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作成: 1999/03/25 山本 和高

データ番号   :030114
核磁気共鳴画像による胆管膵管イメージング
目的      :MRCPによる膵、及び胆道系疾患の非侵襲的画像診断

概要      :
 MRCPは、きわめて強いT2強調画像では静止した水だけの信号が得られることを利用して、胆道系と膵管を描出する検査法である。ERCPでは内視鏡の挿入による苦痛などが避けられないが、MRCPはまったく非侵襲的で、短時間に安全に実施することができる。胆管結石、胆管癌、膵癌、膵炎など膵・胆道系疾患の診断に有用であり、形態ばかりではなく機能情報も得られる可能性がある。

詳細説明    :
 きわめて強いT2強調画像では、静止した水の信号のみが得られ、それ以外のプロトンからの信号がほとんど消失する。すなわち、水で満たされた部分のみが描出されるのでMR hydrographyと呼ばれ、脳槽、内耳、涙道、尿路系などの検査法として応用されている。これを胆汁または膵液で満たされている胆嚢、胆管、膵管のイメージングに用いるのがMRCP(magnetic resonance cholangio pancreatography)である。
 撮像法には当初はgradient echo法の1種であるsteady state free presession(SSFP)が使用されたが、現在は高速撮像法であるfast spin echo系の撮像法が用いられている。3D-fast spin echo法は信号雑音比が高く、空間分解能に優れているが、撮像時間が10分程度と長いために呼吸同期が必要となる。 
 half Fourier single shot fast spin echo(SSFSE)では1画像の撮影時間は1〜3秒ときわめて短く、呼吸停止下で容易に撮像できる。Single thick slice MRCPは20〜50mmと厚いスライスを用いて胆道、膵管を1枚の画像で描出する方法である。二次元画像なのでスライス方向に重なった構造物の位置関係は評価できないが、画像再構成が不要で、胆道系、膵管の全体像を概観することができる。
 Multiple thin slice MRCPはスライスが薄く(4-5mm)、partial volume effectなどのthick slice MRCPの欠点を防ぐことができ、総胆管結石などの診断に優れている。胃、腸管などの内容液も高信号を示し、膵・胆管の描出を妨害することがあるが、検査前に鉄剤フェリセルツを飲用することで、胃内容液を低信号化することができる。
 膵管や胆管を描出する検査法としてはERCP(内視鏡的逆行性胆管膵管造影)があるが、これは内視鏡を十二指腸まで挿入し、内視鏡で観察しながら細い管を十二指腸乳頭部から挿入し、ヨード造影剤を一定の圧をかけながら逆行性に胆管や膵管内に注入して撮影する方法であり、内視鏡挿入などによる患者の苦痛もあり、手技にも熟練を要する。ヨード造影剤に対する過敏症のある患者には施行困難である。また、0.1%程度の症例で検査後に膵炎を発症することもある。MRCPは非侵襲的であり、小児にも簡単に実施することができ、ERCPでは禁忌の急性膵炎の患者や、胆管空腸吻合術術後などERCPが実施できない症例においても、胆道系と膵管の全体像を得ることができる。図1に、膵頭部癌の症例におけるERCP結果およびMRCP像を示す。


図1 膵頭部癌。 (原論文1より引用)

 a)のERCPでは、主膵管は膵頭部で途絶(矢印)し、それ以上の情報は得られないが、b)に示すsingle thick slice MRCPでは、主膵管の途絶に加え、拡張した体尾部膵管(矢頭)、分枝膵管(矢印)、及び総胆管(*印)が描出されている。
 ERCPでは当然のことながら造影剤の到達できる部位しか描出できないが、MRCPでは閉塞により拡張している末梢側は明瞭に描出できる。図2に総胆管結石の症例を示す。


図2 総胆管結石。(原論文1より引用)

 a)のERCPでは、結石を同定できないが、b)のmulti thin slice MRCPでは拡張した総胆管の末梢部に嵌頓した結石(矢印)が認められる。ERCPと異なり腸管内の空気の影響を受けないので、十二指腸などと重なっている部分でも総胆管内の結石の描出に優れている。ただし、低信号域は、空気、血腫、腫瘍などでもみられ、結石に特異的ではないがMercedez-Benz signが認められれば結石と診断できる。
 ERCPは造影剤を注入して撮影するが、MRCPでは生理的な状態を描出しているので膵液が十分に存在しない虚脱した膵管は描出されず、狭窄病変と誤診されることがある。現状では、MRCPの解像力はERCPには及ばず、拡張のない正常膵管が明瞭に描出されない場合もあり、膵管2次分枝のみの不整像の評価にはERCPが必要である。セクレチン負荷を行うと膵液の分泌が促進され、Oddiの括約筋は収縮する。この結果、主膵管内の膵液貯留が増加するので、狭窄病変のfalse positiveを防ぐことができる。また、セクレチン負荷により増加した膵液量をMRCP上で計測して、膵外分泌機能を半定量的に評価することも可能になる。

コメント    :
 MRCPは、非侵襲的で安全であり、検査時間も短く簡便である。これまでERCPを実施しにくかった患者にも、MRCPにより膵・胆管疾患が容易に診断できるようになるものと期待される。ERCPは、膵液細胞診などの病理学的検査材料の採取や、総胆管結石除去術などIVRによる治療が行われる場合などに、その必要性が限定されるようになるであろう。

原論文1 Data source 1:
MR hydrographyの現況  MRCP
増永 初子、竹原 康雄、磯田 治夫、磯貝 聡、他
浜松医科大学 放射線科
臨床画像 15(3)、pp.297-307、1999

参考資料1 Reference 1:
膵病変診断のためのMR撮像法
増井 孝之、片山 元之、吉原 和代、小林 茂、伊藤 龍彦
聖隷浜松病院 放射線科
映像情報MEDICAL 29(25),pp. 69-74,1997

キーワード:MRCP、MR hydrography、内視鏡的逆行性胆管膵管造影法(ERCP)、膵癌(pancreas cancer)、総胆管結石(choledocholithiasis)
分類コード:

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