歪抑制型モノクロメータ開発

原子力基盤技術データベースのメインページへ
作成： 1999/01/15 原見　太幹データ番号　　　：180007 歪抑制型モノクロメータ開発目的　　　　　　：高輝度放射光モノクロメータの高効率冷却機構の開発研究実施機関名　：日本原子力研究所　放射光利用研究部　利用系開発グループ応用分野　　　　：伝熱工学、コンピュータチップの冷却、レーザー工学、各種ターゲットの冷却概要　　　　　　：　アンジュレータからの光のように高輝度放射光は、そのビームを形成する過程でモノクロメータ等の光学素子に高密度熱負荷をもたらす。放射光を有効に利用するには、この熱負荷を緩和し光学素子の機能を十分に発揮できる素子の冷却技術開発が必要とされている。V型モノクロメータは熱負荷で発生する歪みを結晶格子中で自己抑制することによって光学素子の本来の機能を維持できるように開発したものである。　詳細説明　　　　：　放射光施設における最近の発展として、特にSPring-8のような第三世代放射光施設において、高輝度放射光の挿入光源の導入が上げられる。放射強度の増大に伴う高熱負荷は、ビームライン光学素子の光学的性質を劣化させることから、この問題は特にモノクロメータにとって切実な問題となっている。第三世代放射光施設であるヨーロッパのESRFやアメリカのAPSにおいてもそれぞれ独自のモノクロメータを考案している。　　モノクロメータに関する高熱負荷問題を解決する際に立ちはだかる困難は、結晶の外形が平板的であるとこにある。平板の片面にX線が入射しビームによって高く加熱される。もう一方の面が水や液体窒素によって冷却される。このことで結晶表面に垂直方向に大きな温度勾配を発生させる。平板状の結晶形状によって避けることのできない問題は、結晶上の照射領域の周りが非等方的であること、ほとんど1次元的な熱輸送であり非効率的な冷却機構であることにある。加熱部分の周りの非等方性は、図1に示すように格子の膨張、こぶ、弓なりなどの深刻な結晶格子歪みをもたらす。図1　平板型モノクロメータの熱変形の種類図2　V字型結晶モノクロメータと模式的な熱移動及び格子変形　このような背景を踏まえて、新しい型の二結晶モノクロメータを提案した。図2に示すV字型の結晶モノクロメータがそれである。凹型と凸型の結晶を2つ組み合わせて二結晶モノクロメータを構成する。このV字型の片面は傾斜構造をなし、結晶表面上の入射光の影は拡大し熱密度を減少させることができる。凹型構造の結晶を第一結晶として使い、その谷部に入射光のピーク強度部を位置させる。このV字型構造は次の考察から結晶の熱変形を抑制することが期待できる。　 1)結晶表面上の熱流束は表面の傾斜によって減少させることができる。 2)加熱スポットの周囲の冷却領域を増加でき、冷却効率をあげることができる。 3)結晶を立体的・剛体的な構造を構成することによって変形が小さくできる。 4)熱膨張があっても傾斜面の垂直方向が主になり、格子変形は反射格子面に沿った形になり反射への影響が小さくなる。　　入射線の断面強度分布は、第二結晶として、同じ幾何学の凸型の結晶を用いることによって、モノクロメータを通過した後も保存される。　　放射光照射に基づく温度上昇と照射部の周りの熱応力をANSYS解析コードで解析した結果を図3に示す。図3　結晶表面の谷底部(照射中心点)における結晶格子面に垂直方向の結晶表面変位のV字型傾斜角度依存性　ここで、3種類の入射ビーム(ビーム(a)：総熱量=48W、最大熱流束=3MW/m²、ビーム(b)：総熱量=96W、最大熱流束=6MW/m²、ビーム(c)：総熱量=240W、最大熱流束=15MW/m2)を想定している。解析では、結晶の傾斜角α(V字型を構成する2面のなす角の1/2)をパラメータとしている。図の縦軸は、谷底部における結晶上で定義したz方向(結晶格子面に対して垂直の方向)の変形量である。変形量の結晶傾斜角の依存性を表す図は約35度の位置に負のピークをもつ放物線を形成している。結晶傾斜角0度(これは結晶に開口がないことを示し実際に存在しない結晶である。)以外に傾斜角65度で変位量がほとんどゼロとなっている。これは、谷底部を囲む結晶内での種々の熱応力が打ち消し合うことによると考えられる。　　V字型二結晶モノクロメータの光学的性質を調べるため、結晶を加工製作し、放射光ビームラインで光線プロファイル、ロッキング曲線を測定した。その結果、ビームの形状をモノクロメータ前後で保存するために、凹・凸結晶それぞれのビーム進行方向と垂直」な方向への相対的な移動、結晶加工精度が光学的な特性を左右することがわかった。　コメント　　　　：　世界の第三世代放射光施設において、APS、ESRF、SPring-8においてそれぞれ独自のモノクロメータを考案している。APSにおいては傾斜型シリコンモノクロメータとガリウム冷却の組み合わせ、ESRFでは低温冷却法を中心に採用している。SPring-8では、回転傾斜型シリコンモノクロメータとピンポスト冷却法の組み合わせを採用している。それぞれR&Dを始め、実際のビームラインでの実証も始まっている。　　クロスオーバ研究で研究開発を計画したV字型モノクロメータは、SPring-8のビームラインでの使用を目的として平成6年度頃計画したものである。実際はSPring-8では上記したように他のタイプのモノクロメータを採用している。　原論文１ Data source 1： SPring-8ビームラインの利用促進に関する調査　Ⅱ. 光学素子橋本　真也高輝度光科学研究センター (財)高輝度光科学研究センター REPORT：日本原子力研究所委託調査「SPring-8ビームラインの利用促進に関する調査」 (1996) pp. 67-101. 参考資料１ Reference 1：計算機シミュレーションによる水冷式分光結晶の熱解析中村　有夫、橋本　真也、本橋　治彦日本原子力研究所 JAERI-Research、94-029 (1994) 参考資料２ Reference 2： V字型Si結晶モノクロメータの冷却橋本　真也、中村　有夫日本原子力研究所第8回日本放射光学会、2-Z-10 (1995) 参考資料３ Reference 3： Design of a V-shaped Crystal Monochromator S. Hashimoto, A. Nakamura, T. Harami Japan Atomic Energy Research Institute Annual Report of SPring-8 (1994) キーワード：V型モノクロメータ、高密度熱負荷、高輝度放射光、冷却機構、光学素子、SPring-8, V-type monochromator,high density of heatload,high brilliant synchrotron radiation, cooling structure,optical component,SPring-8 分類コード：180102
原子力基盤技術データベースのメインページへ