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作成: 1999/12/17 渡辺 正

データ番号   :190026
ワークステーションクラスターによる格子ガス流体の並列計算
目的      :ワークステーションクラスターの利用による格子ガス2相流シミュレーションコードの並列計算効率の評価。
研究実施機関名 :日本原子力研究所計算科学技術推進センター数値実験技術開発グループ
応用分野    :熱流動解析、数値流体、並列計算技術、計算機利用技術

概要      :
 ワークステーション4台を100Baseイーサネットで接続したクラスターを用いて、格子ガス流体の並列計算を行い、実用上十分な並列化効率が達成されることを示した。高速ネットワークを持つ大型計算機システムと比べても同等以上の効率が得られ、クラスター計算の有効性が明らかとなった。
 

詳細説明    :
 計算科学研究に必要不可欠な大規模数値シミュレーション技術の開発整備のひとつとして、ワークステーションを複数台用いたクラスターによる並列計算を実施し、計算効率を評価した。評価には、格子ガスモデルによる2次元2相流シミュレーションコードを使用した。


図1 Workstation cluster hardware configuration.(原論文2より引用)

 クラスター計算に使用したワークステーションは図1に示すように、COMPAQ 600au 4台であり、100Base(100Mb/s:1秒間に100メガビットの転送速度)スイッチングハブ(連結器)で接続されている。ここで使用するシミュレーションコードの並列計算については、プロセッサ(演算装置、Processor Element:PE)間通信速度が高速である場合、変数の配列を分割せずデータの総和計算などの処理を行っても、実用上十分な並列化効率が達成されることが確認されているが、ここではデータ転送量を極力減らし、かつ変数の配列を分割することにより、大きな体系での計算が可能となるようにコードを修正した。


図2 Data decomposition.(原論文2より引用)

 図2に計算領域の分割を示す。2次元領域を等分割し、上下に一列づつ転送用のデータ領域を付加した。並列計算にはMPIライブラリー(データ転送用の汎用命令セット)を使用し、気泡の上昇の計算を行った。

表1 Comparison of calculation time.
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           1PE      2PE      4PE      8PE     16PE
          (sec)    (sec)    (sec)    (sec)    (sec)
---------------------------------------------------
cluster  3430.58  1723.81   916.22
AP3000   6549.13  3409.09  1839.59
VPP500            5456.90  2984.91  1602.91  864.86
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 クラスター及び原研東海研究所に設置されている並列計算サーバーAP3000、ベクトル並列型スーパーコンピュータVPP500での計算時間の測定結果を表1に示す。
 
 クラスターでは、2プロセッサ(つまり2台のワークステーション)で1プロセッサの場合の1.99倍、4プロセッサで3.74倍となっている。計算時間は実行の度に多少増減するが、ほぼこのような傾向が得られ、実用上十分な高速化が達成されることがわかった。AP3000では、2プロセッサで1.92倍、4プロセッサで3.56倍の高速化が達成されており、ここでも、実用上は十分な並列化効率が得られている。
 
 AP3000の1プロセッサでの計算時間はクラスターの1プロセッサの場合のおよそ1.9倍であるが、これはプロセッサそのものの性能による(COMPAQ 600auはAlpha製、AP3000はUltraSPARK製)。並列化効率をクラスターの場合と比べるとやや低い値となっている。プロセッサ単体としては600auの方が早いため、この倍率が低くなるということは、ネットワークに関してもAP3000の処理の方が遅いと考えられる。クラスターにおける通信速度の最大は100Mb/sであるのに対し、AP3000は200MB/s(1秒間に200メガバイトの転送速度、1バイトは8ビット)の専用ネットワークにより接続されている。すなわち,通信に関してはAP3000が16倍高速であることになる。転送速度の実効値は、データの大きさやMPIに関する処理、あるいはプロセッサが行っている各種のプロセスなどで変わると思われるが、本計算問題では、データ転送に関してもクラスターの方が効率的な処理を行っていると考えられる。
 
 VPP500では、ベクトル計算のためのチューニングを特に意識していないため経過時間はAP3000より大きくなっている。経過時間は2プロセッサを基準として、4プロセッサで1.83倍、8プロセッサで3.40倍、16プロセッサで6.31倍である。2プロセッサから4プロセッサに増やした際の高速化はクラスターで1.88倍、AP3000で1.85倍であり、ほぼ同様の高速化が達成されていることがわかる。データ転送に関しては、VPP500は400MB/sの専用ネットワークで接続されており、AP3000よりも高速となっている。しかしながら、並列化による高速化の倍率を見る限りクラスターやAP3000との差は無い。
 
 クラスターでは、計算ジョブが多数同時に実行されることがあるため、4プロセッサによる計算を2本、あるいは4本同時に実行し、その計算時間を測定したが、トータルの経過時間は2本の場合で1.97倍、4本の場合で4.00倍と、ほぼジョブ数に比例して増加しており、データ転送が混み合うことによる計算効率の低下は見られなかった。小規模な並列計算であるならば、クラスターは大型計算機システムと比べ何ら遜色がないことがわかった。
 
 複数のワークステーションやパソコンを接続することにより構成されるクラスターは、経済的な面や取り扱いの容易さといった点で、今後研究グループレベルでの利用が盛んになると考えられる。
 

コメント    :
 ワークステーションやパソコンの性能は著しく向上しており、複数台を通常のネットワークで接続するだけのクラスターで、大型並列計算機システムと同等の並列化効率が得られることが示されたことは、計算科学技術の普及を考える上で意義深く、並列計算が安価に行えるものとして広がることが期待される。
 

原論文1 Data source 1:
非浸透格子ガスモデルによる二相流シミュレーションコードの開発並びに並列化
渡辺 正、海老原 健一、蕪木 英雄
日本原子力研究所
JAERI-Data/Code 97-056 (1998)

原論文2 Data source 2:
ワークステーションクラスターによる格子ガス二相流シミュレーションコードの並列計算
渡辺 正、海老原 健一、加藤 克海
日本原子力研究所
JAERI-Data/Code 99-029 (1999)

キーワード:ワークステーションクラスター、並列計算、格子ガス、2相流シミュレーション
workstation cluster, parallel computation, lattice gas, two-phase flow simulation
分類コード:190101, 190201, 190302

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