原子力基盤技術データベースのメインページへ

作成: 1999/11/26 渡辺 正

データ番号   :190024
格子ガス法による2相流界面積の測定
目的      :2相の混合及び相分離過程における界面積の数値的測定手法と数値実験相関式の開発
研究実施機関名 :日本原子力研究所計算科学技術推進センター数値実験技術開発グループ
応用分野    :原子炉熱流動、安全解析、流体工学、数値流体

概要      :
 クエット流れにおける相分離及びキャビティ流れにおける2相の混合を格子ガス法により計算した。流れ場はナビエストークス方程式の数値解あるいは解析解と一致した。2相界面は2つの相の間の格子点として定義し、定常状態において界面積を測定した。キャビティ流れにおいては、壁の速度とともに界面積は大きく増加し、壁速度と界面積が相関付けられることを数値的に示した。
 

詳細説明    :
 格子ガス法は水や空気といった連続した流体を小さな部分に分け,それぞれの部分が流体を構成する粒子であると考え,各粒子の運動を計算することにより,粒子の総体としての流体の運動を捕らえようとするものである。即ち、格子ガス法では、物理空間を離散的な格子で表し、離散的な速度を持った仮想的な流体粒子を格子上に配置する。流体粒子は、計算の1タイムステップで1格子単位だけ移動することができる。ひとつの格子点上に複数の粒子がある場合、粒子はある衝突規則に従ってその格子点上で配置を変化させる。複数の流体を扱うために考案された手法では、粒子に色の区別を付け、例えば赤と青の2種類の粒子を考える。それぞれの粒子には、格子ガス法における粒子の移動、衝突の他に、同種の粒子同士が引き合う効果を考慮する。これは、流れ場の色の空間変化に対して、粒子配置を変化させるために必要な仕事量を最小にするという原理に基づいて行なわれる。
 
 2相流動現象は、一般に各相が分散し界面形状が複雑に変化するため、流体方程式により記述し詳細に解析することが困難である。2相間の熱や運動量の移動は界面を通して行われるため、界面を扱うための様々な数値解析手法や実験相関式が提案されているが、微細な界面挙動の記述には問題が多い。格子ガス法は制約も多いが、界面形状の変化、2相の分離、合体等は比較的容易に扱うことができるため、ここでは、クエット流れにおける2相の分離とキャビティー流れにおける混合を計算し、界面挙動に対する格子ガス法の適用性を検討した。以下、キャビティ流れの結果を示す。
 
 計算領域は128x128の格子点からなる2次元矩形領域とする。計算領域の左右側面及び底面においては、壁に衝突した粒子は入射方向に跳ね返るものとする。上面では、入射方向ばかりでなく法線に対して対称な方向へもある割合で跳ね返るものとする。これにより、上面では1方向に対して運動量を与えることとなり、流れを模擬することができる。初期条件はランダムな粒子配置とし、計算領域の底面側半分を赤粒子、上面側半分を青粒子が占めるものとする。レイノルズ数80の流れ場を、ナビエストークス方程式を差分法で解いた場合と比較したのが図1であり、流れ場が良好に計算されることが分かる。


図1 Steady-state velocity field in a cavity flow. (a) ILG (Immiscible Lattice Gas). (b) FDM (Finite Difference Method). (原論文1より引用。 Reprinted with permission from Elsevier Science, Copyright 1999.)

 図2に無次元密度が0.60、上面の無次元移動速度が左から右へ0.058の場合の流れ場の過渡変化の一例を示す。初期状態(t=0:tはタイムステップ)から50000ステップ(t=50000)までの粒子分布を濃淡で表したものであり、流れ場の発達にともなって2相が互いに混ざり合い、界面形状が複雑に変化する様子が見られる。界面積の変化を調べるために格子点上の粒子の色の配置に着目する。格子点に存在する粒子がすべて同じ色で、かつ隣接する格子点に存在する粒子もすべて同じ色である場合、この格子点はその色の相の内部にあると考える。
 
 周辺に1つでも異なる色の粒子がある場合、その格子点は界面上にあるものとする。計算領域内の界面上の格子点の数を全格子点数で割ると界面積濃度が得られる。壁の移動速度ゼロの場合の定常状態における界面長さを基準値として、壁の移動速度を変えていった場合の定常状態における界面長さを調べ、混合状態を調べることができる。


図2 Typical evolution of the mixing of two phases in a cavity flow. (原論文1より引用。 Reprinted with permission from Elsevier Science, Copyright 1999.)

 図3には界面積濃度(Ai*)を上面の移動速度(Uw)に対して示している。密度(d)は0.45〜0.60としているが、いずれの密度でも壁の移動速度が増加するほど界面積が増加し、2相の混合が促進されていることがわかる。また、密度が大きいほど界面積の増加は著しいことがわかる。ここで、定常状態では2つの相はそれぞれ分散し混ざりあっているものと考え、気泡流の状態を想定する。気泡流の界面積濃度は、実験的にいくつか提唱されているが、実験相関式は系の代表速度の冪乗で与えられるものが多く、その指数は代表的なもので2/9〜1である。
 
 図3では、上面の移動速度の0.5乗の曲線もプロットしてあるが、計算値との一致はいずれの密度に対しても良好である。格子ガス法を用いたこれらの結果から、2相流の界面現象を扱うために粒子法が有効であることが示された。


図3 Interfacial area concentration in the steady-state cavity flow as a function of the wall speed. (原論文1より引用。 Reprinted with permission from Elsevier Science, Copyright 1999.)

 

コメント    :
 2相流解析において、界面積は最も重要なパラメータであるが、これまでは実験で得られた相関式に頼らざるを得なかった。このため、実験条件や測定制度に制限された相関式しか用いることができず、数値解析の精度は上がらなかった。本研究では、粒子法による2相流解析で、流動様式や界面積の変化が数値的に決定できることを明らかにしており、今後、各種流体解析において広範な応用が期待できる。
 

原論文1 Data source 1:
Numerical evaluation of interfacial area concentration using the immiscible lattice gas
Tadashi Watanabe, Kenichi Ebihara
Japan Atomic Energy Research Institute, Tokai-mura, Naka-gun, Ibaraki-ken, 319-1195, Japan
Nuclear Engineering and Design 188 (1999) 111-121.

原論文2 Data source 2:
非浸透格子ガスモデルによる二相流シミュレーションコードの開発並びに並列化
渡辺 正、海老原 健一、蕪木 英雄
日本原子力研究所
JAERI-Data/Code 97-056 (1998)

原論文3 Data source 3:
ワークステーションクラスターによる格子ガス二相流シミュレーションコードの並列計算
渡辺 正、海老原 健一、加藤 克海
日本原子力研究所
JAERI-Data/Code 99-029 (1998)

キーワード:2相流、混合、相分離、界面積、格子ガス
two-phase flow, mixing, phase separation, interfacial area, lattice gas
分類コード:190101, 190201, 190204

原子力基盤技術データベースのメインページへ