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作成: 2000/02/14 粟津 邦男

データ番号   :140034
自由電子レーザ研究所の概要
目的      :自由電子レーザ利用施設紹介
研究実施機関名 :自由電子レーザ研究所・機能材料研究グループ
応用分野    :同位体分離、超高速光変調、低温アニーリング、コレステロール分解、歯表面改質

概要      :
 当研究所のFELは、熱陰極型の電子入射器から発生した電子ビーム(Max:165MeV)を発振波長帯域により、7本の加速管と4台のアンジュレータを選択して使用する。 波長にして40μm〜0.28μm の広範囲での発振が可能であり、平均出力は波長帯域によって異なるが約30mW程度。応用研究として、主に中赤外域(5〜13μm)で、同位体分離、半導体、医療バイオ分野等での基礎研究が進められている。
 

詳細説明    :
1、はじめに 
 当所におけるFEL装置は1994年10月初発振に成功した後、'95年2月近赤外、'95年12月可視・紫外域と、仕様の異なる3台のHalbach型アンジュレータによってそれぞれ発振に成功した後、'96年10月には遠赤外域と長波長領域に発振波長範囲を広げている。それに並行しFELを用いた利用実験も、既存のレーザでは出し得なかった赤外域の波長を活かした医療バイオ関連から、波長可変性を活かした半導体応用分野におけるプロセス、デバイス、分析技術の開発や同位体分離の開発まで多岐にわたって進められている。


図1 FEL装置の主要部である電子加速器、アンジュレータ、ミラー、電子ビーム、光パルス等の配列



図2 FEL研の165MeV電子リニアック、電子ビーム輸送系、光伝送系、利用実験室の鳥瞰図

 
2、FEL装置
 FEL の基本構成を 図 1 に示す。図 2 に当所の装置配置図を示す。熱陰極型の電子入射器から発生した電子ビームは、発振波長帯域により、7 本の加速管と 4 台のアンジュレータを選択して使用する構成である。
 
2、1 電子線形加速器(電子リニアック)
 相対論的な速度を持つ電子ビームを作り出す電子リニアックは、主に電子入射器、RF形、BT形に分けられる。
 
 電子入射器は電子ビームを発生させるところであり、電子銃、サブハーモニックバンチャー、バンチャー、加速管、フォーカスコイル等で構成されている。電子銃は 3 極管の構造をとっている。
陰極を熱して発生し、22.3125 MHz, 24 s, 10 pps のグリッドパルスによって切り出された電子ビームは約120 keV まで加速される。714 MHz のリエントラント型加速空洞であるサブハーモニックバンチャーを通過する際速度変調を受けた電子ビームはバンチャーまで伝搬する間に、500 ps から数 10 ps まで集群(バンチ)し、さらに 2,856 MHz の RF バンチャーでバンチングされながら数MeVまで加速する。2856 MHz の加速管では一段あたり 25 MeV 加速でき、当所では 7 本設置して有り、必要な電子ビームエネルギーまで加速したところで分岐する。
 
2、2 アンジュレータ
 アンジュレータは、磁石の配列を Halbach 型と呼ぶ永久磁石 4つ(左右で 8つ)で 1 周期を形成する構造がいく段にも繋がった、周期磁場発生装置である。電子ビームはこの周期磁場のほぼ中心軸を通過し、ここで受けるローレンツ力により振動し、電子の速度がほぼ光速に近いためシンクロトロン放射を行う。よって FEL のパルス列は電子ビームのミクロパルス列に依存した出力となる。アンジュレータギャップはモータ駆動で可変であり、中心磁場強度もそれに伴い変化する。
 
2、3 光学系
 光共振機は安定型共振器構成を採り、ある電子ビームミクロバンチからの自発放射光が一往復した後、次の電子ビームミクロバンチと相互作用するように共振器長が調整してある。(22.3125 MHz の場合 6.723 m)。赤外域用光共振器では金コートミラーのホールカップリングを、可視・紫外用光共振器では誘電体多層膜ミラーを用いている。但しこの場合、共振器内に光を多く蓄積可能な高反射率の帯域が狭いため回転式ミラーホルダで発振波長に応じ切り換えられる。
 
3、運転調整
 各機器は制御室から遠隔で操作できる。また、計測器類の観測も可能である。運転において時間を要するのは電子リニアックの調整である。電子をうまく RF の位相に乗せ加速し、途中で損失させることなくアンジュレータまで伝搬させ、アンジュレータ内で FEL 光と相互作用させるよう収束させる。電子ビームの軌道、プロファイル、エネルギ広がりが調整され、かつ光共振器の対向が合っていれば最終的に共振器長の調整を行っていく内にある瞬間から FEL は爆発的に発振を始める。1997年の発振実績を 図 3 に示す。


図3 1997年におけるFEL照射状況

 

コメント    :
 赤外自由電子レーザの医療・バイオへの利用、真空紫外域での安定な発振と材料プロセスへの利用など,既存レーザと異なる波長帯域でのFELの産業利用への研究は今後益々重要となる。
 

原論文1 Data source 1:
UV-FIR FEL Facilities and Application Research at FELI
T. Tomimasu, T. Takii, S. Nishimura, and K. Awazu
Free Electron Laser Research Institute
Towards X-ray Free Electron Lasers, edited by R. Bonifacio and W.A. Barletta 1997 The American Institute of Physics、pp127-141 (1997)

原論文2 Data source 2:
自由電子レーザとその応用
冨増 多喜夫
自由電子レーザ研究所
計測と制御、Vol. 35, No. 12, pp957-965 (1996)

キーワード:自由電子レーザ,Free Electron Laser,線形加速器,linear accelerator,電子ビーム,electron beam,アンジュレータ,undulator,波長可変性,wavelength tunability,2 重パルス構造,double pulse structure,利用研究施設,user's facility,マニュピュレータ,manipulater,超短パルス,ultra short pulse,光共振器,optical cavity
分類コード:140101, 140106, 140301

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