原子力基盤技術データベースのメインページへ

作成: 2000/01/17 高橋 知之

データ番号   :160020
チェルノブイル原子力発電所近傍のモニタリングデータを用いた外部被ばく線量評価モデルの妥当性検証
目的      :線量評価モデルの妥当性検証
研究実施機関名 :日本原子力研究所環境安全研究部
応用分野    :環境影響評価

概要      :
 チェルノブイル原子力発電所近傍の表層土壌中Cs-137濃度のモニタリングデータを用いて、原子炉事故時における地表面Cs-137からの外部被ばく線量評価モデル及びパラメータの妥当性検証を実施した。その結果、表層からの核種の除去を2成分で表現した線量評価モデルが妥当であることを明らかにした。また、当該地域におけるモデルパラメータ値を同定した。
 

詳細説明    :
 原子炉の事故等により、放射性核種が短時間で環境中に放出された場合、原子炉近傍における長期的な被ばくの観点では、地表面に沈着した放射性核種、特にCs-137からの外部被ばくの寄与が大きいと考えられている。この経路に対し、原子炉事故時における公衆の放射線影響を解析するコードシステムOSCAAR(参考資料1)等では、地表面に沈着したCs-137による外部被ばく線量率の減少について、移行が速い成分と遅い成分に区別し、それぞれの成分の土壌表面からの除去について異なる環境半減期を与えるモデルによって評価している。
 
 本研究では、チェルノブイル原子力発電所近傍において測定された2種類の表層土壌中Cs-137濃度のモニタリングデータを使用して、実環境におけるこのモデルの妥当性及びパラメータ値について検討した。 解析は以下の手順で実施した。まず、表層土壌中Cs-137濃度の鉛直方向分布の経時変化を2成分1コンパートメントモデルで模擬し得ることを確認した。また、このモデルにおける移行が速い成分の半減期と移行が遅い成分の環境半減期は、着目する土壌層厚さにかかわらず同一であるとし、移行が速い成分の割合を土壌層厚さに依存する関数とすることにより、土壌層中Cs-137濃度の経時変化を評価することができることが示唆された。


図1 Time dependent values of observed and estimated transfer ratios.(原論文1より引用)

 次に、当該地域における核種深度分布を、累積分布関数を用いて評価することにより、移行が速い成分の割合と土壌層厚さの間の関数を求め、核種深度分布のばらつきを数学モデルによって模擬した。 


図2 CDFs of transfer ratio estimated by compartment model.(原論文1より引用)

 この解析結果と、土壌深度別に計算されたCs-137の外部被ばく線量係数(参考資料2)を用いて、Cs-137の土壌への浸透を考慮した外部被ばく線量評価を実施した。その外部被ばく線量評価結果と、表面モデルによる評価結果について比較することにより、表面モデルによる線量評価の妥当性を明らかにするとともに、当該地域におけるパラメータ値を導出した。


図3 Absorbed dose rate per deposit estimated by migration model and surface model.(原論文1より引用)

 最後に表面モデルの各パラメータについて感度解析を行い、表面モデルによる線量評価において重要なパラメータを摘出するとともに、本研究で得られたパラメータ値の妥当性について検討した。 これらの解析の結果、Cs-137の土壌深部への浸透による線量率の減少を、表面からの2成分核種除去モデルによって評価することは妥当であること、その際に積算線量に最も大きい影響を与えるパラメータは移行が速い成分の割合であり、この値を合理的に推定することが長期的な被ばく線量評価上重要であることを明らかにした。また、本解析領域(チェルノブイル原子力発電所より30km圏内)においては、移行が速い成分の環境半減期は1年程度であり、移行が遅い成分の環境半減期は比較的長期であること、移行が速い成分の割合のばらつきの範囲は0.09〜0.69程度であり、中央値は0.30程度であることを明らかにした。この結果、70年積算線量は、核種が地中に浸透することによって、浸透を考慮しない場合の30%〜90%程度に減少することが示唆された。
 

コメント    :
 本研究はチェルノブイル原子力発電所近傍という限定された領域を対象としており、結論を一般的な環境条件に普遍化するためには、土質、土性の差異等によるパラメータの変動要因や、移行のメカニズムに関する研究が必要である。
 

原論文1 Data source 1:
( タイトル、著者、所属機関、刊行物名)
チェルノブイル原子力発電所近傍の表層土壌中137Cs濃度に関するモニタリングデータを用いた外部被ばく線量評価モデルの妥当性の検証
高橋 知之*1、本間 俊充**
*1京都大学原子炉実験所、**日本原子力研究所
保健物理,34(4), pp.365-374(1999)

参考資料1 Reference 1:
Development of accident consequence assessment code at JAERI
T. HOMMA, O. TOGAWA and T. IIJIMA
Japan Atomic Energy Research Institute
EUR-13013/2

参考資料2 Reference 2:
Gamma ray fields in the air due to sources in the ground
K. Saito*1 and P. Jacob**
*1Japan Atomic Energy Research Institute,**Forschungazentrum fur Umwelt und Gesundheit
Radiation Protection Dosimetry, 58, 29-45 (1995).

キーワード:妥当性検証、線量評価モデル、外部被ばく、チェルノブイル原子力発電所、セシウム-137、土壌表層、2成分モデル、コンパートメントモデル、鉛直方向移行validation, dose assessment model, external exposure, Chernobyl nuclear power plant, cesium-137, soil surface, 2-component model, compartment model, vertical migration
分類コード:160103, 160201, 160302

原子力基盤技術データベースのメインページへ