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作成: 1999/01/27 町田 昌彦

データ番号   :190019
層状超伝導体における磁束線のダイナミクス:時間依存のギンツブルク・ランダウ方程式を用いた直接数値シミュレーション
目的      :高温超伝導体のような層状構造の影響を強く受けた磁束線のピンニングダイナミクスを数値シミュレーションする
研究実施機関名 :日本原子力研究所・計算科学技術推進センター
応用分野    :超伝導物理学、超伝導材料工学,数値シミュレーション研究、理論物理学

概要      :
 高温超伝導体に代表される層状構造を有するような超伝導体の磁束ピンニング・ダイナミクスが数値シミュレーションされる。層状構造のモデルは、超伝導臨界温度の一方向(c軸方向)に対する周期的変化により与えられ、最も低い超伝導臨界温度より低い温度とそれよりも高い温度の二つの温度でピンニング・ダイナミクス(柱状欠陥と点欠陥が用いられる。)が比較される。前者のケースでは磁束は直線状であるため3次元的ピンニング・ダイナミクスが支配的である一方、後者のケースでは、階段状に磁束の構造が変化するため、層方向に対して相関が失われた2次元的ダイナミクスが実現することが示される。
 

詳細説明    :
 高温超伝導体は、結晶構造が層状性をもつため、その影響を強く受けた磁束線が磁場及び輸送電流の下での超伝導特性を支配している。従って、これまでの直線状磁束線のダイナミクスを基礎とした理論的取り扱いでは、超伝導特性を十分に説明できないことが知られている。そこで、層状構造の影響を受けた磁束線のダイナミクスを理解すべく、時間依存のギンツブルク・ランダウ方程式とマックスウエル方程式を連立させて解く数値シミュレーションを行った。
 
 任意の磁場及び輸送電流の下での数値シミュレーションを行うため、外部磁場及び電流誘導磁場がマックスウエル方程式の境界条件として導入される。また、高温超伝導体の磁束ピンニング・ダイナミクスとして基本的な点欠陥や、臨界電流の大幅な増加が期待されている柱状欠陥との相互作用が調べられる。このシミュレーションでは、欠陥等は、超伝導臨界温度がその周囲に比べて大幅に低下している部分として導入される。特に柱状欠陥等は、超伝導コヒーレンス長程度の半径を持つ柱状の部分で転移温度がゼロとするように与えられる。
 
 実際の数値シミュレーション結果を見ていこう。図1は、3本の柱状欠陥の下での磁束ピンニング・ダイナミクスをシミュレーションした結果である。3本の大きな円柱状の部分が柱状欠陥であり、それに対して数多くの斜めに横たわっている紐状のものが磁束線である。この図のようなダイナミクスのスナップショットを与える温度では、磁束線は、ほぼ直線的であり、その一部のみが柱状欠陥とオーバーラップしている様子が分かる。本シミュレーションでは、輸送電流が紙面に垂直方向に流れているため、磁束線は,ローレンツ力を受けて下から上方向へ移動する。その際、磁束線の一部は柱状欠陥にトラップされているが、磁束線全体としてトラップされる体積は、ほとんど変化しないことから、この状態では、ピンニングは有効に働かないことが分かる。


図1 T=6Kにおける磁束の構造(直線状磁束線)と3本の柱状欠陥との磁束ピンニング・ダイナミクスのスナップショット(紙面に垂直方向に輸送電流が流れているため磁束線は上方向に流れている)。 j=0.01, Ha=0.2Hc2(6K)(原論文2より引用)

 一方、全く同じモデルを用いてより高温で得られたシミュレーション結果を図2に示す。図から分かるように磁束線は直線状ではなく階段状の形状をしており、柱状欠陥に垂直な成分と平行な成分の二つから成っていることが分かる。これは、設定温度が弱い超伝導層の臨界温度よりも高いため、磁束線がより超伝導エネルギーの損失を抑えるために、弱い超伝導層をできるだけ長く貫くという特性が発現したものと考えられる。このような構造を持つ磁束線の場合は、図から見て分かるように、柱状欠陥に平行な磁束成分のみが運動しピンニングされる。
 
