放射線による染色体異常の自動解析システムの開発研究

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作成： 1997/11/25 早田　勇データ番号　　　：150001 放射線による染色体異常の自動解析システムの開発研究目的　　　　　　：放射線による染色体異常の自動分析用改良標本作製法と2動原体自動検出システムの開発研究実施機関名　：放射線医学総合研究所応用分野　　　　：放射線被曝線量推定、ガン治療線量モニタリング、先天性異常の診断概要　　　　　　：　従来専門家の経験と勘に頼っていた染色体標本作成の手順を、一定数の分離したリンパ球を遠心管で培養するという方式で手法のデジタル化と回収率の向上化に成功し、単純なロボットでも処理できる方法を開発した。全自動顕微鏡を開発し、スライドグラスを顕微鏡に自動装着する時点から2動原体の自動検出と集計までを実行できる全自動2動原体検出システムを開発試作した。　詳細説明　　　　：　リンパ球の培養とハーベスト法の改良と自動化：末梢血からリンパ球を分離して一定数( 3x10⁶細胞／6ml )を培養用遠心管で培養するという方式で培養後のハーベスト作業が画一的に出来、上質なサンプルが得られるリンパ球2日培養法を確立した。(表1) 表1　分離リンパ球2日間培養染色体標本作製法 ----------------------------------------------------------------------------------------------- 1) へパリン採血した血液10mlから遠心分離法でリンパ球（単核細胞）を分離する。 2) 分離リンパ球500万細胞を総量6mlの加温した培養液(血清20％、カナマイシン60μg／ml、　　PHA120μlを含むRPMI1640）に入れ攪拌する。 3) 横置きにした15mlの遠心管に入れて37℃で24時間培養する。 4) コルセミドを最終濃度が0.05μg／mlとなる量加え、さらに24時間培養を続ける。　（コルセミドは0.04μg／mlの濃度で最初から添加しても良い。） 5) 培養細胞を遠心回収(310G、5分)し、37℃に温めた0.075ＭのKCl液2mlに入れ、良く攪拌し20分間置く。 6) 酢酸メタノール（1:3）を30μl加え攪拌する。 7) 細胞を遠心回収し、酢酸メタノール2mlに入れ攪拌して単離細胞状態にする。 8) 細胞を遠心回収し、酢酸メタノールを交換する。 9) マイナス20℃以下で一晩以上保存する。 10）保存細胞を遠心回収し、酢酸メタノール0.5-1.0mlに入れ、攪拌して単離細胞状態にする。 11) 良く洗浄したスライドグラスを30-33℃に温めて、その上に固定細胞液を13μl滴下し、　　高温多湿下(30-33℃、70-90％)で静かに乾燥させる。 12) ギムザ液などで染色する。 ----------------------------------------------------------------------------------------------- 　このサンプルは高濃度でも容易に良く展開し、分析可能な分裂中期細胞が従来の標本の10倍以上( スライドグラス1枚当たり2000細胞以上 )多くみられる染色体標本が初心者にも簡単に出来る。この改良法を元に、リンパ球の培養ハーベストロボットシステムが開発できる。　　染色体標本の不要バックグラウンド染色性物質の除去法の開発：染色体のまわり(細胞質)が染まり、染色体像がはっきりしなくなる現象は、30年以上も前から染色体研究者を悩ますやっかいな問題とされていたが、この細胞質由来染色性物質はRNA分解酵素で除去できる。(表2) 表2　RNA分解酵素処理による細胞質由来染色物質の除去法 ---------------------------------------------------------------------------------------- 1)染色したスライド標本は脱染色後、未染色スライド標本はそのまま37℃の蒸留水に2分間入れる。 2)RNA分解酵素液（0.5mM、pH7.4、Tris-HCl緩衝液と5μMのEDTA混液中にRNAseＡを0.5mg／ml含む）で37℃、　15分間処理する。 3)水道水で良く洗った後、蒸留水で濯ぐ。 4)酢酸メタノールに入れる。 5)乾燥後ギムザ液などで染色する。 ---------------------------------------------------------------------------------------- 　この方法で標本を処理すると、染色体像がはっきりするため分析精度が向上する。また、染色体自動解析システムの画像処理プログラムのワークロードを軽減させることができ、ターゲットとなる染色体の認識の誤認率を下げることができる。　　高性能全自動顕微鏡の開発：従来の自動顕微鏡は、レンズの交換、ズーミング、光量の調節、対物レンズの上下、ステージの移動、などをコンピュータ制御できる機能を持つが、我々が開発したものは従来には無い以下の3機能を備えている。①スライドグラスの交換(300枚まで)、②機械的自動焦点合わせ(赤外線反射方式でリアルタイム)、③レンズオイルの自動供給　　放射線による染色体異常の自動検出システム、NIRS-1000 KINETOSCORERの開発(図1)：放射線によって動原体と呼ばれるくびれが、2ヶ所(複数ヶ所)ある異常染色体が誘発される。この異常の計数により被曝線量が推定できる。NIRS-1000 KINETOSCORERは被曝線量を推定するために、動原体を複数ヶ所に持った異常染色体を自動検出するシステムであり、高性能全自動顕微鏡、高精細画像入力システム、高速画像処理システム、ワークステーション、大容量記憶装置、機械制御用コンピュータ、プリンター、および各種ソフトウェアより構成されている。図1　Diagram of Automated Dicentric Scoring System: NIRS-1000 KINETOSCORER（原論文7より引用）　高性能全自動顕微鏡以外のハードウェアは市販品であるが、装置の制御、画像入力、画像認識、などのソフトウェアはすべて独自に開発した。ハイビジョンのモノクロ画像入力システムでハイビジョン画像の中心部のみ( 1024×1024画素、256グレイレベル )をTVカメラ( ニコン )で撮像し使う。