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作成: 1998/10/08 山本 政儀

データ番号   :160012
水田土壌中の超ウラン元素の挙動
目的      :フォ-ルアウト超ウラン元素の水田土壌中での挙動解析
研究実施機関名 :金沢大学理学部附属低レベル放射能実験施設
応用分野    :環境科学、生態学、地球化学

概要      :
 超ウラン元素は物理的半減期が長く、しかも危険なα線放射体が多いので、環境に放出された場合、将来長きにわたって地球環境問題としてその挙動を評価続けなければならない。そのためには、長期的展望に立った系統的かつ継続的な定量性あるフィ-ルド研究が重要となる。ここでは農業生産環境、すなわち水田土壌中におけるフォ-ルアウト超ウラン元素の移行挙動を評価するための一助としてこれら元素の蓄積レベル、滞留時間を検討した。
 

詳細説明    :
 92番元素ウラン(U)よりも原子番号の大きい元素を総称して超ウラン元素と呼ぶ。これらの元素(ここでは Np, Pu, Am, Cm までを対象)は、1945 年以来の大気圏内核実験によって初めて一般環境に付加された。他の元素と異なり (1)安定核種が存在しない、(2)物理的半減期の長い核種が多い、(3)生物学的に危険なα線放射体が多い、(4)一般環境で種々の酸化状態を含む化学形をとるなどの特徴をもつ。現在、核燃料サイクルのバックエンドの問題ともからんで、環境保全や放射線影響の面から注目かつ重要視されている。
 
 陸上環境に限定すると、汚染物質の最大のリザ-バ-である大地、すなわち土壌が環境-人体連鎖の過程における物質循環と深い関わりがあることが早くから認識され、この方面の数多くの研究がフォ-ルアウト核種を用いて行なわれてきた。土壌中での超ウラン元素の移行挙動は、放出された元素および土壌の物理、化学、生物学的特性に大きく依存する。最終的には土壌環境中の pH と酸化還元電位のもとで起こるそれぞれの超ウラン元素の加水分解、錯形成、吸着などの反応に従うであろう。このような複雑な土壌環境での超ウラン元素の移行挙動を予測評価するためには、室内トレ-サ-実験からのアプロ-チも必要であるが、長寿命であるために特に時間経過が1つの大きなパラメ-タ-になってくるので長期的展望に立った系統的かつ継続的な定量性あるフィ-ルド研究が重要となる。
 
 表層土壌に沈着した放射性核種の移行挙動を評価する上で、水田は日本人の主要穀物である米(水稲)の生育場として重要な位置を占めている。さらに地球化学的観点から見ると、水田土壌は潅水、落水といった耕作作業に対応して化学的環境(酸化・還元環境)が周期的に変化する興味深い環境である。ここでは、水田土壌中におけるフォ-ルアウト由来の超ウラン元素の蓄積レベル、分布さらに滞留時間について検討した結果について述べる。
 
1.試料と放射能測定
 農林水産省の農業技術研究所(現在の農業環境技術研究所)が、全国の国公立農業関係試験場 15機関の特定水田で 1957 年から現在に至るまでに各年採取した土壌(採取重量、採取面積が既知)を用いた。本研究においては、主として1963, 1976, 1987年に採取した上記 15機関からの水田土壌およびフォ-ルアウト降下量の多い日本海側の秋田、新潟、石川県で採取した年代別土壌を分析試料とした。放射能測定には、非破壊γ線スペクトロメトリ-(137Cs)、化学分離・α線スペクトロメトリ-(239,240Pu, 241Am)、化学分離・HR-ICP-MS(237Np)を用いた。
 
2.蓄積レベルと分布
 図 1 は、239,240Pu について、約 15cm 深さまでの水田土壌中の蓄積レベルの推移を太平洋側と日本海側に分けて示した結果である。蓄積量は日本海側で多く、太平洋側で少ない傾向を示す。この傾向は、137Cs, 237Np, 241Am についても認められ、その主な原因は降雨量の違いによる。現在の239,240Pu 蓄積量は日本海側で 100〜120Bq/m2, 太平洋側で40〜50Bq/m2 である。239,240Pu/137Cs および237Np/239,240Pu放射能比はそれぞれ約0.02および(3〜4)x10-3 である。241Am については、そのほとんどすべてが土壌中に蓄積した Pu 同位体241Pu からの壊変に由来するもので、時間経過とともに変化するが、現在の241Am/239,240Pu 放射能比は 0.35〜0.4 である。


図1 水田土壌中の239,240Pu の蓄積レベル(原論文4より引用)

 
3.水田土壌中でのみかけの滞留時間
 水田土壌中に蓄積した超ウラン元素が、長期的に見てどのような挙動をするかは米への移行等を予測する上でも重要である。ここでは核実験からのフォ-ルアウト超ウラン元素(237Np, 239,240Pu)が水田土壌中でどのように変化していくのかをみかけの滞留時間で評価することを試みた。図 2 に解析に用いた簡単なモデルを示す。


