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作成: 1999/10/28 久松 俊一

データ番号   :160019
環境研全天候型人工気象実験施設の概要
目的      :気象が放射性物質の環境中挙動に与える影響の研究
研究実施機関名 :(財)環境科学技術研究所
応用分野    :放射生態学、線量評価、被ばく低減化、環境回復、

概要      :
 (財)環境科学技術研究所では、放射性同位元素等の環境中挙動に及ぼす気象の影響を研究するため、全天候型人工気象実験施設を建設中である。施設には 1 台の大型人工気象室を設けるが、それは降雪、降水、霧発生の各装置を備えており、日本全国の気象条件をほとんど全て模擬することが可能である。ここでは、本施設の概要を説明し、そこで行うことを考えている研究の一端を紹介する。
 

詳細説明    :
1. 全天候施設の概要
 (財)環境科学技術研究所では、全天候型人工気象実験施設(全天候施設)を建設中であり、平成 12年度末の完成予定となっている。現在は建家が完成し、実験設備機器類の整備に当たっているが、建家の概観を図1に示した。全天候施設には 1 台の大型人工気象室と 5 台の小型人工気象チャンバが備えられており、気象の影響を検討する各種の実験に対応できる。


図1  (財)環境科学技術研究所全天候型人工気象実験施設

 大型人工気象室は国内の気象を全て再現することを目指しており、日照、降雨、降雪装置等を備えた奥行き 11 m、幅 12 m、高さ 13 m の気象室である。内部の概要を 図 2 に、主な性能を 表 1 に示した。日照装置はメタルハライドランプとハロゲンランプを組み合わせてあり、太陽光に近いスペクトル分布が得られる。降雨に関しては、通常の雨のほかに酸性雨降雨装置があり、pH 3 までの酸性雨を降らせることが可能である。降雪装置にはボックス法を採用した。これは、空気と水を混合してノズルから噴射し、これをナイロンネットを張った箱の中に吹き込み、ネット上に氷の微細結晶を成長させ、掻き落として降雪とする方式である。この方法は、氷を削って作られる雪や単に空気・水混合物を噴射して作られる雪に比較して自然の雪に近く、また、過飽和水蒸気を用いる降雪装置に比較して降雪量を確保しやすい。
 
 更に、当研究所の位置する青森県及び東北地方北部太平洋沿岸には「やませ」と呼ばれる特殊な気象条件がある。これは、春から夏にかけて冷たい北東風が吹き、それと共に霧が発生する現象である。低温と日照不足をもたらすため農業に多大な影響を与えるが、大型人工気象室では「やませ」を再現するために霧の発生装置を備えており、加えて、pH 3 までの酸性霧の発生も可能である。また、エアロゾル発生装置を備え、各種の粒子発生が可能である。


図2  大型人工気象室内部


表1  大型人工気象室における気象要素制御範囲
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気象要素  調整範囲            備考
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気温      -25℃〜50℃
相対湿度  20〜90%             装置から2.5m
日射      15,000〜50,000 lx
降雨      10〜100 mm h-1      〜pH 3
酸性雨    10〜20 mm h-1       1〜5 mmフレーク、0.1〜0.4 g cm-3
降雪      50〜250 mm d-1      5〜100 μm
霧        〜2 g m-3           5〜100 μm、〜pH 3
酸性霧    〜2 g m-3
風速      〜0.5 m s-1
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 全天候施設には、大型人工気象室のほかに5台の小型人工気象チャンバを設置するが、その内の 2 台は RI 取り扱い施設内に置き、RI を用いた実験が可能である。これらのチャンバのサイズは幅、奥行きが 2.7 m であり、高さは 2.5 m である。小型チャンバでは温湿度と照度の調節が可能であり、温度調節範囲はチャンバにより異なるが、湿度と照度の調節範囲はそれぞれ、20〜90 % RH と 21,000〜70,000 lxである。
 
2. 全天候施設における実験の予備的計画
 以下に全天候施設における実験として予備的に計画されているテーマを列挙した。
 
 「やませ」関連
  農作物の元素代謝に与える「やませ」の影響
  大気から植物・土壌への元素移行に及ぼす「やませ」の影響
  果樹の元素代謝に与える「やませ」の影響
 
 雪関連
  Rnエマネーションに及ぼす雪の影響
  降雪による大地γ線の遮蔽効果
  重水沈着に及ぼす雪の影響
 
 トリチウム関連
  大気から植物への重水の沈着
  大気中重水の霧による沈着
  土壌によるトリチウム水素(HT)の酸化に及ぼす気象の影響
  大気から農作物へのトリチウム水素(HT)、有機トリチウム(T)化合物の移行
 
 農業関連
  種々の気象条件が農作物による元素の移行や代謝に与える影響
  細胞レベルでの土壌植物間の元素移行
  気象条件が土壌中の可給態に与える影響
 
 環境修復関連
  植物を用いた環境修復
  有害物質の土壌植物間移行の低減化
 

コメント    :
 (財)環境研の全天候型人工気象実験施設は、放射生態学研究のための施設としては全国に例を見ない大型の人工気象室を備えている。また、環境放射能関連の研究に留まらず、地域の産業振興などに役立つ多方面の研究が行われることが期待される。
 

キーワード:人工気象室、放射生態学、パラメータ、環境移行、大気、土壌、植物、作物、やませ、降雪
Artificial climate, radioecology, parameter, environmental transfer, atmosphere, soil, plant, crop, Yamase, snowfall
分類コード:160201, 160203, 160204

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