電子ビームによる石炭燃焼排煙処理パイロット試験結果

放射線利用技術データベースのメインページへ
作成： 1996/02/14 須藤　高史データ番号　　　：010005 電子ビームによる石炭燃焼排煙処理パイロット試験結果目的　　　　　　：電子線による石炭燃焼排ガス処理ならびに肥料合成放射線の種別　　：電子放射線源　　　　：電子加速器線量（率）　　　：0 - 0.8MeV, 7 - 14kGy 利用施設名　　　：中部電力㈱新名古屋火力発電所石炭火力排煙処理パイロット試験装置、原研高崎研1号加速器照射条件　　　　：約65℃ - 、アンモニア添加応用分野　　　　：排煙処理概要　　　　　　：　電子線により乾式で脱硝、脱硫を同時に行う技術を確立した。中部電力㈱新名古屋火力発電所構内の実際の石炭燃焼排煙(12,000 N m³/h)を用いたパイロットプラントにより,実証試験を行った。主な成果を示す。①SO₂濃度(250 - 2,000ppm), NO_X 濃度(140 - 240ppm)の各種排ガス条件で、各々94%,80%の目標値以上の除去率を得た。②副生品は肥料取締法に基づく副産窒素肥料として認定、肥料登録した。③構成機器の信頼性・制御性の確認を行った。詳細説明　　　　：　　石炭燃焼排煙の乾式で同時脱硝・脱硫を行う電子ビーム処理法の技術確立のため2つの試験を行った。　　原研高崎研で91年に行った基礎試験では、低硫黄炭の燃焼排煙を模擬した混合ガス(0.9 Nm³/h)による本法の適用性を検討した。本法は NO_X と SO₂の酸化、中和による脱硫・脱硝反応を行うものである。本試験ではアンモニアによる中和法を採用。本試験により、多段照射( 3段まで)、低温(65℃まで )ほど除去率が向上し、約10kGyで脱硫・脱硝率両者とも95%を達成。　　次に、中部電力㈱新名古屋火力発電所構内に、実際の石炭燃焼排煙(12,000 Nm³/h)を用いたパイロット試験を1992/11 - 1993/12に行った。図1にそのプロセスフローを示す。図1　プロセスフロー（原論文1より引用）　使用された電子加速器は800kV,45mAのものが3台である。排煙は、電気集塵器、熱回収器を経て冷却塔に導かれ、スプレー水で約65℃まで冷却される。反応塔内で、排煙中の硫黄酸化物、窒素酸化物は、電子線により発生した活性種により酸化され、硫酸、硝酸となり、照射前に注入されたアンモニアと反応し、副生物の硫安、硝安ができる。副生物は後流の電気集塵器、バグフィルターで回収され、処理装置へ導かれる。　　本試験により次のことが得られた。 1)SO₂濃度(250 - 2,000ppm), NO_X 濃度(140 - 240ppm)の各種排ガス条件で、電子ビームの吸収線量、処理ガス温度、アンモニア添加量を適切にすることで、図2及び図3に示す高い脱硫・脱硝性能を得た。また、電子ビーム照射の配置、段数や、照射位置での排ガス流速、アンモニア添加量等の各種パラメータの影響を明らかにし、最適なプロセス条件を把握した。図2　脱硫性能（原論文1より引用）図3　脱硝性能（原論文1より引用） 2)副生品捕集に関しては、電気集塵器の運転条件の適切な設定で、99%以上の集塵性能を得た。集塵面積を増せば、出口煤塵量を電気集塵器のみで5mg/Nm³程度まで低減できる。バグフィルタ出口では0.1 - 0.8 mg/Nm³の低煤塵濃度であった。　　 3)本試験プラント各機器の自動制御を構築し、容易かつ安定した運転を行った。約3500時間の運転期間を通じ、プラント各部の信頼性、耐久性向上のノウハウを得た。　　 4)副生品は成分分析、栽培試験結果より、市販の窒素肥料と遜色ない品質を有しており、肥料取締法に基づく副産窒素肥料と認定され、正式な肥料登録を行った。　　　本電子ビームによる排煙処理法は次の特徴を有している。　1)脱硫・脱硝を同時に行い、プロセスの簡略化が可能。　2)副産物である硫安、硝安は容易に回収され、肥料として有効活用できる。　3)既存の湿式脱硫法においては多量の廃水を発生し、大がかりな廃水処理施設が必要となる。本法では廃水は生じず、設置面積を節約できる。　4)処理コストが従来法より安い。従来法(湿式脱硫+乾式脱硝)と比べ、設備費では同等、運転費については20 - 30%安い。　　　本法による10,000 - 20,000 Nm³/hのパイロット試験が、原研とポーランド共同で進められている。これらの成功を踏まえ,20 - 30万Nm³/h規模の実証試験を行えば、数百万Nm³/h の大型火力発電所排煙処理に対応可能となる。コメント　　　　： 1)1970年頃より開発が続けられ、日、米、独、ポーランドにおいて数多くのパイロット試験が行われている。　　 2)その試験規模は10⁴ Nm³/h　オーダと大きくなっている。　　 3)国内では、本報告以外に焼結炉排ガス処理、自動車用トンネル排気処理、都市ごみ燃焼排煙処理のパイロット試験が行われた。　　 4)従来法と比較し、経済的にも、技術的にも競争力がある処理法である。　　 5)もう1段の規模拡大した実証試験を行えば、10⁶ Nm³/h　オーダの大きな排煙処理量である石炭火力発電所排煙処理にも、適用可能となる。　　 6)現状でも、都市ごみ燃焼排煙処理や中小火力発電排煙処理に適用可能である。原論文１ Data source 1：電子ビームによる排煙処理パイロット試験結果、南波　秀樹、徳永　興公、橋本　昭司、田中　雅、小倉　義己、土居　祥孝、青木　慎治、井筒　政弘、日本原子力研究所高崎研究所環境・資源利用研究部、370-12　群馬県高崎市綿貫町1233、中部電力株式会社、株式会社荏原製作所、 JAERI-Tech　95-013(1995) 原論文２ Data source 2：電子ビーム利用の排煙処理法、徳永　興公、日本原子力研究所高崎研究所環境・資源利用研究部、370-12　群馬県高崎市綿貫町1233、化学装置、Vol.34, No.8,p.55-59(1992) 参考資料１ Reference 1： Electron Beam Processing of Flue Gas-Technical and Economic Cosiderations -Past,Present and Future, Frank N, Presented at the 1st Symp. on Application of Isotopes and Radiation in Conservation of the Environment(Karlsruhe,Germany,March 9-13,1992). 参考資料２ Reference 2： Chmielewski A.G.,Iller E.,Zimek Z.,Lichi J., Proceedings of the 1st Conf. on Evolution in Beam Applications,p.440. 参考資料３ Reference 3： Doi T.,Suda S.,Morisige A.,Tokunaga O.,et.al., Proceedings of the 1st Conf. on Evolution in Beam Applications,p.482. キーワード：脱硝、脱硫、石炭燃焼排煙、パイロット試験、肥料、電気集塵器、電子線、 NO_X removal , SO₂ removal , coal-fired boiler , pilot-scale test , fertilizer , electrostatic precipitator , electron beam 分類コード：010501
放射線利用技術データベースのメインページへ