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作成: 1998/12/25 宮本 霧子

データ番号   :160008
局地における水循環のモデル構築とパラメータ収集について
目的      :降水の地表面流出機構のモデル構築とその応用
研究実施機関名 :放射線医学総合研究所第4研究グループ
応用分野    :地球化学、水文学、放射生態学、環境科学、環境放射能学

概要      :
 環境水中のフォ-ルアウト起源のトリチウムを自然のトレ-サとして利用して、その経年観測値の解析から関東平野の水循環機構についてモデルを構築した。同じモデルを原子燃料サイクル工業の拠点として開発が進められている、青森県六ヶ所村の水収支計算に適用して、関東平野の場合と比較した。
 

詳細説明    :
1.目的
 陸圏における放射性核種の移動には、移動媒体としての水自身の挙動が大きく影響し、また水の移動には気象・地理・地質・水理・土地利用など、局地の地域特性が大きく影響する。従って、放射性核種の環境挙動を精度よく予測するためには、実サイト周辺の地域特性を考慮に入れた、より詳細な局地規模の水収支モデルを構築し、適切なパラメ-タを選定することが重要である。降水によって地下水・河川水などの陸水が涵養・排出される機構についてモデルを構築し、地下水の滞留時間などについて研究を行った。
 
2.方法
 関東平野における環境水中のフォ-ルアウト起源のトリチウムを自然のトレ-サとして利用して、その経年観測値を解析することによってモデルを構築した。また原子燃料サイクル工業の拠点として新しく開発が進められている、青森県六ヶ所村を1つの局地として、同様な手法を用いて陸圏の水収支についてモデルを構築した。また両者を比較することによって、同モデルの局地へ適応性についても検討した。
 
3.関東平野における局地水循環モデル


図1 Tritium concentration in river waters observed in the Kanto Plain and comparison with the response curve TSn.(原論文1より引用)

 図1に関東平野における河川水の30年間のフォールアウトトリチウム濃度観測値の推移を示した。図1と同様の地下水の経年観測値と共に解析することにより、関東平野に供給された降水が地下水になり、河川水として流出して海洋へ排出されるまでの機構について以下のモデルを構築した。
 
 地下水の帯水層を深さによって3段に分け、降水は第一層の帯水層にのみ供給される。第一層からは、1年毎にある割合の地下水が第二層に降下し、同時に河川水にも表面流出する。第二層から第三層にも同じことが起こり、第三層からは表面流出のみが起こる。上層から下層への降下や、河川への流出の割合などを定数として仮定し式を立てた。


図2 (a,b,c)top,second,third and (MRT)top,second,third of tritium in the three layers of the groundwater system in the Kanto Plain derived from model calculation.(原論文1より引用)

 得られた関係式の中の定数に仮の値を与え、毎年の降水中のトリチウム濃度の測定値を逐次入力し、計算で得られる各層の地下水と河川水の予測濃度が実際の測定値と合うまで定数を変化させ、測定値と計算値が最もよく合ったときに使った定数値を、本モデルを構成するパラメータとして決定する。図2にその方法で得られた各帯水層からの降下割合や流出割合、平均滞留時間の値をまとめた。また図1にそのときの河川水の濃度の経年計算値を併せて図示した。
 
4.青森県六ヶ所村における局地水循環モデル


図3 Tritium concentration in river waters observed in the Rokkasho Village and comparison with the response curve TSn.(原論文3より引用)

 青森県六ヶ所村の降水、地下水、河川水のトリチウム濃度の5年間の観測結果を解析して、関東平野の解析結果と比較することにより、六ヶ所村の地下水の帯水層も3層から成り立っていることが分かった。また図3に示すように、降水のトリチウム濃度は、緯度効果によって関東平野よりも1.5倍高く、また第2帯水層の大きさは関東平野の3分の1と仮定すると、六ヶ所村の高めの河川水中トリチウム濃度の測定値を説明できることが分かった。
 

コメント    :
 原子力を安全に利用していくためには、実サイトの状況に対応して放射性物質の拡散予測モデルの構造を、より詳細化する技術開発が必要である。陸圏における放射性核種の移動には、移動媒体としての水自身の挙動が大きく影響するため、水循環についての詳細なモデル化とパラメータの適正化は今後も基盤的な技術として重要である。また日本の風土に共通するモデルの一般化という作業も、環境科学的観点から興味あるテーマとなる。
 

原論文1 Data source 1:
A transfer model of tritium in a local hydrosphere
Miyamoto, K., Kimura, K. and Hongo, S.
放射線医学総合研究所(National Institute of Radiological Sciences), 千葉市稲毛区穴川4-9-1
Fusion Technology, 28, 910-917 (1995)

原論文2 Data source 2:
陸圏水循環モデルの局地への適応性
宮本 霧子
放射線医学総合研究所(National Institute of Radiological Sciences), 千葉市稲毛区穴川4-9-1
クロスオーバー研究シンポジウム「汚染物質の環境挙動予測に関する局地規模詳細モデルならびにその移行パラメータ」、 190-202(1995).

原論文3 Data source 3:
The study of a hydrological model and its parameters using data on the distribution of hydrogen isotopes
Miyamoto, K.
放射線医学総合研究所(National Institute of Radiological Sciences), 千葉市稲毛区穴川4-9-1
Proceedings of International Workshop on Cross-over Research, "Improvement of Environmental Transfer Models and Parameters", held Feb. 5-6, 1996, p226-236, (1996).

キーワード:フォールアウト、地下水、水循環、関東平野、モデル、降水、河川水、六ヶ所村、トリチウム、水収支
Fallout, Groundwater, Hydrological cycle, Kanto Plain, Model, Precipitation, River water, Rokkasho Village, Tritium, Water balance
分類コード:160102, 160103, 160201, 160202

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