メゾスコピック微細構造を考慮した多結晶黒鉛の破壊確率モデリング

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作成： 1999/02/22 荒井　長利データ番号　　　：190008 メゾスコピック微細構造を考慮した多結晶黒鉛の破壊確率モデリング目的　　　　　　：セラミックスの脆性破壊現象の微細組織特性を考慮する確率モデルの選定、検証研究実施機関名　：日本原子力研究所大洗研究所高温照射研究室応用分野　　　　：多結晶黒鉛の強度設計、セラミックス部品の強度設計、セラミックスの製造プロセスの改良、セラミックスの強度予測概要　　　　　　：　セラミックスの構造健全性問題は、機器の熱的及び機械的荷重条件下での応力状態に対して、如何に破壊確率を解析評価するかが根本的な命題である。この際、セラミックスの破壊現象を、その製造プロセス条件などに依存する微細組織(メゾスコピックな結晶粒子／気孔の集合組織)で数理モデル化し、連続体力学解析に結合する方法論の確立が必要である。本論文では、実用原子炉用黒鉛の破壊確率モデルを説明し、実験破壊確率データへの適用性を検討している。　詳細説明　　　　：　構造用セラミックス材料の脆性破壊挙動に関する課題の一つは、機械設計ないし構造健全性の評価を如何に合理的に行うかである。旧来のように最大主応力説、クーロン・モール説、最大ひずみエネルギー説などの古典的破壊基準を用いる許容応力法は、材料データのばらつきのため設計基準強さの設定に合理性に欠ける。実用多結晶セラミックスの脆性破壊は、製造プロセスで導入される潜在的欠陥(マイクロクラックなどと呼ぶ)に起因するとされ、破壊強度の統計的性質に関する理論的説明が、ワイブル理論などをはじめ、それらの修正モデルなど、現在でもなお理論的に研究されている。これまでの理論的研究の最大の弱点は、個々の材料毎に特有の潜在的欠陥の実体を明示的に考慮できないことである。　　本研究では、実用原子炉用黒鉛のメゾスコピックな微細構造(結晶粒子／気孔の集合組織)の定量的観察データを考慮できる、Burchellらが提案した微視的破壊力学モデルの適用性を検討した。この理論モデルでは、材料を等価的な立方体結晶粒子の集合であると仮定し、その材料中に一様に、かつ、応力軸にランダムな傾きをもって配置されているスリット状の亀裂(気孔)が、結晶粒子の層面方向に進展して行き、それが臨界長さに達した時に材料の全体破壊が起こるものと考える。即ち、最も簡単な単軸引っ張り応力(σ)下での破壊確率P_t_o_tの定義式を図1に示す(原論文1)。図1　微細組織を考慮する破壊確率モデル　この微視的破壊確率計算式は、微細組織のメゾスコピック特性パラメータとして、気孔についてのN、S₀、S_d、結晶粒子についてのa、K_I_C、又、試験片パラメータとしてV、bを含んでいる。この中で結晶粒子のK_I_C(層面へき開の臨界応力拡大係数)は理論パラメータで、おおよそは材料の巨視的な破壊靭性値の1/3程度で近似できる。その他のメゾスコピック特性パラメータは、材料の光学的観察を画像解析することにより定量化できるものである。　　ここでは微細組織の著しく異なる2種の原子炉用黒鉛を対象に上記の微視的破壊確率モデルを検討する。一つは高強度の微粒等方性黒鉛IG-110(平均結晶粒径が約20ミクロン)、一つは普通強度の汎用黒鉛PGX(最大結晶粒子径が約800ミクロン)である。　　図2に微細組織の画像解析結果として、気孔形状の最重要なパラメータと考えられる最大フェレ径(亀裂の最大長さに相当)の累積確率分布を示す。IG-110黒鉛の最大フェレ径はほぼ理想的な対数正規分布を示し、平均値は約23ミクロンである。又、PGX黒鉛の分布はバイモーダル型対数正規分布により近く、平均値が約100ミクロンである。図2　Cumulative distributions of pore max. Feret's diameter (magnification; 500 for IG-110 and 100 for PGX)（原論文1より引用）　この亀裂の最大長さを前述の理論モデルにおける気孔径分布関数として用い、破壊確率の評価をする。両者の黒鉛に対する計算結果を実験値の引っ張り強度分布と比較して図3に示す。この場合、黒鉛結晶粒子に関する破壊靭性値は0.225 MPa m⁰^.⁵としている。IG-110黒鉛については理論と実験が極めて良く一致している。PGX黒鉛では、気孔径の分散度S_dの実験値を若干修正することで良い結果が得られる。図3　Tensile strength of graphite（原論文2より引用）　以上のように、Burchellらが提案した微視的破壊力学に基づく多結晶黒鉛の破壊確率モデルは、材料組織の画像解析データを用いて、引っ張り強度の確率分布を精度良く予測できることが示された。即ち、材質に固有の微細組織構造を考慮する破壊現象の記述モデルとしての基本的な有効性が例示できた。実際的な構造物の健全性解析に導入するためには、更に多軸応力状態への拡張などの課題が残されている。　コメント　　　　：　この確率論的脆性破壊モデルは、材料の微細組織観察結果を用いることによってかなり高精度な強度予測が可能となる。高品質の材料製造法の改良のための定量的手法としても注目される。　原論文１ Data source 1：メゾ微細構造を考慮した多結晶黒鉛の破壊確率モデリング荒井　長利、T. D. Burchell、中西　幸紀日本原子力研究所、Oak Ridge National Laboratory, USA 日本機械学会講演会論文集、材料の強度と破壊に関するモデリング／シミュレーション／マルティメディアシンポジウム［No. 97-44］ pp. 113-116 (1997) 原論文２ Data source 2：微細組織を考慮した確率論的破壊モデルの多結晶黒鉛とSiCへの適用と検討中西　幸紀、荒井　長利日本原子力研究所日本機械学会第75期通常総会講演会論文集(Ⅱ)［No. 98-1］ pp. 255-256 (1998) 参考資料１ Reference 1： A Microstructurally Based Fracture Model for Polygranular Graphites T. D. Burchell )Oak Ridge National Laboratory, USA Carbon 34[3], pp. 297-316 (1996) キーワード：構造用セラミックス、原子炉用黒鉛、構造健全性解析、引っ張り破壊確率モデル、微細組織、結晶粒子、気孔寸法、微視的破壊力学 structural ceramics, nuclear grade graphite, structural integrity analysis, probabilistic tensile fracture model, microstructure, crystal grain, pore dimension, micro-fracture mechanics 分類コード：190204, 190205
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