放射光核共鳴散乱検出器の開発

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作成： 2000/3/15 原見太幹データ番号　　　：180014 放射光核共鳴散乱検出器の開発目的　　　　　　：meV～neVエネルギー幅の単色X線を検出する機器。研究実施機関名　：日本原子力研究所　関西研　放射光利用研究部　利用系開発グループ応用分野　　　　：材料研究、磁性体の研究、生体物質の研究、原子・分子のダイナミクス研究概要　　　　　　：　meV～neVのエネルギー幅をもつ単色なX線を検出するため、原子核の励起準位を利用する方法を開発した。放射光のパルス性を利用して、nsec領域の時分割検出器にシリコンAPD(Avalanche Phtodiode)検出器を発展させた。この検出器を用いることによって今まで測定が困難であったX線非弾性散乱が可能になった。非弾性散乱はmeVからμeVにかけてのX線から物質へのエネルギー移動に伴う物質の動的な反応(振動や回転の運動)を調べることができる。　詳細説明　　　　：　「meV領域の分解能をもつ高分解能モノクロメータ」や「neV領域の分解能をもつ超高分解能モノクロメータ」を使って単色になったX線を検出するには、より高い分解能をもつ検出器が必要になる。従来のシリコン検出器ではeV領域の分解能しか持たない。meV～neVのエネルギー幅をもつ単色なX線を検出するため、原子核の励起準位を利用する方法を開発した。5～100keVのX線を検出するため、表1に示す原子核を利用することができる。バックグランドとなる電子散乱されたX線と原子核で共鳴散乱されたX線を区別し、後者のみを検出するために、放射光のパルス性を利用して、psec以下の短時間でおきる電子散乱と図1に示すnsecオーダーでおきる原子核散乱を時分割検出器で区別して検出する。nsec領域の時分割検出器にシリコンAPD(Avalanche Phtodiode)検出器を利用することができる図1　メスバウア核とその特性（原論文1より引用）　速い時間応答でX線を検出するためには、X線を直接に電気信号として取り出す必要がある。X線に対して感度があり、高速の電気信号が取り出せる素子としてフォトダイドードに着目した。放射光の入射によって半導体内部に電子―正孔対が作られる過程はピコ秒オーダーであり、逆バイアス電圧の印加によって作られる高電解中での電子のドリフト速度は107cm/sにおよぶのでナノ秒以下の幅のパルス信号を取り出しうる。これまでにもシリコン製のPINフォトダイオードはよく知られており、光子を直接入射する方法ではレーザー光パルスの検出や放射光の分野でもビーム強度モニターとして電流モードで使われてきた。　　アバラッンシェ型フォトダイオード(APD)は、ナノ秒の出力応答を示すとともに内部増幅作用を持つため、一個の光子を検出してパルスとして信号を取り出しタイミング検出器として使うことも試みられてきた。ただし波長は短くても軟X線領域までの光に限られ、連続放電を起こす(ブレークダウン)値を上回る逆バイアス電圧を印加して外部回路でクエンチングして取り出す方法(ガイガーモード)であった。一方、高エネルギーのX線を直接入射すれば1光子あたりのエネルギーが大きいので、ブレークダウン電圧以下の逆バイアス電圧でも後段の増幅回路によっては十分な波高を持つナノ秒の単一光子パルスが取り出せるはずであるとの考えで、14 keVのX線に対する時分割検出器として開発が行われてきた。　　図2にAPD素子の構造を示す。有効領域は3mmφで厚さ方向の構造はX線の入射側からn+-p-π-p+である。X線の入射によって電子が励起され電荷キャリアとなる空乏層は逆バイアス電圧を十分に印加したときにはn+-p接合部からπ層にまで及ぶ。電子は電界によってn+へとドリフトし接合部で電子増幅を起こす。図2　APD素子の構造（原論文1より引用）　高輝度放射光の利用として核共鳴散乱実験が可能となりSPring-8ばかりでなくESRFやAPSにおいても盛んに研究されている。核共鳴散乱の大きな応用分野は今まで測定が困難であったX線非弾性散乱が可能になったことである。非弾性散乱はmeVからμeVにかけてのX線から物質へのエネルギー移動に伴う物質の動的な反応(振動や回転の運動)を調べる手段である。　　APD検出器を多素子化することによって有感部面積を大きくすることができ、信号の弱い核共鳴非弾性散乱実験が可能となる。また、素子毎に検出器のチャンネルを独立させれば各素子毎の情報が得られ、散乱の角度依存性を測定することが可能となる。さらに、前方散乱実験では高輝度放射光の強度で検出器の計数率が飽和状態となる可能性がある。これを改善するため、ビームを結晶で広げ多素子検出器で各素子毎に独立に計測を行えば、検出器全体としての計数率限界が改善される。例えば、SPring-8の21バンチモードでは最大4.4MHzの信号がくる。APD素子一つの計数率としては限界である。これ以上となると1バンチあたり、複数の光子が検出器に入射する確率が高くなる。複数の計数系で独立のチャンネルで構成するとチャンネル数分計数率の上限が高くなる。　　検出器を多素子化すると、①素子や回路系の特性のばらつきができることは避けられず、チャンネル間の特性のばらつきができる、②費用がかさむ、という問題が生じる。高輝度放射光の先端利用を目指し、新たな研究の展開を考慮して多素子検出器の開発を行うこととした。　コメント　　　　：　　原論文１ Data source 1：原子力総合的基盤研究(クロスオーバ研究)報告書「高輝度放射光用モノクロメータの研究開発」原見太幹日本原子力研究所キーワード：meV～neV、単色X線 monochromatized X-ray、原子核 nucleus、 APD(Avalanche Photodiode)検出器 APD detector、放射光 synchrotron radiation、パルス性 pulse character、 X線非弾性散乱 X-ray inelastic scattering 分類コード：180202
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