原子力基盤技術データベースのメインページへ

作成: 1999/11/10 前川 雅樹

データ番号   :170018
高速短パルス陽電子ビームの開発
目的      :高速短パルス陽電子ビーム形成装置の開発
研究実施機関名 :日本原子力研究所高崎研究所材料開発部技術開発課
応用分野    :材料分析・評価、陽電子ビーム技術開発

概要      :
 物性研究における有力な解析手段の一つである陽電子消滅寿命測定法を、高エネルギー陽電子ビームを用いて行うと高温下・応力下など特殊条件下にある試料の測定が行えるという利点がある。測定の時間分解能を上げるためビームをパルス化することが望ましい。高エネルギービームを直接パルス化するのは容易ではないため、低速陽電子ビームを一度パルス化してから高周波加速空洞で加速する手法が考えられる。
 

詳細説明    :
 陽電子消滅寿命測定法 (PALS) は材料欠陥の種類や量を非破壊かつ高感度に測定でき、物性研究における有力なプローブの一つである。通常行われているような、陽電子線源から放出される陽電子を直接試料に注入する方法では、線源と試料を密着させる必要があり測定条件に制約を受ける。線源から放出される陽電子をビームに形成して物質に入射させることによりこのような制限は取り除かれる。陽電子ビームを用いたPALSは陽電子の入射時刻と消滅ガンマ線の検出時刻との時間差を測定することによって行われるが、陽電子の入射時刻を明確にするために大きく分けて二通りの方法がある(原論文 1 参照)。
 
 一つ目の方法は高エネルギーの陽電子ビームを用い、陽電子が試料に当たった際に放出される2次電子を検出する、あるいは薄いシンチレータに陽電子ビームを一度通過させるなどの方法で陽電子の入射時刻を検出する方法である。ドイツのマックス・プランク研究所や米国ブルックヘブン国立研究所で行われているが、時間分解能が 300 ps 程度と比較的大きく装置も大掛かりなものとなる。
 
 二つ目は低速陽電子ビームに速度変調を掛けパルス化する方法である。数 10 keV までのエネルギー可変短パルス陽電子ビームが電子技術総合研究所で開発され(原論文2参照)、表面及び表面近傍の研究に利用されている。この方式の利点は時間分解能が良い (192 ps) ことである。
 
 しかし、固体固有の性質を決定しているバルク (固体内部) を調べるにはよりエネルギーの高いビームを用い陽電子を物質内部まで送り込むことが必要である。高エネルギービームは Ti ウインドウ等を介して大気中に取り出すこともでき、高温下・応力下など特殊条件下にある試料の測定が行える。一つ目の方法はその点優れているが、時間分解能を向上させるために二つ目の方法のようにパルス化することが望ましい。しかし高エネルギービームを直接パルス化するのは容易ではない。そのため低速陽電子ビームを一度パルス化してから高周波加速空洞で加速する手法が考えられる。そのような装置の構成例を図1に示す(原論文3参照)。


図1 Schematics of PUMPS(原論文3より引用)

 22Na 陽電子線源とタングステンモデレーターにより生成された直流の低速単色ビームをチョッパーにより一定の時間間隔に切り出し、サブハーモニックバンチャー (SHB) 部において高周波電場を用い速度変調をかけ、およそ 100 ps のパルス幅にまで時間的に圧縮する。RF 加速空洞により最大ビームエネルギー 1 MeV にまで加速し、同時にパルス幅を数十 ps 程度にまで圧縮する。加速空洞の RF 源にはクライストロンを用いる。通常どのようなRF加速空洞内でも暗電流 (二次電子) が発生するが、陽電子に比べ量が多く高エネルギーであるため試料に照射損傷を起こし陽電子の利点である高感度な測定の弊害となることから、ベンディングマグネットとスリットから成るビーム弁別部を設けこれを取り除く必要がある。パルスビームはチョッパーの動作に同期して飛来するので、試料内で発生した消滅ガンマ線の検出時刻と比較することにより時間分解能の良い PALS が可能となる。
 

コメント    :
 高速短パルス陽電子ビームを用いることで高温下・応力下など特殊条件下にある試料の物性研究に用いることが可能となり、陽電子ビームの応用範囲が大きく広がることが期待される。
 

原論文1 Data source 1:
A pulsing system for low energy positrons
D.Schodlbauer, P.Sperr, G.Kogel and W.Triftshauser
Institut fur Nukleare Festkorperphysik, Universitat der Bundeswehr Munchen
Nuclear Instruments and Methods in Physics Research B 34, 258-268 (1988).

原論文2 Data source 2:
高強度低速陽電子ビームの短パルス化とその応用
鈴木良一、大平俊行、三角智久、大垣英明、千脇光圀、山嵜鉄夫、小林慶規
電子技術総合研究所
電子技術総合研究所彙報, 第 59巻, 第 4号

原論文3 Data source 3:
Construction of Pulsed MeV Positron Source
M. Maekawa, M. Kondo and S. Okada
Takasaki Radiation Chemistory Research Establishment, Japan Atomic Energy Research Institute
Proceedings of 12th Symposium on Accelerator Science and Technology, pp.87-89 (1999).

キーワード:陽電子ビーム、短パルス化、加速器、高周波加速空洞、クライストロン、陽電子消滅寿命測定
Positron beam, Short pulsation, Accelerators, High-frequency resonators, Klystrons, Positron -annihilation lifetime measurements
分類コード:170103

原子力基盤技術データベースのメインページへ