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作成: 2000/02/18 大貫 敏彦

データ番号   :160022
オーストラリア、クンガラウラン鉱床におけるナチュラルアナログ研究
目的      :地層の有する放射性核種の移行に対する長期的なバリア機構の解明
研究実施機関名 :日本原子力研究所、
応用分野    :地質学、環境研究、地球化学

概要      :
 放射性廃棄物の地層処分の安全性を長期間確保するために、放射性核種の地中移行挙動を理解する上で有効なナチュラルアナログ研究と室内実験とを組み合わせた方法を利用して、安全評価で用いる核種移行予測モデルの妥当性やウラン系列核種移行挙動について検討した。
  

詳細説明    :
 放射性廃棄物の地層処分の安全性を長期間確保するためには、予想される現象を数十万年〜数百万年のオーダーで考える必要がある。このような地質学的時間では、地球は"生きている"ため、地層或はそれを構成する鉱物は他の鉱物に変化(変質)する。このことは、核種が移行する媒体が変化することを意味する。地質環境の変化は緩慢であるため,鉱物の変質の核種移行への影響は、室内における加速実験だけでは解明できない。したがって、安全評価で用いる放射性核種の予測モデルが実際の地層における移行を予測出来るかという問題を解決する必要がある。
 
 天然を観察し,放射性核種の移行に関係する事象を抽出する研究はナチュラルアナログ研究と呼ばれている。ナチュラルアナログ研究と室内実験を組み合わせることは,放射性核種の地中移行挙動を理解する上で有効な方法である。日本原子力研究所は、1987年からオーストラリア、クンガラウラン鉱床付近におけるナチュラルアナログ研究(OECD/NEA主催、原研他7カ国、8機関)に参加し、安全評価で用いる核種移行予測モデルの妥当性の検討、及びウラン系列核種移行挙動の解明に取り組んできた。


図1  クンガラ、ウラン鉱床の断面図:還元雰囲気で形成されたウラン一次鉱床に酸化性地下水が流入し、母岩鉱物(緑泥石)を変質させるとともに、ウラン系列核種も移行し二次鉱床を形成した。

 クンガラウラン鉱床の断面図を第1図に示す1)。この鉱床は約16億年前に形成された。一次鉱床の一部は1-3百万年前より地下水により、徐々に流され、その一部は現在の二次鉱床を形成している。地表より12.5mの位置におけるウランの地下水の流れ方向一次元濃度分布(図2)から、一次鉱床から下流方向に約60mの位置に濃度ピークが観察され、それよりも下流側ではほとんどバックグランドと同じ濃度レベルであった。風化が一定の速度で進んだと仮定すると12.5mの位置における濃度分布は風化開始から100万年後の分布と考えられる。


図2 地表より12.5mの位置におけるウランの地下水の流れ方向一次元濃度分布。

 現在観測される地下水流速などの水理パラメータを用いてKdモデルによりウランの濃度分布に対してフィッティングすると、図2の実線のようになり、濃度分布を再現できた。予測に用いた遅延係数、すなわちウランの移行速度と水流速との比は、約100000であった。一方、バッチ吸着実験から得られた遅延係数は約1000であり、フィッティングから得られた値の方がおおよそ100倍ほど大きかった。このことは、実際の地層は安全評価で期待されるよりも大きな核種移行に対する遅延能を有することを示している。


図3 一次鉱床付近で採取した岩石試料の反射電子像。A:アパタイト、SL:サレアイト(Mgウラニルリン酸塩鉱物)。

 遅延機構を解明するため、岩石試料を走査型電子顕微鏡(SEM),透過型電子顕微鏡(TEM)などにより分析した。図3は一次鉱床付近の岩石試料の反射電子像(BSI)である。図より、岩石中に含まれるカルシウムリン酸塩鉱物(アパタイト)の周辺にウランが濃集していることが分かった。また、エネルギー分散型スペクトルスコピーによる分析からウランが濃集している部分にはリン酸とMgが存在することが分かり、ウランはMgウラニルリン酸鉱物として沈着していることを明らかにした。この結果から、一次鉱床から流出したウランがリン酸塩鉱物と接触し、鉱物表面に吸着し、そのその形態を変え、共存するリン酸とMgと結合して鉱物化したものと考えた。もう少し下流域、すなわちウランの濃度のピークが現れる領域において採取した岩石について調べた結果、ウランは鉄鉱物に濃集していることが明らかとなった(図4)。さらに、TEMによる観察から鉄鉱物中でウランは数百nmスケールのウラニルのリン酸塩鉱物として存在していることを明らかにした。
 
 クンガラでは、母岩中の構成鉱物である緑泥石が風化により、鉄鉱物の生成を伴いながらバーミキュライトを経てカオリナイトに変質している。生成した鉄鉱物は、当初非晶質であたが時間とともに結晶質鉄鉱物へと変化した。結晶質鉄鉱物内のウランの濃度は非晶質鉄鉱物内の数倍であったことからウランの流入は連続的に起こったものと考えた。
 
 これらの結果から、クンガラでウランは鉱物表面への吸着だけではなく、ウラン自身が鉱物化していることを明かにした。鉱物化は吸着よりも移行し難い形態であることから、実際の遅延係数が吸着実験から予測された値よりも大きかったのはウランの鉱物化が原因であると考えられる。
 

コメント    :
 リン酸塩鉱物及び鉄鉱物周辺でウラン自身が鉱物化する。このことは、ウラン鉱さいなどの安定化に適用できる。鉱物化の条件などに関する解明が必要である。
 

原論文1 Data source 1:
Murakami T*., Ohnuki T., Isobe H., Sato T.,:
Japan Atomic Energy Research Institute, Shirakata-2, Tokai-mura, Ibaraki 319-1195, * The University Tokyo, Hongo-7-3-1, Bunkyo-ku, Tokyo 113-0033
American Mineralogist 82, 888-899 (1997).

原論文2 Data source 2:
Change in Sorption Characteristics of Uranium during Crystallization of Amorphous Iron Minerals,
Ohnuki T.、Isobe H., Yanase N., Nagano T., Sakamoto Y., Sekine K.:
Japan Atomic Energy Research Institute, Shirakata-2, Tokai-mura, Ibaraki 319-1195
J. Nuclear Sci. and Tech., 34, 1153-1158(1997).

原論文3 Data source 3:
Crystal chemistry and microstructures of uranyl phosphates,
Y.Suzuki*, T. Murakami*, T. Kogure*, H. Isobe, T. Sato
Scientific Basis for Nuclear Waste Management XXI, 839(1998).
Japan Atomic Energy Research Institute, Shirakata-2, Tokai-mura, Ibaraki 319-1195, * The University Tokyo, Hongo-7-3-1, Bunkyo-ku, Tokyo 113-0033

キーワード:地層処分、核種移行、ウラン鉱床、ナチュラルアナログ研究、天然バリア、鉱物化
Geologic disposal, Radionuclides migration, Uranium ore deposit, Natural analogue study, natural barrier, mineralization
分類コード:160103

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