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作成: 1999/11/16 永井 良治

データ番号   :140031
遠赤外FEL用光共振器における外部出力の評価
目的      :遠赤外FEL用光共振器の開発、製作、及び評価
研究実施機関名 :日本原子力研究所
応用分野    :自由電子レーザー

概要      :
 一般的な遠赤外線領域の自由電子レーザー(Free-Electron Laser, FEL)では光共振器を用いてレーザー発振を行っている。FEL光を光共振器の外部へ出力するための結合方法を含めた光共振器の性能は FEL装置の効率および FEL光の質を大きく左右するので光共振器の詳細な設計は高効率 FEL施設建設の上で必要不可欠なことである。ここでは、代表的な 2通りの光共振器の外部出力結合に関する評価について紹介する。
 

詳細説明    :
 自由電子レーザー(Free-Electron Laser, FEL)における光共振器は通常 2枚のミラーによって構成されるファブリ・ペロー型の共振器であり、光を蓄積し電子ビームと複数回相互作用させレーザー発振させるために用いられる。FELでの実効的ゲインは電子ビームと光の相互作用から決まるゲインから光共振器での損失を差し引いたものになるので、ミラーでの反射損失、光共振器内の回折損失の少ないことが求められる。遠赤外線領域 FELでは効率の良い部分結合ミラーがないので、光共振器から外部出力は通常光共振器中の光の一部分を切り取って外部に出力する方法がとられる。このための回折により光共振器内の回折損失が増加してしまう。このような光共振器内の回折損失の増加は FEL装置全体の出力・効率を著しく低下させてしまうので、FEL光を光共振器の外部へ出力するための結合方法を含めた光共振器の詳細な評価・設計は高出力・高効率 FEL施設建設の上で必要不可欠なことである。
 
 一般的に FEL用光共振器は共振器長が長くアンジュレータ・ダクト部分のアパーチャが狭いという特徴をもっている。FEL用光共振器ではこのアンジュレータ・ダクト部分での光の回折損失を最小にし、かつゲインを大きくするために電子ビームとの相互作用体積をできるだけ少なくするようなパラメータが選ばれる。
 
 ここでは、日本原子力研究所の遠赤外超伝導 FEL(原研 FEL)で用いられている光共振器でセンターホール結合とリングミラー結合の 2 種類の外部出力結合で光を外部に出力した際の回折損失に関しての評価について紹介する。センターホール結合は出力側ミラーの中心に穴をあけて光の中心部分を取り出す方法、リングミラー結合は出力側ミラーの直前にリング状ミラーを置き光の外輪部分を取り出す方法である。光共振器の構成を 図 1 に、各パラメータを 表 1 にそれぞれ示す。原研 FELでは光共振器長 14.4 m に対してレイリー長 1 m の近共中心型の光共振器となっている。


図1 原研 FEL光共振器の構成(原論文1より引用)


表1 原研 FEL光共振器のパラメータ(原論文1より引用)
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Length of the resonator                                 14.4 m
Mirror radius                                           60 mm
Courverture of the mirror                               7.34 m
Undurator duct length                                   2 m
Aperture of the undulator duct                          15×56 mm
Aperture of upstream bending duct                       45.5×35.5 mm
Aperture of downstream bending duct                     35.5×45.5 mm
Distance of the undulator aperture to 
upstream bending aperture                               1.11 m
Distance of the undulator aperture to 
downstream bending aperture                             1.25 m
Distance of the bending aperture to upstream mirror     5.09 m
Distance of the bending aperture to downstream mirror   4.95 m
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 ここでは光の波長は 30ミクロンとし、2 枚のミラーとアンジュレータ・ダクト両端、電子ビームの偏向電磁石ダクトの外側 2ヵ所の 4ヶ所のアパーチャを考慮に入れている。光の出力に関しては出力側ミラーにおいてセンターホールまたはリングミラーに相当する部分に当たった光が外部に取り出されるものとした。このような条件のもとで Fox-Li の手法により光共振器の固有モードを数値的に解き、光共振器の回折損失と外部出力を算出した。ただしミラーの損失はないものとしている。この結果をまとめて全損失 (回折損失+外部出力) にたいする外部出力効率 (外部出力/全損失) をグラフにしたものを 図 2 に示す。


図2 全損失に対する外部出力効率の変化(原論文1より引用)

 この結果から数パーセントの損失のときにはセンターホール結合で 50 % 程度の取出し効率であることがわかる。このように遠赤外領域での FELでは光の外部出力結合による回折損失の増加は無視できる量ではないので、このことを十分に加味した上で FEL 装置の設計を行う必要がある。
 
 以上のように、Fox-Li の手法により光共振器の固有モードを数値的に解くことにより、外部出力のある光共振器の回折損失について数値的な評価を行うことができ、このような方法による光共振器の評価は、高出力・高効率 FEL 施設建設の際に非常に有用であるといえる。
 

コメント    :
 ここで、紹介した光共振器の評価法は光共振器単体での固有モードから光共振器の性能を評価するものであり、電子ビームとの相互作用によって光共振器の固有モードが大きく変わらないことを前提としている。即ち、電子ビームとの相互作用による光の増幅率が著しく大きい場合には電子ビームも含めた形で光共振器の固有モードを導かなければならない。 また、遠赤外領域FELでの外部出力は 50 % 程度であるので、このような光共振器の評価を通じて効率の良い結合方法を探ることにより FEL 装置全体の効率の向上に寄与することが望まれる。
 

原論文1 Data source 1:
EVALUATION OF OPTICAL RESONATOR FOR THE JAERI FAR-INFRARED FREE ELECTRON LASER
R. Nagai, M. Sawamura, R. Hajima, N. Kikuzawa, N. Nishimori, T. Shizuma and E. Minehara
Free-Electron Laser Laboratory, Advanced Photon Research Center, Japan Atomic Energy Research Institute, 2-4 Shirakata-Shirane, Tokai, Ibaraki 319-11, JAPAN
Proc. of the 12th Syposium on Accelarator Science and Technology, (1999) 379-381

キーワード:光共振器、回折損失、遠赤外線、optical resonator, diffraction loss, far-infrared
分類コード:140104, 140106, 140202

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