100倍対物レンズとズーム( 0.9×～2.3× )レンズ使用時の分解能限界は、0.06-0.14ミクロンで顕微鏡の分解能の限界までモニターに表示できる。この高精細画像はパイプライン方式の高速画像処理装置( Series 151, Imaging Technology社 )とワークステーション( SPARC station 2, Sun Microsystem社 )で処理する。　　大容量記憶装置は40ギガバイトのディスクストレージと5ギガバイトのテープストリーマを持つ。ソフトウェアはシステムの制御、分裂中期細胞の検出と低倍率像での格付け選択( メタフェースファインダー )、高倍率染色体画像の中心位置微調整と入力、個々の染色体の切り出し、高倍率像での細胞の格付け選択、動原体部の認識と異常染色体の選別、異常の正否のレビュー、結果の集計、および操作を簡単にするためのグラフィカル・ユーザ・インターフェースから成る。　　NIRS-1000 KINETOSCORERの試行試験：末梢血リンパ球にX線を照射し、我々の確立した方法で作製した染色体標本を使いテスト運転した。自動システムが選び出した2動原体候補の中から、ヒトが2動原体を選び出す方法で2動原体の頻度の線量効果関係を調べた。選別基準を甘くして分析できる分裂細胞を選別した場合、2動原体の検出率はこの装置を使わずに分析した場合の約50%であったが、その選別基準を厳しくした場合には分析細胞数は少なくなったが完全目視分析と同様の結果が得られた。本システムを用いると、ヒトの作業量と作業時間は共に10%以下になり大幅に減少する。　コメント　　　　：　染色体の自動認識は生物画像の自動認識研究の課題中で最も古い歴史を持つが、染色体標本の質が細胞、標本作製法、作製技術者などの違いにより非常に異なるものであるため、染色体技術者に交代できるレベルに達した自動システムはまだ開発されていない。染色体標本をいかにしてコンピュータが認識し易い良質で均一なものにできるかが、自動認識システム導入の成否の決定要因となっている。　原論文１ Data source 1： A HIGH RESOLUTION CHROMOSOME IMAGE PROCESSOR FOR STUDY PURPOSES, NIRS-1000 : CHROMO STUDY, AND ALGORITHM DEVELOPING TO CLASSIFY RADIATION INDUCED ABERRATIONS. Mikio Yamamoto, Isamu Hayata, and Shinichi Furuta National Institute of Radiological Sciences, 4-9-1, Anagawa, Inage-ku, Chiba-shi, Japan 263 J. Radiat. Res. 33, Suppl., 129-151(1992) 原論文２ Data source 2： ROBOT SYSTEM FOR PREPARING LYMPHOCYTE CHROMOSOME. Isamu Hayata, Hiroyoshi Tabuti, Akira Furukawa, Nobuo Okabe, Mikio Yamamoto, and Koki Sato National Institute of Radiological Sciences, 4-9-1, Anagawa, Inage-ku, Chiba-shi, Japan 263 J. Radiat. Res. 33, Suppl., 231-241(1992) 原論文３ Data source 3： REMOVAL OF STAINABLE CYTOPLASMIC SUBSTANCES FROM CYTOGENETIC SLIDE PREPARATIONS. Isamu Hayata National Institute of Radiological Sciences, 4-9-1, Anagawa, Inage-ku, Chiba-shi, Japan 263 Biotechnic & Histochemistry, 68(3), 150(1993). 原論文４ Data source 4：画像解析早田　勇放射線医学総合研究所〒263-0024千葉市稲毛区穴川4-9-1 日本生化学会編新生化学実験講座20 機器分析概論, p.325(1993) 原論文５ Data source 5：放射線誘発染色体異常分析法の精度の改善および自動化のための生物学的研究、および放射線による染色体異常の高速自動解析システムに関する工学的研究早田　勇、山本　幹男、古川　章、佐藤　弘毅、野原　功全、古田　伸一、岡部　信夫、塩育、田淵　博義、小沢　重博、岡野　哲郎、西川　慶一放射線医学総合研究所〒263-0024千葉市稲毛区穴川4-9-1、ニコン、ニコンエンジニアリング、梅谷精機、サワ工業、北里大学、東京歯科大学原子力基盤技術総合的研究(クロスオーバー研究)：放射線リスク評価・低減化「放射線による染色体異常の高速自動解析システムに関する研究」最終報告書, p.13(1994) 原論文６ Data source 6：放射線誘発染色体異常分析法の精度の改善および自動システム化の研究早田　勇放射線医学総合研究所〒263-0024千葉市稲毛区穴川4-9-1 原子力工業, 42(7), 17(1996) 原論文７ Data source 7：染色体異常解析の自動化古川　章、早田　勇、山本　幹男、古田　伸一、角田　みすず、岡部　信夫放射線医学総合研究所　〒263-0024千葉市稲毛区穴川4-9-1、ニコン Cytometry Research, 7(1), 1(1997) キーワード：染色体標本、2動原体、画像解析、自動システム、染色体分析、放射線誘発染色体異常、リンパ球培養 chromosome preparation, dicentrics, image analysis, automated system, chromosome analysis, radiation induced chromosome aberration, lymphocyte culture 分類コード：150201, 150202, 150203
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