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作成: 1999/01/30 牧野内 昭武

データ番号   :190006
大変形における3次元熱弾塑性有限要素法の開発と熱履歴を考慮した変形問題への適用
目的      :加工及び熱履歴を受けた構造物の強度予測のための有限要素法プログラムの開発
研究実施機関名 :理化学研究所素形材工学研究室
応用分野    :熱交換器の設計製作、金属の塑性加工解析、機械部品の組み立て工程解析、構造物の熱衝撃解析

概要      :
 材料非線形、幾何学非線形、そして接触非線形と3つの異なる非線形に支配される熱弾塑性境界値問題を熱との連成のもとに解くための定式及びアルゴリズムを開発し有限要素法プログラムを作成した。このプログラムを用いて管板への伝熱管の拡管による取り付け過程をシミュレーションし、残留応力分布を得た。また、これが熱衝撃を受けたときの応力分布の推移も求めた。
 

詳細説明    :
 熱交換器の製造工程において、管板への伝熱管の取り付けは拡管と溶接によって行われる。この過程で、管板と伝熱管は不均一な弾塑性変形と熱の履歴を受け、その結果局所的な残留応力や加工硬化などが生じ、その強度はこれにより強く支配される。また、使用状況によっては熱衝撃などによって、拡管部はさらに複雑な応力状態にさらされることになる。この様な問題は原子力構造物だけではなく、多くの機械や構造物の加工および組み立て過程で見られるものであるが、一般に残留応力の測定は難しく、これまであまり検討されずにいた。本研究はこの問題を扱うための新しい熱弾塑性有限要素法手法を開発することを目的としている。ただし相変態を伴う溶接の問題は本研究では除外する。
 
 金属材料の熱を伴う加工、組み立てを扱うには、材料非線形、幾何学非線形、そして接触非線形と3つの異なる非線形に支配される力学現象を熱との連成のもとに解かなくてはならない。そのために次の様な定式及びアルゴリズムを採用した。まず、材料構成式としては、温度依存の弾塑性体を仮定した。その性質は以下のような特性で記述される。弾性は温度依存で等方性の微小ひずみ線形弾性、塑性はHillの直交異方性式と連合流れ則で表される温度依存の加工硬化材、熱伝導特性は等方性である。また、幾何学非線形を扱うのに、更新ラグランジェ定式を用いた。3つの非線形のうち一番厄介なのは接触非線形である。変形体同士の接触においては、一般に接触面において物体と物体が摩擦を伴いながら長い距離をすべり、しかも接触部位および位置は変形に伴い刻々変化する。この様な複雑な接触問題を扱う手法としてペナルティー法に基づく独自の定式を開発した。
 
 以上の定式に基づく有限要素法においては弾塑性部分と熱伝導部分を分離し、問題を解くにあたって、温度と変形に伴う因子をそれぞれ受け渡しながら、弾塑性部分と熱伝導部分を互い違いに計算することとした。時間積分法としては、弾塑性部分は静的陽解法を、熱伝導部分は静的陰解法を採用し、両者の同期をとるために、独特な最小R法(R-minimum法)を導入した。これにより熱伝達を伴う接触非線形問題を安定して解くことを可能とした。さらには、大規模な問題を解くためプログラムの並列化も試みている。
 
 このプログラムを用いて、金属板材の温間成形過程のシミュレーションを行い、工具温度の影響について妥当な結果を得ている。また、熱交換器の拡管過程のシミュレーションを行い、複数の伝熱管が順番に拡管されて行く時の応力状態の推移が示されている(図1)。


図1 Mises stress distribution during assembling process of tube and tube sheet. (a) pressure is applied to one tube, (b) pressure is applied to other 4 tubes.(原論文2より引用)

 図2には、拡管後の管および管板に残留する応力の分布が示されている。接触しながらの除荷過程を精度良くシミュレーションするのはたいへん難しい。なぜなら、除荷は成形後に生じ、そのため成形過程が正確に計算されていなくては除荷過程を計算する意味がなくなってしまうこと、また、除荷過程は弾性変形に基づくものであるため、微小な変位が大きな応力を生じ、接触面の微妙な相対変位誤差が、大きな応力誤差に結びつくからである。図より本手法によって妥当な結果が得られていることが分かる。図3には拡管で組み立てられた部位に熱衝撃が加わった場合の温度および応力の推移が示されている。


図2 Mises stress distribution (a) at loading p=200MPa and (b) after unloading.(原論文2より引用)



図3 Thermal influence on the assembled structure(原論文2より引用)

 

コメント    :
 熱弾塑性接触問題は連続体力学で扱う現象の中でももっとも厄介な問題の一つである。これに真正面から取り組んで汎用性の高いプログラムを開発できたことは、今後金属材料の熱を伴う加工組み立て過程の事前評価を行うのに有効な手段となろう。特に、接触を伴う除荷後の残留応力の計算が精度良くできたことに満足している。
 

原論文1 Data source 1:
3-D thermal-elastic-plastic FEM in finite deformation and its application to non-isothermal sheet forming
H.-L. Xing and A. Makinouchi
The Institute of Physical and Chemical Research (RIKEN), 1-2 Hirosawa, Wako, 351-0198, Japan
Computational Plasticity - Fundamentals and Applications, D. R. J. Owen, E. Onate and E. Hinton (Eds.), CIMNE, Barcelona (1997) pp. 1445-1452

原論文2 Data source 2:
FE modeling of multiple thermal-elastic-plastic-body contact in finite deformation and its application to tube and tubesheet assembling
H. L. Xing, T. Fujimoto and A. Makinouchi
The Institute of Physical and Chemical Research (RIKEN), 1-2 Hirosawa, Wako, 351-0198, Japan
Proceedings of NAFEMS WORLD CONGRESS'99 on Effective Engineering Analysis, Volume 1 (Newport, Rhode Island, USA, 25-28 April 1999) pp. 669-680

キーワード:非線形固体力学、熱弾塑性有限要素法、接触問題の解法、残留応力、熱衝撃過程、板材成形、拡管過程
non-linear solid mechanics, thermo-elasto-plastic finite element method, solution algorithm of contact problem, residual stress, thermal shock, sheet metal forming, tube expansion process
分類コード:190203, 190205

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