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作成: 1998/10/21 永井 晴康

データ番号   :160010
大気-植生-土壌複合系内における水循環の動的モデルの開発
目的      :詳細な水循環予測モデルの開発
研究実施機関名 :日本原子力研究所環境安全研究部環境物理研究室
応用分野    :環境科学、気象学、水文学

概要      :
 大気-植生-土壌複合系内の放射性核種移行の媒体である空気及び水の動的挙動を表す数値モデル構築の第一段階として、大気と裸地土壌を対象とした1次元モデルを開発した。大気部分は、水平風速成分、温度、湿度、霧水量及び乱流量を予報的に解く。土壌部分は、温度、体積含水率、土壌空気中の湿度に関する予報方程式で構成される。大気と土壌は、地表面熱収支式及び水収支式を用いて結合されている。
 

詳細説明    :
 大気-植生-土壌の複合系での放射能を含む汚染物質の循環のほとんどは、媒体である空気及び水の循環によって引き起こされる。大気-植生-土壌の複合系での水の動きは極めて複雑で、種々の要因により変化する。水は自然環境下で固体、液体、気体の三相が存在し、降水等の気象学的要因、植物の種類、活動度等の生物学的要因、土壌の種類、状態等の地質学的要因が水の動きを支配している。また、水の動きのエネルギー源として、日射及び大気放射が重要な役割を果たしている。これらの要因の変動の時間的、空間的スケールは小さく、要因が相互に依存性を持つことによりさらに複雑な現象となっている。
 
 本研究では、この複雑な水循環の特性を数値実験により解明し、汚染物質の移行予測に適用することを目的として、複合系内での物理過程の方程式系を数値的に解くことにより水の挙動を予測する詳細なモデルの開発を行なっている。モデル開発の第一段階として作成した大気と裸地土壌を対象とする1次元モデルについて記述する。
 
1. 大気モデル
 大気モデルは、地表面と接して大気-地表間の物質及び物理量交換過程を規定する接地層、鉛直方向の混合を規定する大気境界層、及びその上の自由大気の運動及び属性を記述したモデルであり、一般的に大気境界層モデルと呼ばれる。大気の属性としては、風速u,v、温位θ、比湿qa、乱流運動エネルギーe、乱流長さスケールと乱流運動エネルギーの積eλ、及び霧水量wfを考慮している。属性を表す物理量をφで表すと、支配方程式は次の式になる。
 
   ∂φ/∂t = (∂/∂z)Kz(∂φ/∂z) + F
 
Kzは鉛直乱流拡散系数、Fは外力項を表す。各物理量の外力項は以下のとおりである。
風速成分:コリオリ力、圧力勾配力、地表面の抵抗
温位:地表での顕熱交換、水の相変化による潜熱交換、放射による加熱または冷却
比湿:地表での水蒸気交換、水の相変化による増加または減少
乱流量:風速のシアー及び浮力による生成、粘性消散
霧水量:地表面との交換、水の相変化による生成または消失
 
2. 土壌モデル
 土壌モデルは、地表面での熱、水蒸気、及び液体水の交換だけでなく、土壌を厚みのある層として扱い、土壌中の熱伝導及び水輸送を考慮したモデルである。本モデルが対象とするスケール(深さ1m程度)においては、通常水平方向の不均一性は無視できるため、土壌中の過程は鉛直方向の1次元で扱っている。モデルで計算する土壌の物理量は、温度、体積含水率及び土壌中空気の比湿である。土壌中の物理過程としては、熱伝導、水分輸送、水の相変化、地表面での日射及び長波放射の吸収、反射、射出、大気との顕熱と水蒸気交換、及び降水を考慮している。
 
3. 計算例
 仮想的な条件でモデルの試験計算を実施した。想定した気象条件は、降水がなく晴れた日が続き土壌が乾燥していく過程である。計算条件を表1に示す。原研のベクトル並列計算機VPP500の1CPUを用いて100日間の計算を実施したところ、CPU時間は5〜6時間程度であった。図1は、計算開始後6〜10日及び46〜50日の各5日間についての地表面熱収支時間変化である。日変化の傾向は、観測により得られた一般的と考えられる知見と矛盾がない。

表1 モデル試験計算の条件
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モデル格子	 
      大気層数      50
      大気上端高度    3,300 m
      大気層の厚さ    1 m(第1層)〜100 m(上端)
      土壌層数      10
      土壌層深度     0〜0.5、0.5〜1、1〜2、2〜4、4〜6、6〜9、
                9〜13、13〜17、17〜23、23〜37cm
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計算条件
      対象地点緯度    36 度
      太陽赤緯      0 度
      計算開始時刻    21:00(Local Time)
      計算継続時間    2,400 時間(100日間)
      土壌タイプ     砂
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初期条件
      風速        3.0 m/s
      地上気温      20 ℃
      温位勾配      3.5 K/km
      大気比湿      8.0 g/kg
      土壌温度      20 ℃
      土壌含水率     0.2 m3/m3
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図1 Temporal changes of heat fluxes at ground surface. Rsol: solar radiation, Rinf: atmospheric radiation, Rnet: net radiation, H: sensible heat flux, lE: latent heat flux, G: heat conduction into the ground.(原論文1より引用)

 

コメント    :
 本研究は、あらゆる研究分野でこれまでに蓄積されてきた知見を総合して、大気-植生-土壌複合系での水の挙動を解明するための詳細なモデルの枠組みを構築したものである。モデルに含まれる物理過程に関する知見は、現状では必要な全てを網羅している訳ではない。従って、実際にある対象にモデルを適用する場合には、その対象に関する基礎実験と組み合わせた形で数値実験を行なう必要がある。
 

原論文1 Data source 1:
大気-裸地土壌1次元モデルの開発
山澤 弘実、永井 晴康
日本原子力研究所(Japan Atomic Energy Research Institute),茨城県那珂郡東海村白方白根2-4
JAERI-Data/Code, 97-041(1997)

キーワード:大気、植生、土壌、水循環、物質移行、動的モデル
Atmosphere, Vegetation, Soil, Water cycle, Migration, Dynamic model
分類コード:160102, 160103, 160104

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