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作成: 1999/01/08 前川 秀彰

データ番号   :150008
レーザー走査顕微鏡を利用した蛍光標識プローブによる高感度動原体検出法の開発
目的      :高感度染色体動原体検出法
研究実施機関名 :国立感染症研究所 (旧国立予防衛生研究所)
応用分野    :放射線生物学、細胞生物学、分子遺伝学

概要      :
 放射線誘発染色体異常を的確に認識し自動的に計数するシステムを作ることは、被曝線量を推定する際に非常に有用なものとなる。ヒト染色体のセントロメア近傍に存在するアルファサテライトDNAのコンセンサス配列をプローブとした分子交雑蛍光法(Fluorescence in situ hybridization , FISH)により、セントロメア部位を蛍光で染色した。3CCDカメラに比較して、レーザー走査顕微鏡を用いることにより二動原体の識別及び多型性の検出が確実にできることを示した。これによりこの方法での自動化ができる可能性がでてきた。
 

詳細説明    :
 放射線照射により引き起こされる放射線誘発染色体異常は主として、染色体が断裂したことにより起こる無動原体染色体、断裂を起こしたあと他の染色体と融合することにより生じる二動原体(多動原体)染色体、及一本の染色体が自分自信で融合して生じる環状染色体と言う形で知られている。放射線被曝試料からこれらの染色体異常を計数することにより、その試料が受けた放射線量を推定することが可能であり、これらの染色体異常を的確に認識し自動的に計数するシステムを作ることは、被曝線量を推定する際に非常に有用なものとなる。
 
 FISHによる結果を蛍光デジタルイメージ顕微鏡を用いて観察し、蛍光画像処理並びに、相対的蛍光量を算出することにより、各染色体の大きさ(面積)、各染色体のDNA含量及その染色体上のDNAプローブ量を得ることができた。それらの値を二次元プロットすることによりプローブの特性に依存する特定の分布域を設定することができた。しかしながら、二動原体(多動原体)染色体の解析については、各染色体上のセントロメアにおけるアルファサテライトDNAの量的な分布が相対量として1〜4%と広くなっているために、二動原体染色体ではあっても、そのうえにのっているプローブの量は正常の分布範囲の中に入ってしまう場合があり、各染色体上のDNAプローブの相対量のみによる二動原体染色体の識別は適当ではないことがわかった。
 
 これまでの検討により、ここではFISHを利用した染色体異常の判断を、定量的な考え方に基づいて行うシステムが適当であると考えられる。本研究において顕微蛍光測光のハードウエアとしてhigh gain 3CCDカメラを用いて検討を行ってきた。顕微蛍光測光による蛍光の定量的測定による染色体異常の識別には、使用するハードウエアの定量的測光能力がもっとも大きく影響を与えることになる。より正確な顕微蛍光測光を行うことは、本研究における染色体異常の自動認識にとって重要な問題であり、その基本部分をなすものである。
 
 次に、再度この蛍光測光システムの測定能力を、フローサイトメトリーによる染色体分析すなわちフローカリオタイピングのデータとの比較により検討を行った。その結果、CCDによる蛍光量の測定としては、フローサイトメーターによる個々の染色体の蛍光量の測定よりもその分散係数の値がかなり大きい、すなわち蛍光量におけるばらつきの度合が大きいことが明らかとなった。そのため、この蛍光量の測定における分散係数を最小限に抑えることが、蛍光測光のハードウエアにおいてもっとも重要な問題である。この点を考慮して、レーザー走査顕微鏡により染色体の基本的な蛍光画像を測定し(図1)、現在使用している画像解析ソフトウエアにより分析検討を行った。その結果、レーザー走査顕微鏡(LSM)は顕微蛍光測定装置としてCCDカメラと比較して格段に優れた定量性を持つことが明らかとなった。


図1 PrInSによるセントロメア(動原体)の検出。(原論文1より引用)

