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作成: 1998/11/30 岩井 荘八

データ番号   :180012
多重周期構造を用いたX線多層膜ミラーによる反射波長の精密な制御
目的      :軟X線短領域で反射波長を精密に制御できる多層膜ミラー構造を開発する
研究実施機関名 :理化学研究所 半導体工学研究室
応用分野    :X線顕微鏡、X線望遠鏡、X線レーザー、X線リソグラフィー

概要      :
 原子層制御成長法を用いて、軟X線短波長領域での多層膜ミラーの作製方法を開発する。短波長領域で使用する多層膜ミラーでは周期が短く、単結晶薄膜では材料固有の格子定数に基づいた膜厚の不連続が生じ、それに対応したミラーの反射波長が不連続になる。この単一周期ミラーに対して、2つの周期を組み合わせた多重周期ミラーを作製し、組み合わせの割合によって反射波長を連続して精密に制御できることを明らかにし、多層膜ミラーの反射波長の不連続を解決する方法を示す。

詳細説明    :
 軟X線領域においては殆ど全ての物質の屈折率が1に近くなるために、全反射条件を用いない光学システムの構築にはブラッグ回折を用いた多層膜ミラーが要求される。例えば、Mo/Si多層膜ミラーでは、波長12nm付近で70%程度の高反射率が得られている。今後のX線応用では、より短い波長の多層膜ミラーの開発が重要になると考えられる。そのためには、短波長領域で光学的に優れた材料の組み合わせの選択とともに、膜厚制御および界面平坦性の向上が重要な課題である。我々は原子層成長法(ALE法)をX線多層膜ミラーの作製に応用し、原子層レベルでの膜厚制御と急峻な界面を持つ短周期構造を実現できることを示した。多層膜の膜厚が原子層単位で制御されることは、それに対応して多層膜からの反射波長が不連続の値を取ることになる。この問題を解決するために、多重周期構造を用いてX線の反射波長を制御する新しい方法を示す。


図1 2つの周期を1:1の割合で混合した多重周期ミラー、および各々の単一周期ミラーの反射率の計算値。(原論文1より引用)

 要素データ(No.180001)において、ALE法を用いた(AlP)x(GaP)y多層構造の作製法を示した。ここでは(AlP)のx分子層と(GaP)のy分子層を1周期とする多層構造を意味する。図1に(AlP)2(GaP)2と(AlP)3(GaP)2の直入射反射率の計算値を黒で示す。各々の多層膜の周期長をd2,2、およびd3,2と定義すると、直入射の場合の反射波長はλ2,2=2d2,2、およびλ3,2=2d3,2になる。
 
 また、(AlP)2(GaP)2と(AlP)3(GaP)2を1:1の割合で交互に積層した多重周期構造を(2,2)1(3,2)1で表し、その反射率の計算値を赤で示した。この多重周期構造(2,2)1(3,2)1の反射波長は(λ2,23,2)/2で表される。即ち、この多重周期ミラーは(d2,2+d3,2)/2の周期長を持つ多層膜ミラーの働きをする。一方、周期長が(AlP)5(GaP)4の単一周期構造でも同じ波長で2次の回折による反射が生じるが、多重周期構造と比較して反射率は30分の1に減少する。この様に、2つの周期を組み合わせた多重周期ミラーでは、単一周期では不可能な波長領域でのミラーが作製でき、単一周期ミラーと同程度の反射率が得られる。


図2 周期2.3nmと3.0nmを1:1の割合で混合した多重周期ミラー、および各々の単一周期ミラーの反射率の測定結果。

 多重周期ミラーを作製し、放射光を用いて軟X線の反射波長を測定する実験を行った。測定試料は、AlPが1.4nmとGaPが0.9nmとで周期が2.3nmの単一周期ミラー、AlPが1.4nmとGaPが1.6nmとで周期が3.0nmの単一周期ミラー、およびこれらの2つの周期を1:1の割合で交互に堆積させた多重周期ミラーを作製した。図2はこれらのミラーに対して表面から27゜の角度で入射した場合、各々の反射率の相対値を示す。周期2.3nmおよび3.0nmの単一ミラーの反射波長は、それぞれ、2.09nmと2.72nmである。一方、多重周期ミラーの反射波長は2.41nmであり、これは2つの単一周期ミラーの波長の平均値と一致する。従って、2つの周期を1:1の割合で堆積させた多重周期ミラーの反射波長は、2つの単一周期ミラーの反射波長の平均値であるという理論値が実験によって確認された。


図3 (AlP)3(GaP)3と(AlP)4(AlP)3の2つの周期を27:7 の割合で混合した多重周期ミラーの反射率の計算値。(原論文1より引用)

 多重周期ミラーの反射波長は、一般に、2つの周期の混合比によって制御できる。例えば、炭素6価(1s-2p)からの軟X線(λ=3.374nm)にミラーの反射波長を一致させるミラーは、図3に示したように(AlP)3(GaP)3と(AlP)4(AlP)3を27:7 の割合で混合することによって得られる。2つの周期をなるべく均一に混合させた構造[(3,3)4(4,3)1]6[(3,3)3(4,3)1]1の多重周期ミラーの反射率の計算結果を図3の中に示した。複雑な組み合わせの多重周期構造の場合でも、2つの周期を均一に混合することによって単一周期ミラーと同程度の反射率が得られる。
 
 ALE 法によって多重周期ミラーを作製する場合は、波長波長を格子定数という材料固有の値を基準にして決定できる。更に、2つの周期を組み合わせた多重周期構造を用いることによって、反射波長を目的の波長に連続的にかつ精密に一致させることができる。軟X線短波長領域での多層膜ミラーを作製する場合、膜厚の不連続による反射波長の不連続の問題を解決する一つの方法である。

コメント    :
 X線多層膜ミラーに応用する場合、使用するX線の波長において高いX線反射率が期待できる材料の組み合わせの選択が重要である。ALE成長のように、単結晶薄膜を用いた多層構造を作製する場合は、2つの材料の格子定数が近い材料の組み合わせが課題である。ALE成長の場合は化学気相成長で行うための原料の選択が重要である。

原論文1 Data source 1:
Reflection-Wavelength Control Method for Layer-by-Layer Controled X-ray Multilayer Mirrors
Masashi Ishii, Sohachi Iwai, Tatsuo Ueki, and Yoshinobu Aoyagi.
The Institute of Physical and Chemical Research (RIKEN), 2-1 Hirosawa, Wako, Saitama 351-01, Japan.
Applied Optics, 36, 2152 (1997).

参考資料1 Reference 1:
原子層成長法による軟X線用多層膜の作製
石井 真史、岩井 荘八、河田 博文、植木 龍夫、青柳 克信
理化学研究所 半導体工学研究室
レーザー科学研究(理化学研究所)、第18号、p101 (1996).

参考資料2 Reference 2:
原子層成長X線多層膜ミラーにおける新しい反射波長制御法
石井 真史、岩井 荘八、植木 龍夫、青柳 克信
理化学研究所 半導体工学研究室
レーザー科学研究(理化学研究所)、第19号、p7 (1997).

キーワード:原子層制御成長、X線多層膜ミラー、単一周期構造、多重周期構造、反射波長制御
Atomic layer epitaxy, X-ray multilayer mirror, Monoperiodic structure, Multiperiodic structure, Reflection-wavelenght control
分類コード:180202、180203、180201

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