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作成: 1998/10/26 渡辺 正

データ番号   :190015
リアルタイムモニターシステムの開発
目的      :スーパーコンピュータで実行中のシミュレーションの途中経過を実時間で可視化しモニターするシステムの開発
研究実施機関名 :日本原子力研究所計算科学技術推進センター数値実験技術開発グループ
応用分野    :数値流体工学、数値解析技術、可視化技術

概要      :
 スーパーコンピュータや計算サーバ用ワークステーションで実行中のシミュレーションの途中経過を逐次、可視化用ワークステーションへ転送し、実時間可視化とビデオ録画を行うリアルタイムモニターシステムを開発した。本システムは、特殊な画像処理技術や装置を必要とせず、汎用可視化ツールAVSと通常のUNIXコマンドにより構築されているため、様々な計算機環境に応じた使用、拡張が可能である。
 

詳細説明    :
 計算科学研究では、しばしばスーパーコンピュータや計算サーバ用ワークステーションを用いた大容量、長時間のシミュレーションを行う。大規模シミュレーションでは、理想的な条件下であらゆる変数の数値データが得られる反面、その膨大なデータの処理が問題となる。データ処理技術として最も重要と考えられるものの一つは可視化技術であるが、これまではシミュレーション結果に対するデータ処理技術として研究開発が行われてきた。計算科学研究においても、シミュレーションはスーパーコンピュータで実行し、計算終了後に結果をグラフィックスワークステーションやパソコンに転送し、可視化、アニメーション作成を行うのが一般的である。これは、スーパーコンピュータがフロント、バックエンドとして構成されていたり、計算をバッチジョブとしてサブミットする形式を採用しているため、計算の開始や終了が任意でなく、また個人が占有して使用することが許されていないためである。
 
 しかしながら、シミュレーション終了後にのみデータ処理や可視化を行っていては、実質的なシミュレーション研究の効率を上げることはできない。計算機資源の有効利用を図るためには、パソコンのように計算を実行しながらその結果を描画し、任意に計算を中断しパラメータを変更し再実行する、とういうことがスーパーコンピュータを用いた大規模シミュレーションにおいても必要となる。そこで、シミュレーション結果の効率的な理解のための可視化利用技術の一つとして、スーパーコンピュータや計算サーバ用ワークステーションで実行中のシミュレーションの途中経過を、逐次可視化処理用ワークステーションへ転送し、実時間可視化とビデオ録画を行うシステムを開発した。
 
 本システムの開発に用いた機器構成はネットワークに接続された可視化用ワークステーションとビデオ装置であり、制御用プログラムは、スーパーコンピュータ上でのシミュレーションのためのサブミット用シェル、可視化用出力ファイルの転送用シェル、可視化用ワークステーション上での可視化ツールを起動するための描画用シェルからなる。本システムは特殊な画像処理技術や装置を必要とせず、汎用可視化ツールAVSとUNIXコマンドにより構築されている。また、シミュレーションプログラム自体に変更を加える必要がないため、様々な計算機環境に応じた使用、拡張が容易である。本システムの開発に用いた計算機システムは図1に示すように、ネットワークにより接続されたスーパーコンピュータ、及び可視化用ワークステーションである。ネットワークには、各種ワークステーションやパソコンが接続されている。


図1 Super computers and visualization systems.(原論文2より引用)

 リアルタイムモニター機能を利用するには、いずれかの可視化システム上でリアルタイムモニタープログラムを起動し、同時にスーパーコンピュータ上のシミュレーションのためのサブミットシェルを実行する。リアルタイムモニターは可視化ツールAVSを起動後、指定された描画用ファイルが転送されてくるのを待つ。ファイルがくるとデータをAVSの入力として渡し、所定の形式で描画を実行しビデオの1画面として記録した後、ファイルに番号をつけて保存する。保存の際に圧縮を行ったり、テープ装置へ転送することも可能である。
 
 シミュレーションジョブは前回のシミュレーションのリスタート出力ファイルを読み込み計算を開始し、描画用中間データをいくつか出力した後新しいリスタートファイルを書き出して終了する。作成された描画用データは逐次、可視化用システムに転送される。一つのジョブの正常終了を確認すると次のジョブが投入され過渡変化を計算し続ける。これは、流体計算において、ある初期値から出発して定常状態まで計算する際によく使用する方法である。図2は2次元の二相流の相分離の計算をモニターした例、図3は3次元の熱対流の発生の計算をモニターした例である。


図2 Example of real time monitor system (two-phase separation).(原論文2より引用)



図3 Example of real time monitor system (thermal convection pattern).(原論文2より引用)

 

コメント    :
 可視化技術は、シミュレーション研究の現場で研究者個人やグループが計算結果を効率的に理解し、新たな計算やデータ処理を速やかに行うために利用される。しかし、可視化のために時間や人員を費やすのは困難な場合が多い。このため、特殊な技術や装置を必要とせず、シミュレーションプログラムに変更を加える必要のない簡便な可視化システムは、シミュレーション研究に根ざした利用技術として重要である。
 

原論文1 Data source 1:
リアルタイムモニターシステムの開発
加藤 克海、*渡辺 正、*蕪木 英雄
高度情報科学技術研究機構、*日本原子力研究所計算科学技術推進センター数値実験技術開発グループ
JAERI-Tech 96-044(1996).

原論文2 Data source 2:
計算科学における可視化技術の利用
渡辺 正、*加藤 克海
日本原子力研究所計算科学技術推進センター数値実験技術開発グループ、*高度情報科学技術研究機構
画像ラボ、第8巻2号、20-22(1997).

キーワード:シミュレーション、可視化、リアルタイムモニター、AVS
simulation, visualization, real time monitor, AVS
分類コード:190101, 190201, 190304

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