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作成: 1999/09/07 神田 玲子

データ番号   :150015
非蛍光染色体着色法による染色体異常の解析法
目的      :放射線誘発染色体異常解析の精度向上
研究実施機関名 :放射線医学総合研究所障害基盤研究部
応用分野    :線量推定、リスク推定

概要      :
 蛍光 in situ 分子交雑法(FISH法)による染色体着色法は観察に高価な蛍光顕微鏡を必要とし、また観察中に蛍光が退色するため永久標本にならず見直し観察が困難である。そこでペルオキシダーゼ-ジアミノベンチジン反応を利用した非蛍光染色体着色法を紹介する。この方法の染色体異常検出効率は理論値に極めて近い。また容易に自動解析系に適用することができるという利点を持つ。
 

詳細説明    :
 末梢血リンパ球に出現する染色体異常は大変優れた線量推定の指標だが、その分析作業は熟練した技術者でないと行えず、非常に手間と時間がかかる。しかし低線量の推定を行う際、膨大な数の細胞を分析するので、作業の能率化が必要とされる。また異常の出現頻度が低く、ミススコアを1つしただけでも結果に大きく影響するので、正確な分析系をも必要とする。近年開発された蛍光 in situ 分子交雑法 (FISH 法) による染色体着色法は容易に安定型異常等が検出でき、作業の能率化という点では不可欠な技術である。しかし観察に高価な蛍光顕微鏡を必要とし、また観察中に蛍光が退色するため永久標本にならず見直し観察が困難といった欠点も持つ。そこでペルオキシダーゼ / ジアミノベンチジン反応を利用した非蛍光染色体着色法を紹介する。
 
 プロトコールは以下の通りである。
 
(1)用いる細胞は何でもよいが、最初に染色体標本が作製しやすい分離リンパ球を用いて系を確立することを勧める。末梢血から vacutainer CRT チューブ (Becton Dickinson)を用いて、リンパ球を分離する。これを 2 % PHA (HA 15, Murex Biotech Ltd.), 0.05μg/ml コルセミド及び 20 % 牛胎児血清を含む RPMI 培地中で48時間培養する。
 
(2)細胞は通常の方法に従い、75mM KClで低張処理し、酢酸メタノールで固定した後、スライドグラスに細胞を湿潤空気乾燥法で展開して染色体標本を作成する。
 
(3)標本は 0.5 mg/ml RNaseと 0.5 mg/ml ペプシンによる処理を行う。
 
(4)着色を行うまで - 80℃ で保存する。この状態では長期保存が可能である。
 
(5)染色体標本は熱処理 (65℃、2 時間以上)をしてから、70℃ の 70 % ホルミアミド / 0.6 x SSC, pH 8.0 中で 50 秒で DNA 変性を行う。変性後は 4℃ のアルコールシリーズに通し脱水する。
 
(6)プローブはビオチン化したものを用いる。筆者らはキャンビオ社製のプローブを主に用いた。これを製造元の勧める方法に従って DNA 変性する。
 
(7)染色体標本に変性済みプローブを滴下し、カバーグラスで覆い、ペーパーボンド等でまわりをシールする。
 
(8) 37℃ の湿潤箱の中で 2-3 日ハイブリダイゼーションを行う。
 
(9)プローブの製造元の勧める方法に従って標本を洗浄する。
 
(10) 50μg/ml アビジン化ペルオキシダーゼ溶液 (Vector Laboratories) を標本に滴下し、パラフィルムでカバーした後、37℃の湿潤箱で 1時間処理する。
 
(11) 4 x SSC / 0.5% Tween 20 で 3 回洗浄した後、50μg/ml ビオチン化抗アビチン抗体 (Vector Laboratories) を標本に滴下し、パラフィルムでカバーした後、37℃の湿潤箱で1時間処理する。
 
(12)上記の方法で標本を洗浄後、(10)の操作を繰り返す。(13)上記の方法で洗浄後、0.04% ジアミノベンチジン溶液中で発色させる。(14)風乾後、オイキットで封入する。


図1  Human metaphases painted with probes for chromosome 4 and visualized by peroxidase/diaminobenzidine reaction. (A) A normal metaphase; (B) A dicentric and a fragment; (C) An acentric ring.(原論文1より引用)

 この方法のポイントは以下の3点である。(1)ターゲット染色体全体を均一に着色するためには、染色体標本を RNase とペプシンで処理する必要がある。しかしこの処理が過剰な場合、染色体の DNA 変性が過度になるおそれがあるので注意を要する。(2)蛍光顕微鏡よりも解像度の高い光学顕微鏡で観察すると、染色体の形態の良否がはっきりするので、通常よりマイルドな DNA 変性を行う。(3)蛍光法よりもやや感度が低いので、ハイブリダイゼーション時間を長めにし、ビオチン化抗アビジン抗体を利用して増感する。
 
 この非蛍光染色体着色法を用いると、X 線誘発の相互転座と二動原体の出現頻度はほぼ 1:1 となり、信頼性高く動原体が確認できることが立証されている。また 4番染色体を着色した際の二動原体の検出効率は11.5 % で、長さに基づいた理論値 (12 %)に極めて近い。さらに容易に自動解析系に適用することができるという利点を持つ。
 

コメント    :
 低線量推定を行うには従来の方法よりも正確な分析系が必要なので、この改良法を開発した。
 

原論文1 Data source 1:
Non-fluorescent chromosome painting using the peroxidase/diaminobenzidine (DAB) reaction
R. Kanda, M. Suzuki, M. Minamihisamatsu, A. Furukawa, T. Odaka and I. Hayata
Division of Radiobiology and Biodosimetry, National Institute of Radiological Sciences
International Journal of Radiation Biology, vol. 73, 529-533 (1998)

キーワード:染色体異常(Chromosome aberrations)、ヒトリンパ球(Human lymphocytes)、転座(Translocation)、二動原体(Dicentrics)、染色体着色法(Chromosome painting)、線量推定(Dose estimation)、ペルオキシダーゼ-ジアミノベンチジン反応(Peroxidase-diaminobenzidine reaction)
分類コード:150101, 150102, 160302

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