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作成: 1998/10/29 白石 春樹

データ番号   :190004
二次元弾塑性有限要素法による材料の応力歪み曲線の解析-ボイド格子の影響
目的      :ボイドを含む材料の応力歪み曲線を定量的に評価することによって、合金設計、材料損傷、予寿命評価等に役立てる。
研究実施機関名 :科学技術庁金属材料技術研究所極限場研究センター
応用分野    :延性材料の破壊評価、粉末冶金、溶接、照射等ボイドを含む材料の強度・延性評価

概要      :
 材料中のボイド格子の形態が変化したとき、応力歪み曲線がどういう影響を受けるかについて、大変形有限要素法を用いて調べた。ボイドが大きくなると、ある一定の大きさまでは、応力歪み曲線に及ぼす影響は軽微である。ただし、均一伸びはボイドが存在しない場合の約半分に低下する。ボイドの大きさが、ボイド間隔の数%程度以上になると、変形応力が低下してくる。加工硬化率が低下すると、全伸びが著しく低下する。
 

詳細説明    :
 原子炉炉心材料は、ボイドや気泡などの欠陥を含んでいる。ここでは、問題を一般的に取り扱うために、ボイド格子を定義し、ボイド格子の基本的パラメーターが応力・歪み曲線に及ぼす影響を評価した結果を報告する。ボイドの存在は、なにも原子炉炉心に限らず、溶接界面、粉末冶金材における焼結材の粒界面に認められる。より一般的には、ディンプル破壊として知られている延性破壊においては、非金属介在物の破壊や、それとマトリクス界面の剥離がボイド形成の核になることが知られている。核発生に引き続いて、ボイド成長、ボイド合体によってディンプル破壊は進行する。今回の解析はそれらの現象への理解をも助けるものである。
 
 有限要素法適用の基本的な前提として、連続体力学、Misesの降伏条件、J2塑性流れ理論、n乗加工硬化則を仮定している。ボイド格子の境界条件としては、周期境界条件を負荷している。
 
 図1はボイド間隔を一定にして、ボイドの大きさが応力・歪み曲線に及ぼす影響を調べたものである。ボイドの大きさの影響は二つに分けられる。ボイドの直径が0.1μm以下では、ボイドの影響は小さく、応力歪み曲線は一本のマスタ-曲線上に乗っている。注目すべき点は、ボイドがない場合の均一伸びは、加工硬化指数が0.3なので、約30%のはずであるが、ボイドのある場合はボイドの大きさに関係なく、約15%に減少していることである。ボイドが1.0μmより大きくなると、ボイドが大きくなるにつれて、変形応力が低下してくる。しかし、全伸びの大きさはあまり変わらない。ボイドが大きくなってくると、強度が低下してくるのは、ボイド間の断面積が減少し、外部からの負荷応力を支える能力が低下するためである。この低下が認められるようになるのは、ボイドの大きさがボイド間隔の数%に達したときである。


図1 Effect of void diameter on stress strain relationship in material containg void lattice. Work hardeining exponent: 0.3. (原論文1より引用。 Reprinted with permission from Data source 1 below. Copyright 1999, Springer-Verlag.)

 次に、ボイド格子内の相当歪みの分布状態をみてみる。変形は、ボイドの表面から始まる。最初の塑性変形帯はよく知られているようにボイドから斜め上方に向かって進行する。全体が塑性変形状況になると、ボイドが小さいときは、即ち、ボイド直径が0.1μm以下の時は、歪みの集中はボイドの近辺にとどまる。変形応力が最大値に達したとき、歪みの集中領域は、x軸に沿って内部に広がり始める。即ち、ボイド間で内部ネッキングが生じたのである。逆に、内部ネッキングを生じたので、公称応力が減少に転じたと考えられる。この内部ネッキングを生じる歪みの値がなにによって決まるかは未だはっきりしない。ボイドの成長は、応力の多重度によることがいわれており、多分平均応力がある臨界値を越えたところでボイドの急成長が始まり、内部ネッキングが生じると思われる。
 
 図2は最終状態における相当ひずみ分布を示している。図2(a)は全体図であり、ボイド格子内部の大部分の領域では、歪みはほぼ一定になっていることがわかる。また、歪みの集中域はx軸に沿って発達している。図2(b)は、図2(a)の拡大図である。歪みの最大の領域は、ボイドの表面ではx軸ではなく、やや斜め上からでていることがわかる。ボイドの周囲には複雑な歪み分布のパターンが形成されている。
 
 図3は、ボイド直径が5.0μmと大きい場合のボイド周辺の最終時点での相当ひずみ分布である。この場合、図2に見られるような、x軸周辺の急峻な歪みの集中は見られない。そのほか、地の加工硬化指数、ボイド格子アスペクト比の影響を調べた。


図2 Final distribution pattern of equvalent true strain around void. Total elongation: 15.04%. (b) is an enlargement of (a). Work hardening exponent: 0.3, void diameter: 0.01μm, void spacing: 1.0μm. (原論文1より引用。 Reprinted with permission from Data source 1 below. Copyright 1999, Springer-Verlag.)



図3 Development of distribution of equvalent true strain around void. Total elongation: (a) 0.8368%, (b) 17.46%. Work hardening exponent: 0.3, void diameter: 5.0μm, void spacing: 10.0μm. (原論文1より引用。 Reprinted with permission from Data source 1 below. Copyright 1999, Springer-Verlag.)

 

コメント    :
 現在、モデルは2次元平面応力、周期境界条件を仮定しており、まだ初歩的な段階である。将来的には、3次元への拡張、ボイド形態のばらつきの影響、熱クリープや疲労損傷への適用を目指したい。また、結晶塑性論へも対応する必要がある。
 

原論文1 Data source 1:
Finite Element Analysis of the Deformation in Materials Containing Voids
H. Shiraisi
National Research Institute for Metals, 1-2-1 Sengen, Tsukuba, 305-0051 Japan
Springer Series in Materials Science Volume 34, Ed. by T. Saito (Springer-Verlag, 1999) pp. 227-255.

キーワード:ボイド格子、ボイド大きさ、加工硬化指数、応力歪み曲線、有限要素法、連続体力学、照射脆化
void lattice, void size, work hardening exponent, stress strain curve, finite element method, continuum body mechanics, irradiation embrittlement
分類コード:190205

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