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作成: 1998/10/25 森田 重光

データ番号   :160003
質量分析法による環境試料中長半減期核種の定量法開発
目的      :環境中に存在する長半減期核種の定量
研究実施機関名 :核燃料サイクル開発機構安全管理部環境監視課
応用分野    :環境放射能、環境科学、分析化学、土壌学

概要      :
 従来の放射能測定法では定量が困難であったテクネチウム、ネプツニウム等の長半減期核種を質量分析法により測定した。トレーサ試験により質量測定上妨害となるマトリクス元素及び同重体元素の除去法を確立した結果、簡便かつ高感度に上記核種を定量できるようになった。本定量法は、半減期が数万年以上の核種であれば、従来の放射能分析法と同等〜数十万倍以上の感度を得ることができる。
 

詳細説明    :
1.はじめに
 テクネチウム-99(Tc-99)、ヨウ素-129(I-129)、ネプツニウム-237(Np-237)、プルトニウム-239、240(Pu-239、240)は半減期がいずれも数万年以上であり、環境中における移行挙動に関する知見は、核燃料サイクルに係る環境影響評価を行う上で重要である。しかし、これら核種の環境中における濃度レベルは極めて低く、植物等、試料の種類によっては、従来の放射能測定法では検出が不可能であった。そこで、長半減期核種は比放射能が小さいことに着目し、近年、超微量金属元素の測定装置として開発された誘導結合プラズマ質量分析装置(Inductively Coupled Plasma Mass Spectrometry, ICP-MS)及びマイクロ波導入プラズマ質量分析装置(MIP-MS)を測定系に用いる高感度分析法の開発を行った。
 
2.ICP-MSによる定量法の開発
 質量分析法で長半減期核種を測定する場合、試料中に含まれるカリウム、ナトリウム等のマトリクスや、目的とする核種と同一または近傍質量数に同位体を持つ元素が妨害となる。そこで、これら妨害元素の除去法を検討した。その結果、有機マトリクスは乾式灰化法で、また、無機マトリクスは共沈法やイオン交換法等で効率良く除去できることがわかった。
 
 Tc-99と同一質量数に安定同位体を持つルテニウムや、Np-237,Pu-239の近傍に同位体を持つウラン等、スペクトル干渉の原因となる元素の除去法については、トレーサ試験を行い、除染効率を調査した。その結果、ルテニウムはキレート樹脂を用いたイオン交換法やシクロへキサノンを用いた溶媒抽出法で、また、ウランはトリフルオロ酢酸を用いた溶媒抽出法や酢酸系のイオン交換法により効率良く除去できることがわかった。
 
 開発した定量法を図1に示す。本定量法を用いることにより、Tc-99、Np-237、Pu-239、240等の長半減期核種を、従来の放射能測定法の10倍から100,000倍の感度で測定できるようになり、分析時間も2分の1以下に短縮することができた(表1)。


図1 長半減期核種の系統分析法(原論文2より引用)


表1 長半減期核種の検出下限値(原論文2より引用)
---------------------------------------------------
                  検出下限値(mBq)
 核 種  -------------------------------------------
         ICP-MS     従来法        測定法
---------------------------------------------------
Tc-99   1.0×10-2     2.0     ガスフロー測定
Th-232  8.9×10-7  2.0×10-4  中性子放射化分析
Np-237  4.7×10-6  8.0×10-2  中性子放射化分析
U-238   9.9×10-8  2.5×10-4  フィッショントラック
Pu-239  1.0×10-2  2.0×10-1  α線スペクトロメトリ
Pu-240  3.2×10-2  2.0×10-1  α線スペクトロメトリ
---------------------------------------------------
 
3.MIP-MSによる定量法の開発
 ICP-MSではプラズマガスにアルゴンを用いるが、アルゴン中にはキセノン-129が不純物として含まれているため、精度良くヨウ素-129を測定することは不可能である。そこで、プラズマガスに窒素を用いるMIP-MSによる定量を試みた。ヨウ素は揮発性が高く、加熱することによりマトリクスから容易に分離できる。そこで、乾式灰化法により揮発させた後、水酸化テトラメチルアンモニウムのアルカリ溶液に溶解させる方法で妨害元素から分離・精製する分析法を構築した(図2)。


図2 環境試料中のI-129分析法

 環境試料中には安定同位体であるI-127が多量存在するため、I-129/I-127原子数比が10-7より大きい土壌試料については定量可能であるが、10-7より小さい試料はI-127ピークのテーリングにより測定できないという問題点がある。また、本定量法の感度は、中性子放射化分析法と放射化学分析法の中間に位置するものであり、現状では測定できる試料が限られるが,中性子放射化分析法で必要であった原子炉が不要であり、被ばくの可能性もない等の優れた特徴を有している。
 
 今後、I-127とI-129との分離能と検出感度との最適化を図り、土壌以外の試料への適用について検討する予定である。
 
4.まとめ
 質量分析法の感度は極めて高く、長半減期核種の土壌環境中における移行挙動や土壌―植物間の移行係数をフィールドデータを基に解析することが可能となった。また、MIP-MS法は中性子照射を必要とせず、容易にI-129を測定できる定量法であり、将来、環境モニタリングに適用できるものと考える。
 

コメント    :
 開発した定量法は多くの長半減期核種の分析に適用できるものであり、測定感度の向上及び測定時間の短縮を図ることができる。放射性核種の土壌から植物系への移行に関するパラメータは、これまでトレーサ試験の結果が用いられていたが、土壌中の核種濃度が変化すると移行挙動も変化するため、試験結果と実環境中における挙動が異なる場合があった。本定量法を用いることにより、実環境中に存在するフォールアウト由来の核種の濃度分布から移行挙動を解析することが可能となり、より精度の高いパラメータを整備することができるようになった。
 

原論文1 Data source 1:
Determination of Technetium-99 in Environmental Samples by Inductively Coupled Plasma Mass Spectrometry
S. Morita, K. Tobita and M. Kurabayashi
動力炉・核燃料開発事業団(Power Reactor & Nuclear Fuel Development Corporation),茨城県那珂郡東海村村松4-49
Radiochimica Acta 63, 63-67(1993).

原論文2 Data source 2:
土壌−植物系での放射性核種の挙動に関する研究
片桐 裕実
動力炉・核燃料開発事業団(Power Reactor & Nuclear Fuel Development Corporation),茨城県那珂郡東海村村松4-49
原子力工業, 42 (8), 62-67 (1996).

原論文3 Data source 3:
MIP-MSによる環境中I-129の定量法の開発
森田 重光
核燃料サイクル開発機構(Japan Nuclear Cycle Development Institute),茨城県那珂郡東海村村松4-49
Radioisotopes (投稿中)

キーワード:誘導結合プラズマ質量分析法、マイクロ波導入プラズマ質量分析法、 環境試料,長半減期核種、テクネチウム-99、ヨウ素-129、プルトニウム-239、240、ネプツニウム-237
Inductively Coupled Plasma Mass Spectrometry (ICP-MS)、Microwave Induced Plasma Mass Spectrometry (MIP-MS)、Environmental samples、Long-lived radionuclides、Technetium-99、Iodine-129、Plutonium-239、240、Neptunium-237
分類コード:160201

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