短波長蓄積リング自由電子レーザー用6.3-m光クライストロン--ETLOK-II

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作成： 2000/3/17 山崎鉄夫データ番号　　　：140032 短波長蓄積リング自由電子レーザー用6.3-m光クライストロン--ETLOK-II 目的　　　　　　：蓄積リングにおける自由電子レーザーの短波長化のための,長尺でゲインの高い光クライストロンの研究・開発研究実施機関名　：電子技術総合研究所量子放射部応用分野　　　　：同位体分離,物性研究,新材料創製,生物学,医療概要　　　　　　：　電子技術総合研究所では,蓄積リングNIJI-IVにおいて短波長領域の自由電子レーザーの研究を進めているが,ゲインを高めるために,6.3 mの光クライストロンを設計・試作し,1992年に完成させ,その後これを用いて可視,紫外,遠紫外領域での自由電子レーザーの発振に成功した。この光クライストロンは,現在でも世界最大周期数のものである。　詳細説明　　　　：　光クライストロン(optical klystron, OK)とは,図1のように通常のアンジュレータ2個の中央に,3極ウィグラに似た構造で強磁場のエネルギー分散部を設けた構造のものである。OKでは,最初のアンジュレータにおいて電磁波との相互作用によって電子ビームにエネルギー変調を引き起し,中央のエネルギー分散部においてそのエネルギー変調を位置的な変調に変換する,即ち電磁波のある位相でのマイクロ・バンチング(集群化)を強めることによって,最後のアンジュレータにおいてコヒーレントで強力な自由電子レーザー(free electron laser, FEL)を放射する。蓄積リングのようにアンジュレータの長さに制限がある場合にも高いゲインが得られることがOKの特徴である。図1　 Structure of the 6.3-m optical klystron, ETLOK-II.（原論文1より引用。　Reproduced from Nuclear Instruments and Methods in Physics Research A 1992; 318:142-147, Figure 1(p.142), T.Yamazaki, K.Yamada, S.Sugiyama, H.Ohgaki, T.Tomimasu, and M.Kawai, Design of a 6.3-m optical klystron for a storage-ring ultraviolet free-electron laser, Copyright(1992), with permission from Elsevier Science.）　電総研では蓄積リングTERASにおいて1991年に国内初の可視域FELの発振に成功した(要素データ140003参照)後,小型ではあるがOK用に7.25 mの長直線部を有する世界初のFEL専用レーストラック型蓄積リングNIJI-IV(要素データ140004参照)を建設・完成させた。6.3 mのOK,ETLOK-IIの構造は図1の通りであり,各磁石ブロックの矢印は,磁化の方向を示し,座標系は以下で使用するものである。通常アンジュレータ部は全永久磁石Halbach型であり,磁場周期72 mm,周期は42と非常に多い。ギャップは,各アンジュレータ部,分散部各々独立に,あるいは同時にステッピング・モータによって変化させることが可能である。各部の両端部の磁石ブロックは,手動ではあるが独立にギャップを変化させることが可能であり,電子軌道に歪みがある場合に微調整する。　　図2(a)はこのOKの中でのy方向の磁場分布の例,(b)はその磁場の中を240 MeVの電子が通過した場合のx方向速度,(c)は電子の軌道を示している。電子は図のように分散部で大きく迂回する。このOKを使用した場合のFELゲインは,設計時の計算によれば,リングの中の電子ビーム電流がバンチ当り1 mA,相対的エネルギー広がりが0.075 %の場合,600 nmのFELで約6 %,200 nmでは約1 %と推定された。但し,ここでは電子ビームと光ビームの完全な重畳を仮定しているので,実際には重畳因子(<1)を考慮する必要がある。図2　 (a) magnetic field distribution By along the centerline, (b) transverse electron velocity ?x, and (c) electron orbit in the ETLOK-II.（原論文1より引用。　Reproduced from Nuclear Instruments and Methods in Physics Research A 1992; 318:142-147, Figure 2(p.143), T.Yamazaki, K.Yamada, S.Sugiyama, H.Ohgaki, T.Tomimasu, and M.Kawai, Design of a 6.3-m optical klystron for a storage-ring ultraviolet free-electron laser, Copyright(1992), with permission from Elsevier Science.）　小型リングに長尺のOKを設置した場合,OK中での電子の斜入射,斜出射による収束力によってリングの運転条件が大幅に変化するので補正が必要である。OKが存在しても電子入射,蓄積等が可能であることも計算機シミュレーションによって確認した。OKの間には,上下幅34mm,長さ約6.5 mのステンレス鋼の真空槽が設置されているが,真空コンダクタンスが悪いので2台のスパッタ・イオンポンプを使用している。長尺のため,ベーキング時の膨張に対してはベローズと滑り機構によって備え,垂れ下がりは要所に置いた上下に張った細いワイアの張力を変化させることによって随時調整可能である。　　