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作成: 1999/3/15 原見太幹

データ番号   :180015
高分解能モノクロメータの開発
目的      :meV領域のX線非弾性散乱測定のためのモノクロメータの開発
研究実施機関名 :日本原子力研究所
応用分野    :材料の研究、生体物質の研究、原子・分子のダイナミクス
neV時間スペクトル測定

概要      :
 モノクロメータとして指向性の高い放射光に対してシリコン結晶を用い、垂直入射に近い回折条件や非対称反射を組み合わせることによってmeV程度まで単色化することができる。14.4keVX線に対してシリコン結晶の対称反射、非対称反射を組み合わせることによって高分解能モノクロメータを作製できた。
 

詳細説明    :
 各種X線モノクロメ-タの性能をX線エネルギ-分解能、エネルギ-バンド幅、可干渉距離のパラメ-タを用いて表1に示す。モノクロメ-タとして指向性の高い放射光に対して動力学的な回折効果が働くシリコンの完全結晶が用いられる。バンド幅の狭いビ-ムを得るために、結晶で垂直入射に近い回折条件や結晶での非対称反射の組み合わせを利用する。これらの条件によりシリコン結晶でバンド幅をmeV程度まで単色化できる。 

表1 各種のX線分光素子を用いて得られるX線の特性(原論文1より引用)
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 エネルギー     バンド幅       可干渉距離      モノクロメーター        
   分解能        ΔE(eV)          (mm)         
   ΔE/E
-----------------------------------------------------------------------------
    10-2          102          10-5 |   
                                         |     多層膜
    10-3          10           10-4  |  | 
                                            |  モザイク結晶
    10-4           1           10-3   | |
                                          |  
    10-5          10-1          10-2| 
                                          | 
    10-6          10-2          10-1|         完全結晶
                                          | 
    10-7          10-3           1    |
  
    10-8          10-4          10
  
    10-9          10-5          102
                                          | 
    10-10         10-6          103 | |          GIAR膜(共鳴核含有) 
                                            | 
    10-11         10-7          104 | |         多層膜(共鳴核含有)
                                          |
    10-12         10-8          105 |           完全結晶(共鳴核含有)
-----------------------------------------------------------------------------
 固体中の原子核の無反跳γ線共鳴現象であるメスバウア効果が発見されて以来、核によるγ線の共鳴吸収は物理、化学、物性、生物の研究分野に広く利用されるメスバウア分光学が確立された。この分光法は無反跳分率であるラム・メスバウア因子fがゼロでない場合のみ有効とされてきた。原子核の準位を励起する時エネルギ-と運動量の保存則によりγ線のエネルギ-は核準位を励起するほか核の反跳エネルギ-を補うだけ高くなければならない。57Fe核の場合14.4keV共鳴準位を励起する反跳エネルギ-は約2meVである。この値は、γ線源の線幅10neVよりはるかに大きく、ドップラ-シフトでこのエネルギ-をカバ-することは困難である。
 
 しかし、放射光を利用すると高分解能シリコンモノクロメ-タで数meVまでX線のバンド幅を狭くすることができ、またX線の中心エネルギ-はブラッグ角を連続的に調整することによって反跳エネルギ-を補って核を励起させることができる。この方法を適用すると固体の格子振動、液体や蛋白質等の生体の複雑系のダイナミックスを調べることができる。また、高分解能モノクロメータは核共鳴散乱を行うときの電子散乱のバックグラウンドを抑える目的にも使われる。さらに、分解能を上げるとX線コヒーレント長が長くなり、X線領域での強度相関実験も可能となる。
 
 14.4 keV X線に対してシリコン結晶の対称反射で得られる分解能を図1に示す。分解能の最も良い反射は、反射インデックスh=偶数では(12 2 2),(10 6 4)の反射でΔΕ=6.7meVが得られ、h=奇数では(9 7 5),(11 5 3)の反射でΔΕ=4.2meVが得られる。今までトリスタン蓄積リング(AR)のNE3ビ―ムラインでアクセプタンス角20μradを確保する設計として、シリコン(4 2 2) 非対称反射とシリコン(12 2 2) 対称反射の図2(a)に示すチャンネルカットモノクロメータを使用してきた。


図1 シリコン対称反射のエネルギー分解能(原論文1より引用)

 さらに、シリコンの非対称反射と2結晶の(++)配置を組み合わせることによって、より高い分解能を目指すことができる。
 
 図2(b)に2つのシリコン非対称反射(5 1 1)と(9 7 5)を組み合わせたモノクロメータを示す。このモノクロメータでアクセプタンス角16μradとエネルギー分解能2.5meVを得ることができる。図3(a)に測定したエネルギー分解能を示す。
 
 図2(c)にはさらに高い分解能を目指した結晶の配置を示す。この結晶はシリコン非対称反射(9 7 5)を2個(++)配置させたもので非対称角は75.5、 非対称因子は1/4.7である。図3(b)に測定したエネルギー分解能を示す。


図2 シリコンモノクロメータ (a)非対称(422)反射・対称(12 22)反射 (b)非対称(511)反射・非対称(975)反射 (c)非対称(975)反射・非対称(975)反射(原論文1より引用)



図3 モノクロメータの分析能測定 (a)図2(b)の測定 (b)図2(c)の測定(原論文1より引用)

 

コメント    :
 
 

原論文1 Data source 1:
原子力総合的基盤研究(クロスオーバ研究)報告書
  「高輝度放射光用モノクロメータの研究開発」
原見太幹
日本原子力研究所


キーワード:X線、モノクロメータ、シリコン結晶、対称反射、非対称反射、meV
単色化
分類コード:180204

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