図2 水田土壌中の放射性核種のみかけの滞留時間に評価法(原論文4より引用)

 系内の放射性核種の蓄積量(DT)は、年間降下量(At)と系外からの除去、すなわち(1)放射壊変(λ)と(2)系外への流出(k)の指数関数として次式で表せる。
 
      T
   Dt = Σ At・exp{-(λ+k)(T-t)}
     t=i
 
 系外への流出の頃は、図中に示した表面流去、舞い上り、対象とした層以深への移行、さらに水稲への根部からの吸収を含んでおり、k の逆数 1/k をみかけの滞留時間とみなすことができる。
  
 図 3 に、秋田の年代別の水田土壌を用いて解析した結果を示す。237Np のみかけの滞留時間(50〜70年)が239,240Pu や137Cs のそれ(100〜140y)よりも短いことが示唆される。このような手法は移行プロセスについての情報を提供しないが、定量的に他の放射性核種との比較を可能にする点で有効である。


図3 秋田県で採取した水田土壌中の237Np, 239,240Pu および137Cs のみかけの滞留時間(原論文3より引用)

 

コメント    :
 土壌中の放射性核種の移行挙動、さらに植物の根からの吸収が長期的に見てどのようになっていくかを評価する場合、短期間のトレ-サ-実験だけでは不十分であり、どうしても定量性のある長期的なフィ-ルド研究が要求される。フィ-ルドで土壌中の放射性物質を測定する場合、Bq/kg 単位の濃度では土壌タイプ、水分含有量などによってその値が大きく左右され、他の地域の値との比較も簡単ではない。したがって濃度(Bq/kg)に加えて、蓄積量(インベントリ-:Bq/m2)での評価が必須である。このようなデ-タがあってはじめて、種々のモデルで移行挙動の解析が可能となる。
 

原論文1 Data source 1:
241Am and plutonium in Japanese rice-field surface soils
Yamamoto, M., K. Komura and M. Sakanoue
金沢大学理学部附属低レベル放射能実験施設(Low Level Radioactivity Laboratory, Kanazawa Univ.) 石川県能美郡辰口町和気オ24
J.Radiat.Res., 24, 237-249 (1983)

原論文2 Data source 2:
Development of alpha-ray spectrometric techniques for the measurement of lowlevel 237Np in environmental soil and sediment
Yamamoto, M., K. Chatani, K. Komura and K. Ueno
金沢大学理学部附属低レベル放射能実験施設(Low Level Radioactivity Laboratory, Kanazawa Univ.) 石川県能美郡辰口町和気オ24
Radiochim. Acta, 47, 63-68 (1989)

原論文3 Data source 3:
Temporal feature of global fallout 237Np deposition in paddy field through the measurement of low level 237Np by high resolution ICP-MS
Yamamoto, M., H. Kofuji, A. Tsumura, S. Yamazaki, K. Yuita, M. Komaura,
K. Komura and K. Ueno
金沢大学理学部附属低レベル放射能実験施設(Low Level Radioactivity Laboratory, Kanazawa Univ.) 石川県能美郡辰口町和気オ24
Radiochim. Acta, 64, 217-224 (1994)

原論文4 Data source 4:
水田土壌中の長半減期核種の挙動
山本 政儀、小藤 久毅、津村 昭人、駒村 美佐子、結田 康一、山崎 慎一、上野 馨
金沢大学理学部附属低レベル放射能実験施設(Low Level Radioactivity Laboratory, Kanazawa Univ.)石川県能美郡辰口町和気オ24
クロスオ-バ-研究シンポジウム“汚染物質の環境挙動予測に関する局地規模詳細モデルならびにその移行パラメ-タ"内田 滋夫、清水 誠 論、原子力基盤技術総合的研究推進委員会、放射線リスク評価・低減化研究交流委員会、pp. 246-263 (1995)

参考資料1 Reference 1:
Residence times of fallout 239,240Pu, 238Pu, 241Am and 137Cs in the upper horizons of on undisturbed grassland soil
Bunzl, K., H. Forster, W. Kracke and W. Schimmack
GSF-Forschungszentrum fur Umwelt und Gesundheit, Institut fur Strahlenschutz, Neuherberg, Germany
J. Environ. Radioact., 22, 11-27 (1994)

参考資料2 Reference 2:
Residence times of global weapons testing fallout 237Np in a grassland soil compared to 239,240Pu, 241Am and 137Cs
Bunzl, K., H. Kofuji, W. Schimmack, A. Tumura, K. Ueno and M. Yamamoto
GSF-Forschungszentrum fur Umwelt und Gesundheit, Institut fur Strahlenschutz, Neuherberg, Germany
Health Phys., 68(1), 89-93 (1995)

キーワード:水田、土壌、フォ-ルアウト、超ウラン元素、滞留時間、ネプツニウム、プルトニウム、アメリシウム
Paddy field, Soil, Fallout, Transuranium elements, Residence time, Neptunium,
Plutonium, Americium
分類コード:160103, 160203, 160301

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