原子力基盤技術データベースのメインページへ

作成: 1999/01/15 原見 太幹

データ番号   :180008
多素子APD検出器の開発
目的      :核共鳴散乱のためのAPD検出器開発とその応用
研究実施機関名 :のように)
日本原子力研究所 放射光利用研究部 利用系開発グループ
応用分野    :核共鳴散乱、X線非弾性散乱、顕微分光、生体物質の動的研究、フォノン物性研究

概要      :
 高輝度放射光のパルス性を利用し、多素子APD検出器を使用すると、物質中の原子核によるX線散乱が観測でき、エネルギー的に高分解されたX線を利用した固体、液体、生体物質の動的な研究ができる。この検出器はサブナノ秒の時間分解能を持ち、原子核散乱を利用するとX線エネルギーはサブmeVの分解能まで測定できる。また、多素子化することによってと実験時間が短縮できるとともに散乱の角度依存性を測定できる。
 

詳細説明    :
 放射光にはいくつかの特徴があるが、その一つにパルス特性がある。放射光のパルス幅は数百ピコ秒である。放射光のパルス性を利用してX線領域において、核共鳴散乱線による"量子うなり"の観測など放射光なパルス性を活かした研究が行われつつある。また、真空紫外・可視光領域での時間分解実験が積極的に進められている。


図1 放射光のパルス性を利用する核共鳴散乱ビームライン要素機器配置

 図1に放射光のパルス性を利用した核共鳴散乱実験を行うためのビームライン要素機器配置を示す。放射光は、電子を蓄積するリング状加速器から発生する光であり、これを実験に利用するために必要なエネルギーの光を選び出す、これがモノクロメータである。核共鳴散乱にはeV程度の分解能をもつモノクロメータとmeV程度の高分解されたモノクロメータを使用する。高分解された光を使って試料からの散乱光を測定する。放射光のパルス特性を活かした研究を進めるには、優れた時間分解能を持つ検出器を開発することである。この光の測定にAPD検出器(アバランシェ型フォトダイオード検出器)を用いる。
 
 APD検出器はフォトダイオードであり検出器に入射したX線がダイオード中に発生する電子ー正孔対(ピコ秒オーダーの現象)に電圧をかけることによって電子の移動速度が107cm/secとなり、ナノ秒以下の幅のパルス信号が取り出せる。APD検出器はナノ秒の出力応答を示すとともに内部増幅作用を持つため、一個の光を検出することができる。


図2 APD素子の構造

 図2にAPD素子の構造を示す。厚さ方向の構造は、X線の入射側からn+-p-π-p+となっている。全体の厚みは約400ミクロンである。 以上がAPD素子の特徴であるが、APD素子を多素子化(多チャンネル化)することによって以下の特徴のある検出器が利用することができるようになる。
 
(1)素子を平面上に並べることによって、有感部面積を大きくできる。
(2)素子からの信号を独立に取得することによって、試料で散乱するX線の角度分解が可能になる。
(3)素子の独立計測を行えば、検出器全体としての計数率限界の改善が可能となる。言い換えると1素子あたりの計数率の負担が軽減できる。
 
 この検出器の問題点としてチャンネルの特性のばらつきができる、つまり素子や回路系の特性のばらつきができることは避けられない。また、多素子化することによってコストがかさむ、といった問題がある。
 
 このような背景を踏まえて、放射光を利用した新たな研究の展開の可能性を考慮して多素子APD検出器の開発目標を以下のようにした。
 
(1)200mm2以上の有効感受面積を持つこと。
(2)14.4keVX線で12%以上の効率を持たせること。
(3)検出器出力パルス幅が短く、即発X線(電子散乱からの寄与分)以後なるべく早く(5nsec以内)で核共鳴散乱X線のスペクトル測定ができること。
 
 多素子APD検出器として開発した仕様は、素子の大きさ(3mmx5mm)空乏層厚み(0.15mm以上)チャンネル数(16チャンネルの2段組)である。増幅器は素子2コに1台を使用。信号処理回路系にはCAMACシステムを採用。1チャンネル当たり100kHzの信号処理速度を持たせる。


図3 SPring-8で測定した14.4keV X線パルスの時間スペクトル

 図3にSPring-8で測定した14.4keV X線の時間スペクトルである。スペクトルのすそではピーク強度に対し10-5の強度を示し、時間幅は4.6ナノ秒であった。
 

コメント    :
 放射光を利用する研究にX線が物質で散乱・回折される性質を使う技術を応用して、固体、液体や生体物質の構造研究、物性研究ができる。最近第三世代の放射光施設が完成し固体、液体、生体物質の構造解析が行われている。従来の放射光利用研究にない新しい研究として生体物質の機能に関連した分子・原子の動きを見る手段が新しく注目されている。この手段を可能にするのが多素子APD検出器である。ヨーロッパのESRF、米国のAPS、日本のSPring-8の各第三世代放射光施設で技術開発が進められている。
 

原論文1 Data source 1:
Recent developments in the avalanche photodiode X-ray detector for timing and fast counting measurements
S.Kishimoto
High Energy Accelerator Research Organization(KEK), Institute of Materials Structure Science(Photon Factory)
Rev.Sci.Instrum. 66 (2) 2314

参考資料1 Reference 1:
多素子APD検出器
岸本 俊二
高エネルギー加速器研究機構 物質構造研究所 放射光施設
クロスオーバ研究委託報告書「高輝度放射光の先端的利用」

キーワード:放射光のパルス特性、時間分解能、核共鳴散乱、多素子APD検出器、SPring-8、フォトダイオード、モノクロメータ、ビームライン、電子ー正孔対
Pulse characteristics of synchrotron radiation, Time resolutionNeclear resonant scattering, Multichannel APD detector, SPring-8, Photodiode, Monochromator, Beamline, Electron-hole pair
分類コード:180202

原子力基盤技術データベースのメインページへ