放射線被曝による自己免疫疾患の誘発に関連する好中球ミエロパーオキシデースの分子構造の変化とその性状

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作成： 1999/02/01 鈴木　和男データ番号　　　：150012 放射線被曝による自己免疫疾患の誘発に関連する好中球ミエロパーオキシデースの分子構造の変化とその性状目的　　　　　　：放射線被曝による自己免疫疾患の誘発に関連すると予想される好中球酵素ミエロパーオキシデースの放射線感受性についての研究の現状を把握する。研究実施機関名　：国立感染症研究所　生物活性物質部　生体防御物質室応用分野　　　　：放射線による蛋白分子の断片化、自己免疫疾患の診断概要　　　　　　：　Myeloperoxidase(MPO)の断片化は、FMLP(fMet-Leu-Phe)刺激による活性化によって生じると予想されたことから、γ線照射による好中球の活性化の指標分子の mRNA の発現について解析した。特に、10 Gy のγ線照射では mRNA の上昇がみられ、好中球がγ線によって活性化されていることが推定される。 MPO 分子は、熱以外にも放射線によっても切断されることが示されたことから、放射線被曝によって切断された MPO フラグメントおよびリンパ球の機能異常によって、MPO 抗体 (MPO-ANCA) が産生される可能性が考えられる。　詳細説明　　　　：　個体レベルの放射線被曝のリスク評価には、白血球の減少が指標になっている。放射線による白血球減少は、主に感染防御を担い、増殖の速い好中球数に影響していることが反映されている。しかし、その機能への放射線の影響については明らかにされていない。また、放射線被曝後の影響として、被曝線量とリンパ球の染色体異常との関係は、末梢血中に残存するリンパ球において調べられており、放射線による染色体異常をともなう遺伝子異常や自己免疫疾患をはじめとする免疫機能不全は、放射線によるリンパ球の異常や好中球などの造血系細胞の分化異常によっていると推定されている。　　近年、生体防御反応のネットワークのメディエーターとしてインターロイキン／サイトカインの関与が明らかにされ、細胞間の相互関係の解明は急速に発展した。紫外線などによる生体への影響は表皮細胞に直接影響を与え、サイトカイン等の因子の微小な変化を通じて免疫細胞に働きかけ生体防御機能を誘発するなど、紫外線によるサイトカインと免疫細胞への関与についての知見が得られてきている。サイトカインと免疫細胞の機能異常によって自己免疫疾患が誘発されると考えられており、その一つに好中球自己抗体ANCA関連自己免疫疾患が注目されている。その抗体の対応分子には、ライソゾーム酵素のMyeloperoxidase (MPO)が明らかにされている(原論文1ー6)。　　MPOを対応抗原とする自己免疫疾患の発症にはMPO分子の生体での存在様式が関与しているものと推定される。これまでに、MPO分子は不安定で熱により切断されることが示されている。われわれは、分子の切断および糖の結合が抗体との反応性に関与していることを示してきた(原論文7)。MPO分子の切断は、熱以外にもUVや放射線によってもおこることが推定されることから、放射線被爆による切断MPOおよびリンパ球の機能異常によって、MPO抗体(MPO-ANCA)が産生することが考えられる。　　放射線被曝に伴う白血球機能の異常の誘発と自己免疫疾患発症との関連が指摘されていることから(原論文8)、MPO分子構造の変化を指標にして検討するとともに、活性化好中球からのライソゾーム酵素MPOの放出に対する放射線被曝の影響およびMPOの分子構造の変化について検討することが重要な課題になっている。　　高線量の放射線照射によって好中球のMPO分子は、フラグメントになり活性の低下を招き、分解が早いと予想される結果が得られている。一方、3 Gy以下の照射ではむしろ分泌型として30 kDaフラグメントが産生され、細胞外に放出されることが認められている。これらのことから、MPOフラグメントは30 kDaとして分泌され、自己抗体産生に関与していることが予想される。一方、MPOの細胞外活性は10、30 Gyで高値を示しており、放出能の低下とは異なった（原論文9、図1）。図1　γ線照射による好中球から放出された MPO 活性（原論文9より引用）　コメント　　　　：　MPOの断片をリコンビナントとして作成し、エピトープを解明する技術として開発した点が優れている。また、放射線によるMPO断片化への作用を調べた点で新しい知見である。　原論文１ Data source 1： MPO-ANCA：好中球細胞質自己抗体好中球－機能低下と機能亢進－鈴木和男国立感染症研究所笹田昌孝編, 医薬ジャーナル社, pp.194-219, 1998. 