 この際、磁束線の欠陥にトラップされる体積は、磁束の運動によって大きく変化するため相互作用は非常に強く、一度トラップされた成分は、トラップされたまま動かない。こうして、高温で磁束の構造の変化により磁束ピンニングが有効に働き始めることが分かる。こうした現象は温度の増加と共に通常は減少する傾向を示すピンニングという常識的な理解の範囲を超えるものであり、数値シミュレーションにより始めて明らかにされたと言うことができる。このようなピンニング特性の温度変化は、実際、高温超伝導体で一部観測されており、層状構造の影響を受けた複雑な磁束線のピンニング・ダイナミクスが数値シミュレーションのように起こっていると考えられるのである。


図2 T=14Kにおける磁束の構造(階段状磁束線)と3本の柱状欠陥との磁束ピンニング・ダイナミクスのスナップショット(紙面に垂直方向に輸送電流が流れるているため階段状磁束の柱状欠陥方向の磁束成分のみが左から右へ移動し、柱状欠陥にトラップされたりする)。 j=0.005, Ha=0.2Hc2(14K)(原論文2より引用)

 更に、数値シミュレーションは、結晶中に必ず内在すると考えられる点欠陥についても行われ、主に強い超伝導層に位置する磁束成分のみが強い超伝導層内に位置する欠陥とだけ強いピンニングを受けることが示された。これは、弱い超伝導層内に位置する点欠陥は、弱い層の超伝導臨界温度を超える温度で、全くピンニングに寄与できないからである。このような状況では、ピンニング・ダイナミクスを支配するのは、強い超伝導層を貫く磁束成分だけで決定されることが分かる。また、弱い超伝導層内に位置する磁束成分は、その長さをほぼ自由に変えることができるため、層方向の相関は失われ、2次元的ダイナミクスへと系のダイナミクスがクロスオーバーしたと見ることができる。
 

コメント    :
 本計算技術は、結晶構造(層状構造)の影響を強く受けた磁束線のピンニング・ダイナミクスを扱うなど、多数の複雑な条件が入り組んだ理論的取り扱いの困難な問題を直接数値シミュレーションによって容易に調べるという際立った特徴を有している。数値的に解く方程式は、時間依存のギンツプルク・ランダウ方程式とマックスウエル方程式という磁束の構造やダイナミクスを調べる上で最も基本的な方程式である。方程式のパラメータの空間変化は、様々なタイプの層状超伝導体や結晶中に存在する欠陥等を容易に再現し、解の時間発展は磁束のダイナミクスを記述する。理論的取り扱いが複雑さを増し困難になる一方、こうした第一原理的数値シミュレーションが重要な役割を果たす機会は今後も大幅に増えると期待される。
 

原論文1 Data source 1:
Direct Numerical Experiment on Two-Dimensional Pinning Dynamics of a Three-Dimensional Vortex Line in Layered Superconductors
M. Machida and H. Kaburaki
Japan Atomic Energy Research Institute
Phys. Rev. Lett. Vol. 75, No. 17 (1995) pp. 3178-3181.

原論文2 Data source 2:
第二種超伝導体における磁束運動の数値シミュレーション
町田 昌彦、加藤 克海、蕪木 英雄
日本原子力研究所
電気学会論文誌 A 平成7年12月号 (Trans. IEE of Japan, Vol. 115 A, No. 12 (1995)) pp. 1171-1179.

キーワード:第二種超伝導体、高温超伝導体、時間依存のギンツブルク・ランダウ方程式、マックスウエル方程式、磁束ピンニング、点欠陥、柱状欠陥
type II superconductor, high-Tc superconductor, time-dependent Ginzburg-Landau equation, Maxwell equation, flux pinning, point defect, columnar defect
分類コード:190202, 190101, 190304

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