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作成: 1998/10/05 村松 壽晴

データ番号   :190011
流体温度ゆらぎによる構造物の熱的荷重条件評価手法の開発
目的      :複合連成現象の統合数値シミュレーション
研究実施機関名 :核燃料サイクル開発機構、大洗工学センター、システム技術開発部、熱流体技術開発グループ
応用分野    :原子力プラント設計、原子炉プラント健全性評価、伝熱流動

概要      :
 流体温度ゆらぎによる構造物の熱的荷重条件を数値的に評価するコードシステムを開発した。同システムは、時間平均および局所瞬時ナヴィエ・ストークス方程式による乱流解析コードおよび直接シミュレーションコード、ボルツマン方程式の直接シミュレーションモンテカルロ解法による非定常熱伝達解析コードおよび熱弾性線形化式による構造物の熱的応答解析コードから成り、流体から構造物に亘る一貫した熱的連成現象の評価が可能である。
 

詳細説明    :
 流体温度ゆらぎなどに起因した熱荷重による構造物の疲労評価問題は、機器や装置の設計、更にはその構造健全性を左右する工学上重要な基本問題の一つである。中でも、高速増殖炉のような液体金属を冷却材として用いる原子炉の構造物は、炉心部での大きな温度差と高い熱伝導率とにより生じた大きな流体温度ゆらぎ場に置かれるため、無視し得ない熱疲労の発生が考えられる。このため高速増殖炉の設計では、流体温度ゆらぎ挙動の発生から構造物の熱疲労発生までを一括してサーマルストライピング現象と称して、主要な設計評価項目の一つとして位置づけている。
 
 しかし、サーマルストライピング現象を特徴づける流体温度ゆらぎの振幅や周波数は、評価対象の形状などに極めて強く依存して大きく変化する。このため従来では、新たな原子炉構造の採用にあたり、液体金属を用いた実寸大モックアップ装置による実験評価が個々に必要であった。また、サーマルストライピング現象に対する設計の見直しにあたっては、このモックアップ実験を行うために膨大な時間と費用が必要とされた。
 
 本研究では、上記課題と問題点を受け、汎用性、迅速性に優れた数値解析手法による評価システム(図1)を開発した。本システムの特徴は、工学問題に一般的に用いられている汎用多次元乱流解析コードの役割と乱流直接シミュレーションコードとの役割を明確に分離し、乱流直接シミュレーションコードが計算機に要求する性能を可能な限り低減させていることにある。すなわち、汎用多次元乱流解析コード(AQUA)に温度ゆらぎ強度の定量的な推定と、これに基づく評価対象領域の限定の役割を持たせることにより評価上の解析対象領域を狭め、これを受けて乱流直接シミュレーションコード(DINUS-3)が境界層内温度ゆらぎ減衰効果を考慮した温度ゆらぎ時系列挙動の推定と、温度ゆらぎ頻度分布特性の評価を行うものである。


図1 流体ー構造熱的連成挙動に対する解析的評価システム

 一方、境界層による温度ゆらぎ減衰効果と構造物の熱容量を考慮した乱流直接シミュレーションコードによる温度ゆらぎ時系列挙動の評価では、時間的に不規則に変動する温度ゆらぎ場における熱伝達係数を規定する必要がある。従来、工学分野で使用されている同係数は、強制あるいは自然対流場における時間平均量として定義されていることから、ここで対象とするような境界層厚さや温度差が時間空間的に不規則に変動する挙動の評価には用いることができない。このため、分子運動論でのボルツマン方程式を直接法モンテカルロモデルによって解くことにより、流体と構造物との間における単位時間単位面積当たりの移動熱量を時々刻々評価して非定常熱伝達係数を規定する(THEMIS コード)。構造物内熱的応答特性は、熱弾性線形化式を基礎式とし、これを境界要素法によって離散化して解く BEMSET コードにより評価する。なお、同評価システムでは、DINUS-3 コードと BEMSET コードにより時々刻々評価される構造物の表面温度を境界条件とし、両コード間で繰り返し過程を形成する。
 
 同評価システムを検証する目的で行われたナトリウムを作動流体とした流体ー構造熱的連成基礎試験の解析結果の一例として、図2aに DINUS-3 コードによる流速ベクトルとナトリウム温度の瞬時分布を、また図2bに DINUS-3 および BEMSET コードによる温度ゆらぎ時系列挙動を示す。結果より、高温ナトリウムと低温ナトリウムとが左右に振動しながら上昇する様子が確認され、また温度ゆらぎ振幅および周波数が、流体から構造物に向かうに従い、大きく減衰する挙動が評価された。図3に、高低温ノズルの横方向中央位置における温度ゆらぎ振幅の減衰特性を実験と解析で比較する。この比較より、実験に見られる境界層を通過することにより発生する温度ゆらぎ振幅の急激な減衰特性を、解析が極めて良好に模擬できることが確認された。


図2 流体ー構造熱的連成試験の解析結果. a)瞬時流速ベクトルおよび瞬時ナトリウム温度. b)各種位置での温度過渡: 1-試験片表面温度, 2-試験片内温度(表面より0.5mm位置), 3-ナトリウム温度(表面より5mm位置), 4-ナトリウム温度(表面より10mm位置)



図3 構造物近傍における温度ゆらぎ振幅減衰挙動の比較

 今後の原子炉設計では、流体と構造物の境界領域で発生する熱流動現象の特徴的な変化を高い精度で模擬し、安全性を確保しつつも確固たる根拠に基づいて安全裕度を切り詰め、プラント全体の経済性を向上させることが肝要である。本評価システムは、大型モックアップ実験に依ること無く、また熱流動場を乱すこと無く対象とする熱流動現象を機構論的に分離・評価し、構造設計側に高い精度の熱的境界条件を受け渡すことが可能であり、今後の原子炉設計の合理化に大きく寄与することが期待される。
 

コメント    :
 従来では個別に取り扱われてきた複合工学問題を、大幅に性能向上した計算機を用いることによって、統合した数値解析評価が可能になりつつある。これにより、安全裕度を見込まざるを得なかった境界領域分野での評価が高精度化され、合理的・経済的なプラントなどの設計が可能となる。
 

原論文1 Data source 1:
サーマルストライピング現象に対する解析的評価手法の開発
村松 壽晴、二ノ方 壽
核燃料サイクル開発機構 大洗工学センター
日本原子力学会誌 Vol. 36, No. 12 (1994) pp. 1152-1163.

原論文2 Data source 2:
Thermal Response Evaluation of Austenitic Stainless Steels Due to Random Sodium Temperature Fluctuations Using BEMSET and DINUS-3 Codes
Toshiharu Muramatsu
Japan Nuclear Cycle Development Institute, O-srai Engineering Center
ASME Pressure Vessels and Piping Conference, PVP-Vol. 337, Fluid-Structure Interaction (1996) pp. 215-223.

原論文3 Data source 3:
流体ー構造熱的連成挙動の数値解析
村松 壽晴
核燃料サイクル開発機構 大洗工学センター
日本機械学会 第10回計算力学講演会講演論文集 (1997) pp. 195-196.

キーワード:流体ー構造熱的連成挙動、サーマルストライピング、直接数値シミュレーション、境界要素法、高速増殖炉、熱応力、熱荷重、高サイクル熱疲労
fluid - structure interaction phenomena, thermal striping, direct numerical simulation, boundary element method, fast breeder reactor, thermal stress, thermal load, high-cycle thermal fatigue
分類コード:190201, 190204

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