大きい。工場廃水のCOD,BOD,アニオン洗剤などはガンマ線照射によって低減するが、特に酸素の存在下で処理すると効果が著しい。

詳細説明    :
  
 繊維業界は大量の水を使用しており、その廃水は一部は生分解されるが、非分解性、毒性をもつものは環境の水系に影響する。廃水に含まれる染料は溶解しにくい成分を除去する必要があり、一般に生分解性による脱色は50% 以下である。通常行われる化学処理方法は処理後のスラッジの問題があるので、放射線照射が最も効果的な方法と言える。
  
 染料を含む水溶液、廃水について脱色の研究を行った。染料を含む水溶液に高エネルギーのガンマ線を照射すると、水が分解して有機物と反応すること、溶存する酸素やハロゲンイオン,酸化ロジウム, 一酸化窒素があれば効果的であること、過塩素酸ナトリウム 、過酸化水素、二酸化炭素、オゾン等の化学酸化剤は更に有効であることが知られている。染料の分解は次の2段階で起こると考えられる。第1段階では、水の分解により、様々な一次、二次生成物が形成される。
H2O -----> e-, OH*, H*, H2O+, H2O2, OH-, H2
  
 第2段階では、これらの生成物が染料や染料の二次生成物と反応して、染料を無色にする。もし酸素が存在すれば、安定な酸素イオンになって酸化反応を促進する。なお、分解物の多くが着色していれば脱色の進行はゆっくりとなり、一般には完全に脱色しない。実験には、市販の黄、青、緑、褐色の4染料を用いた。図1は青色染料の水溶液にガンマ線を照射した場合の可視から紫外領域の吸収スペクトルを示すが、線量の増加によって吸光度が低下し脱色していることが分かる。他の3染料も同様の傾向を示している。


図1 Absorption spectra of irradiated Polan Blue ERN aqueous solutions. (原論文1より引用)

 試験した最低の濃度 0.025g/l で完全に脱色するのは、黄色で10kGy,最も脱色しにくい褐色で30kGy であった。しかし、高濃度の水溶液では50kGy でも完全に脱色しなかった。脱色についての線量率効果は、図2に青色の染料についての結果を示すが、低い線量率で顕著に脱色されている。しかし、ガンマ線照射に必要な暴露時間が長くなるので、照射時間と線量を慎重に選定することが重要である。


図2 Dose rate effect on degree of colour removal of Polan Blue ERN aqueous solution.(原論文1より引用)

 繊維を洗浄した工場廃水で、染料を0.1g/lとアニオン系洗剤、酢酸、塩を含む水溶液にガンマ線を照射した結果、4色とも薄黄色に脱色された。また、COD,BOD,アニオン系洗剤の低下も引き起こしていた。次に、染料とアニオン系洗剤、炭酸塩を含む廃水に酸素を5l/hで流しながらガンマ線を照射した結果を表1に示す。4染料の脱色率は93-99%となったが、褐色染料だけは酸素を流さない方が脱色する傾向を示した。

表1 Irradiation of dyebaths in the presence of dissolved oxygen.(原論文1より引用)
Parameters
Dyebath containing
Direct Brown RC
Dyebath containing
Prociongrun H-4G
Dyebath containing
Helion Yellow G
Dyebath containing
Polan Blue ERN
Before
radiation
After
radiation
Before
radiation
After
radiation
Before
radiation
After
radiation
Before
radiation
After
radiation
Dose(kGy)
Dose rate (Gy/s)
Specific colour
Threshold dilution
of dyebath to
colour disappearance
pH
COD(mgO2/dm3)
BOD5(mgO2/dm3)
Degree of biologi-
cal degradation
measured as ratio
BOD5/COD(%)
Anionic detergents
(mg/dm3)


dark-red

5000

4.7
2480
430

17.3



380

100
0.278
ligtht-yellow

50

5.3
1200
300

25.0



50



green

2500

9.3
2680
550

20.5



360

100
0.278
ligtht-yellow

330

8.9
1270
280

21.8



250



yellow

1700

9.4
2780
570

20.4



370

100
0.278
ligtht-yellow

170

9.0
1360
340

25.1



180



dark-blue

6700

4.7
2380
400

16.8



380

100
0.278
ligtht-yellow

33

5.1
1950
425

21.8



73

 CODはガンマ線を照射すると減少するが、酸素の存在下では更に51-53%下げることができた。青色染料の場合は酸素を流さない条件では低下率13%であったが、酸素の存在下では55%に下がった。BOD は青色染料を除いて30-50%低減できる。青色染料はガンマ線照射で生分解性の化合物が生成するのでBOD が6%増加するが、酸素の存在下では30%の減少を示した。廃水の生分解性を示すBOD/CODの比率は酸素の存在下では1.5-2倍と著しく増加した。即ち、ガンマ線照射によって有機化合物が生分解しやすい単純な構造に変化し、酸素の存在は廃水処理に顕著な効果を発揮すると言える。アニオン系洗剤の濃度はガンマ線照射によって31-87%の低減が認められるが、緑色染料の場合最低減がすくない。酸素が存在すると青、褐色染料は98%の低減となるが、黄、緑色染料は68%,59%に留まる。即ち、ガンマ線照射によって、繊維工場廃水のアニオン洗剤を減少することができ、溶存酸素は放射線反応を加速すると言える。
  
 結論として、ガンマ線照射によって染料、工場廃水の脱色を93-99%減少することができた。酸素の存在も大きく影響していることが分かった。照射によって生成する中間体や最終生成物は初期の有機物より生分解性が高かった。

測定項目:吸光度(ベックマン分光光度計)、pH(pH 計)、COD(不明),BOD(不明)、アニオン系洗剤濃度(不明)

コメント    :
1)繊維染色工場から排出される廃水は、染料による着色問題やBOD,COD,pHなどの環境問題を引き起こすので各種処理方法が検討されている。例えば、活性炭・オゾン酸化組み合わせ処理などが行われているが、この廃水は極めて処理困難である。そこで、高エネルギーの放射線によって染料を分解する処理方法として紫外線、電子線、ガンマ線などが検討されており、本報は透過能力の高いガンマ線の応用研究である。
  
2)ガンマ線照射によって廃水中の染料が脱色されるが、濃度が高いと照射線量を増加しても完全な脱色は困難であることが報告されている。照射条件としては、低線量率で高線量を照射すること、酸素を供給して照射することが効率的であった。

原論文1 Data source 1:
Destruction of Dyes in Aqueous Solution and Textile Wastewaters by Irradiation,
Rouba J., Perkowski J.*, Kos L.
Research and Development Centre of the Knitting Industry,90-361 Lodz,ul. Piotrowski 270, * Institute of Applied Radiation Chemistry of the Technical University of Lodz, 93-590 Lodz, Poland,
Environment Protection Engineering Vol.8, No.1,p121 (1982).

キーワード:染料、ガンマ線照射、脱色、吸光度、COD、BOD,
dye,γ-rays radiation, colour removal, absorption, COD, BOD
分類コード:010502

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