原論文２ Data source 2：総説「好中球細胞質自己抗体(ANCA)と組織機能障害－MPO-ANCAを中心に」鈴木和男国立感染症研究所臨床疫学, 30, 358-369 (1998). 原論文３ Data source 3：総説「Ⅷ．免疫疾患 2. 好中球細胞質自己抗体－ANCA－鈴木和男国立感染症研究所中外医学社, 1997, pp. 266-278 (1997), Annual Review 1998. 原論文４ Data source 4： Serum myeloperoxidase and serum cytokines in a anti-myeloperoxidase antibody associated glomerulonephritis Y. Arimura, S. Minoshima, Y. Kamiya, K. Nakabayashi, K. Kitamoto, T. Nagasawa, T. Sasaki, and K. Suzuki 国立感染症研究所 Clin. Nephrol., 40, pp. 256-264 (1993). 原論文５ Data source 5： T. Saeki, T.Kuroda, T. Morita, K. Suzuki, M. Arakawa, and K. Kawasaki Significance of myeloperoxidase in rapidly progressive glomerulonephritis 国立感染症研究所 Am. J. Kidney Dis., 26, pp. 13-21 (1995). 原論文６ Data source 6： Tomizawa K., Mine E., Fuji A., Ohashi Y., Yamagoe S., Ishida-Okawara A., Hashimoto Y., Ito M., Tanokura M., Yamamoto T., Arimura Y., Nagasawa T., Mizuno S., and Suzuki K. A panel set for epitope analysis of myeloperoxidase(MPO)-specific anti-neutrophil cytoplasmic antibody MPO-ANCA using recombinant hexamer histidine-tagged MPO Deletion Mutants 国立感染症研究所 J. Clin. Immunol., 18, pp.142-152 (1998). 原論文７ Data source 7： Otani I., Ishida-Okawara A., Yamagoe S., Miyoshi-Koshio T., Arimura Y., Nagasawa T., Mizuno S., and Suzuki K. Myeloperoxidase(MPO) fragments reacting with a serum of patient with MPO-ANCA positive glomerulonephritis 国立感染症研究所 J. Infect. Chemother., 3, pp.164-169 (1997). 原論文８ Data source 8： Fujiwara S., Carter R.L., Akiyama M., Akahoshi M., Sasaki H., Yamada M., Neriishi K., Kusumi S., Kodama K., Shimooka K., and Yamakido M. Autoantibodies and immunoglobulins among atomic-bomb survivors 放射線影響研究所 RERF Tech. Rep., pp. 4-92 (1992). 原論文９ Data source 9：放射線被曝による自己免疫疾患の誘発：好中球ミエロパーオキシデースの分子構造の変化鈴木和男，大川原朋子，橋本ゆき，山越智，Niels Borregaad，水野左敏国立感染症研究所　生物活性物質部平成 9年度国立機関原子力試験研究成果報告書, pp.102-1～102-4, 平成 8年度～平成10年度 (1998). キーワード：ガンマ線、ミエロパーオキシデース(MPO)、好中球自己抗体(MPO-ANCA)、MPOの断片化、血管炎 gamma-ray、myeloperoxidase(MPO)、anti-neutrophil antibody(MPO-ANCA)、fragmentation of MPO、vasculitis 分類コード：150401
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