このOKによって得られるFELゲインと,同じ長さの通常のアンジュレータによるゲインの比をプロットしたものが図3である。横軸Ndは,OKの分散部の中を電子が通過する間に光に追越される距離を光の波長単位で表したものであり,電子が図2(c)のように大きく迂回することから,分散部における磁場強度が大きいほどこの値は大きくなる。電子ビームが単色であればNdが大きいほどバンチングが進んでゲインが高くなるが,実際には電子のエネルギー幅が有限であるために,図に示したようにOKの有利さはエネルギー幅によって変化する。図中のシンボルは実験結果から得られたデータを示すが,これから逆に電子ビームの相対的エネルギー幅が5×10-4程度であることがわかる。ETLOK-IIは長尺であるにもかかわらず,通常のアンジュレータの2倍以上のゲインが得られる。この実験の後,電子ビームの質が向上したので,現在ではOKのゲインも更に向上している。図3　 Ratio of the gain of the ETLOK-II to a normal undulator with 2N periods vs. slippage number Nd.（原論文3より引用。　Reproduced from Nuclear Instruments and Methods in Physics Research A 1995; 358:353-357, Figure 3(p.355), T.Yamazaki, K.Yamada, N.Sei, H.Ohgaki, S.Sugiyama, T.Mikado, R.Suzuki et al., Lasing in the ultraviolet region with the NIJI-Ⅳ storage-ring free-electron laser, Copyright(1995), with permission from Elsevier Science. ）　電総研では蓄積リングNIJI-IVにこのETLOK-IIを設置して,1992年に可視域,1994年に紫外域である350 nm,1998年に遠紫外域でのFELの発振に成功し,1998年10月には当時世界最短波長である212 nmでの発振に成功し(要素データ140002参照),真空紫外域である200 nm以下でのFEL発振の可能性が高まり,1999年8月に米国Duke大学において194 nmでの発振に成功した。　コメント　　　　：　光クライストロンは電子ビームの質が高い蓄積リングFELにおいては格別有効であるが,電子ビームの質に非常に敏感であるため,今後FELの短波長化・高品質化を進めるためには,更に電子ビームの質を向上させる必要がある。また,光クライストロンそのものに関しても,エネルギー分散部を2個設ける等の改良が考えられる。偏光可変型も今後のひとつの方向であろう。　原論文１ Data source 1： Design of a 6.3-m optical klystron for a storage-ring ultraviolet free-electron Laser T. Yamazaki, K. Yamada, S. Sugiyama, H. Ohgaki, T. Tomimasu, and M. Kawai* Electrotechnical Laboratory, * Kawasaki Heavy Industries, Ltd. Nuclear Instruments & Methods in Physics Research, A318 (1992) pp.142-147 原論文２ Data source 2： A Compact Storage Ring NIJI-IV Dedicated to Free Electron Lasers T. Yamazaki, K. Yamada, N. Sei, H. Ohgaki, S. Sugiyama, T. Mikado, R. Suzuki, T. Noguchi, M. Chiwaki, M. Kawai*, M. Yokoyama*, S. Hamada*, A. Iwata*, and S. Nakagawa* Electrotechnical Laboratory, * Kawasaki Heavy Industries, Ltd. Synchrotron Radiation Facilities in Asia, Proceedings of the Asian Forum on Synchrotron Radiation (Ionics, Tokyo) (1994) pp.189-201. 原論文３ Data source 3： Lasing in the ultraviolet region with the NIJI-IV storage-ring free-electron laser T. Yamazaki, K. Yamada, N. Sei, H. Ohgaki, S. Sugiyama, T. Mikado, R. Suzuki, T. Noguchi, M. Chiwaki, T. Ohdaira, M. Kawai*, M. Yokoyama*, S. Hamada*, and A. Iwata* Electrotechnical Laboratory, * Kawasaki Heavy Industries, Ltd. Nuclear Instruments & Methods in Physics Research, A358 (1995) pp.353-357. キーワード：自由電子レーザー,電子加速器,アンジュレータ,光クライストロン,高品質電子ビーム free-electron laser, electron accelerator, undulator, optical klystron, high-quality electron beam 分類コード：140101, 140103
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