 さらに、LSMの定量性と検出感度の高さを利用して、今までなら検出することに多大の困難を伴ったPrInS(Primer extension In Situ)法によるダイレクトラベルによる検出を試み、染色体間でバラツキの無い値が得られ、さらに相同染色体間の多型性についても明瞭に検出が可能であることを証明した(図2)。


図2 セントロメア上のプローブ蛍光量と染色体面積との相関。図中のそれぞれの番号は、染色体番号を、後ろのa、bは相同染色体を示す。(原論文1より引用)

 動原体による染色体多型性の検出ができることが可能となったことにより異常検出システムが方法として利用できることとなった。
 

コメント    :
 セントロメア部位とより均一にハイブリダイズさせるために、キネトコア特異的配列と考えられるCENP-B boxに着目し、CENP-B boxを二分するような形PCR (Polymerase Chain Reaction)法によるCENP-B box間の配列の増幅を行い、増幅してきたDNAをプローブとして用いることにより、より均一な状態でのセントロメア部位の検出を試みた。しかしながら、CENP-B boxをプライマーとしたPCRによる増幅で得たプローブに関しても、各染色対上のプローブDNA量の偏差に関しては、そのばらつきを1/5程度しか減少させることができなかった。
 
 別にアルファサテライトDNAをプローブとしたFISHの結果を画像処理を行う場合の手助けとして、すなわちセントロメア部位のマーカーとしてのみ用いて、画像処理による判断で二動原体染色体などの染色体異常を検出していくプログラムを作成した。しかしながら、この方法では結果として通常染色による染色体像の画像認識と比較して、セントロメアの認識についてのみ計算が軽減されるだけで、その後の異常であるか否かの判断に相当量の計算を必要とすることになってしまい、異常の検出速度の点からは改善が期待できないことがわかった。3CCDカメラによる以上の結果と問題点を踏まえてより感度の高い装置としてレーザー走査顕微鏡を選択した。また方法としてPrimer extension in situ (PrInS)法を用いることにより検出感度がより増大した。
 

原論文1 Data source 1:
検出の効率化と有効プローブ及びプライマーの開発とその検出技術の開発
亀岡洋祐、平田 誠、土田耕三、橋戸和夫、高田直子、前川秀彰
国立感染症研究所(旧国立予防衛生研究所)
原子力工業、42、28-32(1996).

原論文2 Data source 2:
細胞周期及び分裂誘起剤に対する反応性の個体差並びに蛍光検出法の利用に関する研究
亀岡洋祐、平田 誠、土田耕三、橋戸和夫、高田直子、前川秀彰
国立感染症研究所(旧国立予防衛生研究所)
原子力平和利用報告書平成5年度版、56ー59(1993).

参考資料1 Reference 1:
Application of synthetic DNA probes of human alpha satellite consensus monomer for detection of centromere-involved chromosome abnormalities
Kameoka, Y., Date, T. and Hashimoto, K.
National Institute of Infectious Diseases (old name; National Institute of Health)
Jpn. J. Human Genet. 35: 227-233 (1990).

参考資料2 Reference 2:
A quantitative analysis of radiation-induced chromosome aberrations with a fluorescent digital image microscope
Kameoka, Y., Hirata, M., Goto, E., Deng, L.-R., Maekawa, H. and Hashimoto, K.
National Institute of Infectious Diseases (old name; National Institute of Health)
J. Radiat. Res., 33:suppl., 71-79 (1992).

参考資料3 Reference 3:
FISH法による染色体異常の解析
亀岡 洋祐、前川 秀彰、橋本 雄之
国立感染症研究所(旧国立予防衛生研究所)
組織培養、17、483-487(1991).

キーワード:染色体、分子交雑蛍光法、動原体、アルフォイド配列、CCDカメラ、PrInS、レーザー走査顕微鏡
Chromosome, FISH (fluorescence in situ hybridization), centoromere, alphoid sequence, CCD camera, Primer extension in situ, LSM
分類コード:150101, 150102, 150201

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