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作成: 2001/10/10 石沢 昌登

データ番号   :040253
身のまわりの放射線・放射能
目的      :自然の中の放射線及び放射線に関する知識の普及
放射線の種別  :ガンマ線

概要      :
 日常生活の空間には、宇宙や大地からの放射線や、食物や体内の放射性物質(放射能)からの放射線などが存在している。また、一方では医療を始め、ジャガイモの芽止めや医療器具の滅菌などに人工の放射線や放射能が積極的に使われている例も多い。その存在はそのままでは五感で感じる事が出来ないが、専用の放射線測定器もしくは霧箱などを用い視聴覚で二次的に捉えることができる。

詳細説明    :
 
 空気中、食物、体内、構造物、大地など日常生活をしている私達の身の回りのありとあらゆる所から放射線が出ており、放射線の中で常に生活しているということは、意外と正しく理解されてはいない。その理由のひとつは、五感で直接感じることはできないことである。しかし、放射線測定器や霧箱などを用いることにより、視聴覚で二次的に観察する事は可能である。自然界にも放射線・放射能が存在するということを体感し、直感的に放射線の存在を認識する事が、これらへの理解を深める上で大切である。
 
 霧箱は、結露しやすい状態のアルコール蒸気中を放射線が通過すると、その反応で霧状に放射線の通過の跡が見られるというもので、各地の科学館や放射線関連の展示館等にあるので、これを使って放射線の飛ぶ姿を自分の目で直接確認する事ができる。霧箱に必要な材料は、タッパーウエアなどの密閉容器、スポンジシート、粒状にしたドライアイス、エチルアルコール等容易に入手できるものなので自作することも可能である。霧箱で検索をすれば数多くのサイトが出てくるであろう。
 
 また、放射線が空気を通過したときに生じるイオンを電流として測定する原理に基づいた、簡易放射線測定器として、「はかるくん」がある。スイッチを入れて持ち歩くだけで、デジタル表示で放射線の量がわかるという操作が簡単な測定器なので、身の回りの放射線を自分で測るためには非常に便利なものである。この測定器は、(財)放射線計測協会が文部科学省の委託により無料で貸出を行っている。
 
 この「はかるくん」で測ることができる放射線はガンマ線だけで、表示される数値は線量率、単位は毎時マイクロ(10万分の1)シーベルトである。一般的な家屋において「はかるくん」を用いて放射線量を測った場合、概ね毎時0.04〜0.1マイクロシーベルト程度の線量率の範囲である。それらの放射線は、主に大地や建築構造物中の放射性核種、大気中のラドンやトロンの子孫核種、宇宙線などに起因している。「はかるくん」では、宇宙線に対する感度は低いので、表示された値の大部分が大地と建築構造物からの放射線である。
 
 大地からの放射線の原因となる主な核種としては、ウラン系列、トリウム系列、カリウムなどがあり、大地からの放射線量は地域によって大きな差がある。例えば、海洋性の地質に比べ大陸性の地質に放射性核種がより多く含まれているとか、花崗岩地帯が多い西日本の方が東日本に比べて僅かに高い値を示すなどの傾向にある。日本における県別の測定結果を図1に示す。


図1 「はかるくん」による測定値の都道府県別平均(屋外)(原論文1より引用)

 
 また、ここでの測定値は平均値であり、局所的にこの値から逸脱する場合も十分考えられる。また、放射線を測定する場合には、周囲の環境(土地の状態や構造物の有無や内外等)に注意する必要がある。例えば、地上1mにおける空間の放射線を測る場合、地表面からの放射線は深さ方向約30cm程度、水平方向数100m以内の放射線の平均値を測っていると考えられる。
 
 宇宙線には、一次宇宙線として銀河宇宙線と太陽宇宙線があるが、ほとんどが荷電粒子線で地球磁場によって曲げられるため、高緯度ほど強度が高いという緯度効果がある。これらが大気中の酸素や窒素等の原子核と衝突し二次宇宙線を発生する。我々が一般的に言う宇宙線とはこの二次宇宙線のことで、エネルギーは3MeV以上である。日本では海面高度の位置で、およそ毎時30ナノ(1億分の1)シーベルト程度である。
 
 食物や体内に含まれる放射性核種としてはカリウムが主で、個人差はあるが、体重60kgの人で約4000ベクレル(Bq)のカリウム-40が体内にあると計算される。食物中のカリウムについては食事などによる摂取と排泄がバランスして体内に蓄積される量はほぼ一定である。摂取した食物から受ける放射線量は、年間で約0.3ミリシーベルト程度とされている。
 
 一方、これらの他に身のまわりの放射線としては、病気の治療や診断などの医療を目的として受ける放射線がある。例えば、胸部集団検診で受けるX線(約0.05ミリシーベルト)や歯科でのパノラマ撮影(0.004ミリシーベルト)などである。これらの放射線は自然放射線と区別して人工放射線と呼ばれているが、物理的にはいずれも放射線であり人体の被ばくという観点からも区別する事は出来ない。しかしいずれの放射線も、日常生活においてごく普通に存在する放射線であり、私たちは、目に見えない放射線を必要以上に怖がることはないことをよく理解しておく必要がある。

コメント    :
 身近なところにあっても五感に感じないという事から、その存在を知らなかったり、必要以上に放射線を怖がる人が多い。ここにあるような簡単な測定器を使うことにより、自分の目で容易にその存在を知ることができるので、試してみる事をお勧めする。

原論文1 Data source 1:
「はかるくん」を活用するために
財団法人 放射線計測協会
財団法人 放射線計測協会
副読本・1

参考資料1 Reference 1:
放射線医学総合研究所、放射線Q&A
広島国際大学、林助教授、放射線を見る!〜霧箱〜
(財)日本原子力文化振興財団、「原子力」図面集2001-2002


キーワード:自然界の放射線、はかるくん、
分類コード:040204, 040302

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