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作成: 2000/03/09 松永 武

データ番号   :160023
河川による放射性核種の移行
目的      :環境中放射性核種の挙動
研究実施機関名 :日本原子力研究所陸域環境研究グループ
応用分野    :保健物理、地球科学、原子力安全

概要      :
 原子力施設等に起因する放射性核種により環境汚染が生じた際の影響評価に役立てるため、放射性核種が、河川流域において、どのような物質とともに、どのような状況で運ばれるかを明らかにする研究を行っている。 チェルノブイル事故地域で行っている研究では次のような成果が得られた。

詳細説明    :
 原子力施設等に起因する放射性核種により環境汚染が生じた際の影響評価に役立てるため、放射性核種が、河川流域において、どのような物質とともに、どのような状況で運ばれるかを明らかにする研究を行っている。 チェルノブイル事故地域で行っている研究では次のような成果が得られた。水中に溶存する放射性核種については、共存する有機物(とりわけ腐植物質)との錯体形成により水中での移動性が増し、水系での挙動に影響を及ぼすことが論ぜられているが、実際の環境中での報告例は限られている。
 
 そこで、放射性核種と溶存有機物の結び付きが実際の自然環境の場で見出されるのかどうかを知ることを目的に、チェルノブイル原子力事故により汚染を受けた事故炉近傍の土壌抽出水について(実験1)ならびに河川水中に溶存する事故起因の放射性核種について(実験2)限外ろ過分別実験を行った。その結果、多価原子価を取るPu、Am同位体が高分子量サイズの溶存有機物と結合し易く、対照的に90Srではその結合性が低いということが実際の水環境で示された(図1)。


図1 汚染した土壌から河川を経由する核種移行過程と関係実験結果(チェルノブイル原子力発電所周辺の環境における研究)

 さらに、土壌から近傍の表面水への放射性核種の移動性に着目して解析を行った。ここでは、チェルノブイル発電所北方5 kmに位置するGlubokoye湖周辺での解析結果を述べる。この湖は事故時に発電所からの放射性雲が通過した地域である。湖面に降下した放射性の塵埃の一部は、湖岸に漂着して、放射性濃度の特に高い帯状の部分が湖岸に形成されている(以下「湖岸土壌」)。湖近傍の林地内の土壌、湖岸帯状土壌そして、湖水中の懸濁物それぞれについて、放射性核種を分析し、核種組成比を比較した。その結果、林地内の土壌と事故時の炉心内の核種組成比はほとんど一致し、この湖一帯の放射性汚染が事故時に放出された燃料粒子の降下に起因することが明らかとなった。
 
 つぎに、湖岸土壌の組成比を調べると90Srと137Csの欠損が見出された。このことは、両核種の湖水への溶出を明確に示している。実際、湖水にはPu同位体に比較して、高濃度の90Srと137Csが存在していることが見出された。また、湖水中の懸濁物においては、90Srと137Csの組成割合が、湖岸土壌よりも多く、両核種が湖水から懸濁物へ取り込まれていることを示唆している。90Srと137Csとを比較すると、90Srの方が溶出性が大きい。湖水と懸濁物との間の放射性核種濃度の比((Bq/ml)/(Bq/g))は、これまでの野外研究で報告されてきた値と、概ね一致する。以上の事柄から、チェルノブイル事故により放出された放射性核種(90Sr、137Cs、239,240Pu)は、この湖の環境においては、つぎの挙動を取るものということができる。
 
 地表面土壌に降下した放射性核種の一部は、それぞれのがその元素的性質として備える本来的な溶出性の程度にしたがって、接触する水系に溶出する。ついで、溶出した放射性の一部は、水中の浮遊懸濁物に取り込まれ、(おそらく動的な)吸着平衡が成立する。このような核種移行のシーケンスは、従来、実験室のトレーサー実験で、あるいは、しばしば核実験フォールアウト起源による野外分析で個々に研究された結果と一致するものであるが、本研究において同一の自然環境下でその結果が検証された意義は大きい。
 
 土壌、懸濁物の構成物質と放射性核種との結びつきの機構を明らかにするために、本研究では、さらに放射性核種の存在相の分析(化学的選択抽出)、X線回折や電子顕微鏡観察による分析を進めている。このように、放射性核種の化学的な分別、放射性核種を保持する自然の構成物質の特性分析が可能であるのは、チェルノブイル地域環境での研究の優位点である。

コメント    :
 ここで得られた成果は、従来の環境中の放射性核種についての「点状」の理解をつないでいく結果になっており、本研究に示す研究アプローチは環境中の放射性核種の挙動の理解の拡充に有効である。

原論文1 Data source 1:
Characteristics of Chernobyl-derived radionuclides in particulate form in surface waters in the exclusion zone around the Chernobyl Nuclear Power Plants.
T. Matsunaga、 T. Ueno、 H. Amano、 Y. Tkatchenko、 A. Kovalyov et al.
Japan Atomic Energy Research Institute, Ukraine State Enterprise RADEK
J. Contaminant Hydrology, 35,101-113 (1998)

原論文2 Data source 2:
The transfer capability of long-lived Chernobyl radionuclides from surface soil to river water in dissolved forms
H. Amano、T. Matsunaga、S. Nagao、Y. Hanzawa、M. Watanabe et al.
Japan Atomic Energy Research Institute, Ukraine State Enterprise RADEK
Organic Geochemistry , 30, 437-442 (1999)

キーワード:河川移行、放射性核種、有機物、チェルノブイル, fluvial transport, radionuclides, organic substances, Chernobyl
分類コード:160201

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