原子力基盤技術データベースのメインページへ

作成: 1998/01/06 荒井 長利

データ番号   :190001
原子力用計算科学研究の概要
目的      :原子力用機器、システムにおける非線形、複雑現象の解明のための数値計算手法の研究
研究実施機関名 :動力炉・核燃料開発事業団(現・核燃料サイクル開発機構)、日本原子力研究所、理化学研究所、金属材料研究所、電子技術総合研究所
応用分野    :大規模システム解析、機器・構造物・材料の熱・流動・力学的挙動解析、非線形問題解析、並列計算手法、ネットワーク計算手法

概要      :
 原子力基盤技術総合的研究(クロスオーバー研究)の一部、関係5機関の共同プロジェクトとして「原子力用計算科学研究」を平成6年度より実施している。この共同研究テーマは「原子力用構造物の損傷評価」及び「複雑現象の解明」であり、計算機を用いて微少領域の物理現象、非線形・複合現象及び大規模システム連成挙動などを対象とする並列計算手法及びネットワーク計算手法等の計算科学的手法の開発を行っている。
 

詳細説明    :
 本データは、「原子力用計算科学研究」領域における共同研究テーマ「原子力用構造物の損傷評価」及び「複雑現象の解明」の全研究課題7件について、先ず、原子力用計算科学の今日的研究の背景と意義について、次いで全体的な研究目標と個別の課題を述べる。
 
 そもそも、電子計算機の本格的な科学技術計算への利用は、1960年代から原子力分野において最も先駆的に行われてきた。これは原子炉プラントが巨大かつ複合的なシステムである一方で、通常時の性能、健全性、信頼性とともに、異常時における安全性に対して十分な事前評価が必要とされたことによっている。それ以来既に30年余も経過し、電算機の利用はあらゆる科学技術研究において重要性を増し、今や研究開発の必須の手段となっている。これに加えて1990年代にいたり改めて「計算科学研究」の意義と効果が唱導される背景には以下の事情がある。
 
 第一には、計算機技術の急速な技術革新によって計算機の演算処理能力が飛躍的に発展し、その利用による新たな可能性が開けてきたことである。図1に並列計算機を含むスーパーコンピュータの性能の発展状況を示す。今日では並列計算機の最高性能は1テラフロップス(TFLOPS)に至っている。


図1 スーパーコンピュータの性能の進歩

 このような並列計算機の利用の拡大に伴ってアプリケーションソフトウェアの開発、並列プログラミング開発環境についても新たな研究の重要性も高まっている。
 
 第二に、今日、計算科学は理論、実験に次ぐ第3の科学として認められる段階に至っているとされる。その今日的計算科学の役割・使われ方はどこにあると考えられようか。我々は、今日の原子力科学技術において更なる科学技術性(論理性、最適性、安全性)と社会性(合理性、経済性、汎用性)の向上を期待している。「原子力用計算科学研究」領域の共同研究テーマ「原子力用構造物の損傷評価」及び「複雑現象の解明」の全体的な命題は、原子力研究開発における特徴的な課題、即ち、巨大システムの設計、安全性評価に関わる数値解析によるシミレーション、サブシステムの現象/大規模システムの複合的挙動や模擬実験による現象の機構論的理解のための計算科学的手法の開発である。これは、従来の実験的手法における現象論的理解の限界をブレークスルーすることを狙っている。即ち、原子力において特に特徴的な素過程、非線形現象、複合的挙動の解明を追求し、並列計算手法による大規模計算を目指している。
 
 「原子力用構造物の損傷評価」の全体的課題は、「原子力用構造物の巨視的/微視的損傷の計算力学的解析法の開発とその応用」であり、次のようなサブテーマを含んでいる(括弧内は担当研究機関)。
 
1)繰り返し有限要素法解析を用いた構造物非線形挙動の体系的評価法の開発(動燃団)
2)原子力用構造物の加工・熱履歴を考慮したシミュレーション技法の開発(理研)
3)原子力用材料の微視組織を考慮した計算力学的解析法の開発(金材研)
4)構造用脆性材料の微視的構造力学及び確率論を用いた損傷評価法の開発(原研)
 
 また、「複雑現象の解明」の全体的課題は、「計算科学的手法による原子力分野の複雑現象の解明」であり、次のようなサブテーマを含んでいる。
 
1)計算科学的手法による流体ー構造系の統合シミュレーションの研究(動燃団)
2)粒子及び連続体モデルによる複雑現象の解明(原研)
3)複雑現象の解明における高速計算機利用技術の研究(電総研)
 

コメント    :
 多くの計算科学的手法の開発が進められている。各技術の詳細は更に各分野の全体計画に関する別件のデータ、個別的な手法開発に関する別件のデータを参照さたい。
 

原論文1 Data source 1:
原子力用計算科学クロスオーバー研究
矢川元基、笠原直人、荒井長利、牧野内昭武、白石春樹、高橋亮一、山口彰、蕪木英雄、関口智嗣
東京大学、他5機関
原子力学会誌 Vol. 39, p. 340 (1997).

キーワード:並列計算機、構造力学、材料力学、熱流体力学、数値解析シミレーション、ネットワーク計算
parallel computation, structural mechanics, thermohydraulics, numerical simulation analysis, network computation
分類コード:190101

原子力基盤技術データベースのメインページへ