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作成: 1996/02/16 武藤 利雄

データ番号   :010004
埋立地浸出水の放射線照射による有機物の分解・除去
目的      :ごみ埋め立て地からの浸出水の放射線処理
放射線の種別  :ガンマ線
放射線源    :コバルト-60 線源
線量(率)   :130-11000Gy/h
利用施設名   :東京都立アイソトープ総合研究所ホットセル
照射条件    :通気照射(空気 0.4〜1 l/min) 
応用分野    :排水処理、環境浄化

概要      :
 家庭ゴミなどで埋め立てられた埋立地から排出される侵出水は、高濃度の有機汚濁物質を含む。この侵出水は、活性汚泥法や凝集沈澱法などの一般的な処理法では対応が困難であるため、放射線を利用した種々の処理方法について検討した。その結果、放射線照射により有機汚濁物質を効率よく低減化できることが明らかになった。

詳細説明    :
  
 家庭ゴミなどで埋立てられた埋立地から排出される多量の浸出水は、有機汚濁質を高濃度に含み、化学的酸要求量(COD)、全有機炭素濃度(TOC)は〜2000ppmと高く、生物学的酸素要求量(BOD)は低い。この汚濁質の主成分はフミン酸やフルボ酸と呼ばれる腐植質からなり、活性汚泥法や凝集沈殿法などの一般的な処理法では対応が困難な排水で、これに対応できる新しい処理技術の開発が望まれている。そこで放射線を利用した浸出水の処理について種々検討した。

(1)酸化分解法:空気を通じながら浸出水にガンマ線を照射すると、有機汚濁質は酸化分解され、フミン酸、フルボ酸は低分子量化しながら、有機酸を生成し、最終的に炭酸ガスに分解される(図1)。


図1 ガンマ線照射による埋立地侵出水のTOC(〇)および吸光度(OD△)の変化(原論文5より引用)

 この方法は、これまでの処理法のように多量の汚泥を発生させずに浸出水を処理できるという大きな利点はあるが、汚濁質を高濃度に含む排水に対しては大線量を必要とする。

(2)酸化分解-生物処理の併用法:ガンマ線照射によってCODの低減と同時にBODが増加し生物処理が可能な水質に変った。

表1 ガンマ線照射による埋立地侵出水のCOD、TOC、生物学的酸素要求量BOD/COD、BOD/TOCの変化(原論文5より引用)
DOSE
(kGy)
COD
(ppm)
TOC
(ppm)
BOD
(ppm)
BOD/COD BOD/TOC
0
17
43
60
384
305
201
185
375
335
264
240
15
68
67
72
0.04
0.22
0.33
0.39
0.04
0.20
0.25
0.30
 照射と生物処理併用プロセスを検討した結果、処理に必要な線量を酸化分解処理の1/3に低減できることがわかった。この方法は、比較的低濃度の生物処理困難な排水処理に適用可能と思われる(表1)。

(3)照射一凝集沈殿処理併用法:浸出水をそのまま凝集沈殿すると低分子量部分の除去率が極めて悪い。溶存酸素のない状態でガンマ線を照射し、低分子量物質を高分子量化したのち凝集沈殿を行うと除去効率が良くなり90〜95%まで除去できた。処理に必要な線量は酸化分解処理の1/10に低減できた。
  
 これらの処理法は、(1)の方法は処理した後に汚泥を排出せずに汚濁質を炭酸ガスにまで浄化でき、(2)は従来行われている生物処理の改良法に適し、(3)は有機汚濁質が濃い場合に比較的少い照射線量で効率よく除去できる。

コメント    :
1)埋立地侵出水は高濃度の有機汚濁物質を含むため、活性汚泥法や凝集沈澱法など、現在下水処理場等で一般的に行われている処理法では、有効な処理が困難である。これら一般的な処理法にガンマ線照射を組み入れることにより、埋立地侵出水を効率よく処理ができると思われる。

原論文1 Data source 1:
埋立地浸出液中の腐植質の放射線分解 -TOCの減少とCO2の生成-
沢井 健、沢井 照子、下川 利成
東京都立アイソトープ総合研究所 〒158 東京都世田谷区深沢2-11-1
Radioisotopes 28,355(1979)

原論文2 Data source 2:
埋立地浸出液中の腐植質の放射線分解 -分子量分布と赤外吸収-、
沢井 照子、沢井 健、
東京都立アイソトープ総合研究所 〒158 東京都世田谷区深沢2-11-1、
Radioisotopes 29,67(1980)

原論文3 Data source 3:
Radiation Treatment of Landfill Leachate,
Yamazaki M, Sawai T, Sawai T ,
Tokyo Metropolitan Isotope Research Center, 2-11-1 Fukazawa,Setagaya-ku, Tokyo 158, Japan,
Radiat.Phys.Chem.18,761(1981). 

原論文4 Data source 4:
The Effect of γ-Irradiation on the Biodegradability of Landfill Leachate,
Yamazaki M, Sawai T, Sawai T ,
Tokyo Metropolitan Isotope Research Center, 2-11-1 Fukazawa,Setagaya-ku, Tokyo 158, Japan,
Bull.Chem.Soc.Jpn.54,313(1981). 

原論文5 Data source 5:
埋立地浸出水の放射線照射による有機物の分解・除去、
沢井 照子、山崎 正夫、
東京都立アイソトープ総合研究所 〒158 東京都世田谷区深沢2-11-1、
東京都立アイソトープ総合研究所研究報告2号,29(1985)

キーワード:埋立地浸出水,放射線分解、ガンマ線照射、有機物、フミン酸、フルボ酸,
landfill leacheate、radiation decomposition、gamma irradiation、organic substance、humic acid、fluvoic acid
分類コード:010505

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