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作成: 1998/07/09 渡辺 鐶

データ番号   :040135
シンチレーション計数管
目的      :シンチレーション計数管の構造、動作原理の解説
放射線の種別  :エックス線,ベータ線,ガンマ線
利用施設名   :プリンストン大学、インドのVariable Energy Cyclotron Centre等
照射条件    :大気中、真空中
応用分野    :放射線計測一般

概要      :
 原子核研究が始まった今世紀初め、α線を照射したZnS蛍光板の蛍光を目で数えることにより、α線の強度を測っていた。第二次世界大戦中に、微弱な光を検出することが出来る光電子増倍管が開発され、蛍光体の発光を光電子増倍管で電気信号に変えるシンチレーション計数管が作られた。現在、シンチレーション計数管は、主にγ線のエネルギー測定と、軟β線(低エネルギーβ線)を放出する3T,14C の計測に使用されている。

詳細説明    :
(1)γ線エネルギーの測定
 1940年代末、アメリカの物理学者R.Hofstadterにより、NaI(Tl)結晶を蛍光体に用いたシンチレーション計数管が作られ、γ線のエネルギー測定に成功した。それ以前のγ線のエネルギー測定は鉛による吸収係数の測定か、磁場による方法が用いられていた。これらの方法は精度が悪かったり、又は強い線源を必要とするなどの欠点があった。
 NaI(Tl)結晶を蛍光体に使用したシンチレーション計数管は、その後の、電子回路の進歩、特に多重波高分析器の開発とあいまって、弱い線源でも高い精度のγ線のエネルギー測定が可能になり、Ge(Li)半導体検出器が実用になるまでの約20年間、γ線エネルギー測定の王座についた。


図1 Discriminator run on Na24(原論文4より引用)


表1 Properties of inorganic and organic scintillators
Scintillator Density
(g/cm3)
Main
emission
wavelength
(nm)
Decay
constant
(nsec)
Relative
light
yield
(%)
Inorganic Scintillators
NaI(Tl)* 3.67 410 230 100
CsI(Tl) 4.51 565 900 45
BGO 7.13 480 300 8
BaF2 4.89 320 0.6 10
Organic Scintillators
Anthracene 1.25 440 30 48
p-Terphenyl 1.23 390 4-11 18
*hygroscopic substance
 NaI、特によう素とγ線の相互作用(光電効果、コンプトン効果、電子対創生)の結果、出来る電子のエネルギーに比例した発光を光電子増倍管で電気信号に変換する。
 図1に、HofstadterがNaI(Tl)シンチレーション計数管で初めて測定した24Naγ線波高分布を示す。また、表1に各種の蛍光体の特性を示す。表中、BGOは蛍光体のうちで最も密度が高くγ線に対する検出効率が高いので、X線CTの検出器として広く使用されている。又、BaF2,CaFは近年開発された蛍光体で、有機蛍光体(アントラセンなど)に匹敵、またはそれ以上の短い蛍光の減衰時間を持ち、且つ有機蛍光体に比較して高密度であるので、高い時間分解能を必要とする分野に使用されている。
 光電子増倍管は1kV前後の高電圧電源を必要とする。近年の半導体技術の進歩により雑音の少ない光ダイオードが開発され、CsI(Tl)蛍光体と組み合わせて、小型且つ電子回路と共通の電源で動作するシンチレーション計数管が実用になっている。この型のシンチレーション計数管は磁場のある場所でも使用できる特長がある。
 
(2)軟β線測定
 3H,14C は医学、生物学の研究に必須の核種である。ところが、何れもエネルギーの小さいβ線のみ放出する核種であるので、GM計数管などでは測定が困難であり、又誤差も大きい。液体シンチレータはターフェニル、ジフェニルオキサゾル(DPO)などの有機蛍光体を、トルエン、キシレン等の有機溶媒に溶かしたもので、3H又は14Cを含む試料を、直接液体シンチレータに混ぜることにより容易に測定が可能になる。
 ところが、試料を液体シンチレータに混ぜると、シンチレータの発光効率が低下する。これを補正する為に、外部より一定強度のγ線を液体シンチレータに照射したり(外部標準法)、或いは、放射能既知の3Hや14C を含む溶液を液体シンチレータに加える(内部標準法)。最近の液体シンチレーション計数管では、外部標準法により自動的に以上の補正を行うことが出来るようになっている。
 光電子増倍管から出る雑音によるback goundを少なくする為に、検出系全体を冷蔵庫に入れて冷却すると共に、二本の増倍管を用い、その同時計数をとることが広く行われている。計数効率は3H で約 50%、14Cで 90% 以上である。

コメント    :
 より詳細に知りたい場合原論文3)、更に深く勉強するには原論文 1)及び 2)、又液体シンチレーション計数管については原論文 5)が参考になる。

原論文1 Data source 1:
Radiation Detection and Measurement(Second Edition)
G.F.Knoll
The University of Michigan, Ann Arbor, Michigan, U.S.A.
John Wiley & Sons, (1989), p.215-336

原論文2 Data source 2:
放射線計測ハンドブック(原論文1の訳本)
木村 逸郎、阪井 英次訳
京都大学工学部原子核工学科、日本原子力研究所
日刊工業新聞社, (1991), p.227-359

原論文3 Data source 3:
放射線計測技術
河田 燕
電子技術総合研究所
東大出版会, (1978), p.37-39

原論文4 Data source 4:
Gamma-ray Spectroscopy with Crystals of NaI(Tl)
R.Hofstadter and J.A.Mclntrye
Princeton University, Princeton, New Jersey, U.S.A.
Nucleonics, Vol.7, No.3, 32-37 (1950)

原論文5 Data source 5:
新ラジオアイソトープ、講義と実習
日本アイソトープ協会編
東京都文京区本駒込2-28-45
丸善株式会社, (1989), p.336-344

原論文6 Data source 6:
Performance of a CsI(Tl)-Pin Detector
D.Bandyopadhyay and S.K.Basu
Variable Energy Cyclotron Centre, I/AF, Bidhan Nager, Calcutta 700 064, India
Nuclear Instrument and Methods, Vol.A373, No.2, 194-197 (1996)

キーワード:シンチレーション計数管、蛍光体、光電子増倍管、光ダイオード、ガンマ線スペクトロスコピー、液体シンチレーション計数管、多重波高分析器
scintillation counter, scintillator, photomultiplier tube, photodiode, gamma-ray spectroscopy, liquid scintillation counter, multichannel pulse height analyzer
分類コード:040301,040302,040304

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