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作成: 2000/03/15 菊澤 信宏

データ番号   :140030
PCによる自由電子レーザーの制御
目的      :PCを用いた制御システムの開発
研究実施機関名 :日本原子力研究所自由電子レーザー研究グループ
応用分野    :加速器、自由電子レーザー、制御

概要      :
 PCによる自由電子レーザーの制御システムはハードウェアの制御プロセスとソフトウェアのシミュレータプロセスから成り立っている。この制御システムの設計の概念は、ハードウェアに依存した部分を分離するような階層構造を基にし、階層構造の一番上部にはユーザーインターフェースとしてウィンドウシステムを使用している。この制御系の特徴や利点に付いて述べる。
 

詳細説明    :
 原研で建設した自由電子レーザーは比較的小型の超伝導リニアックを使用しており、主な目的の一つに、将来の高出力化を目的として超伝導リニアックを使用したレーザー発振の技術的ノウハウの獲得がある。それゆえ、制御システムは試験運転中に得られた知識を蓄積できるように設計された。実際の制御システムはローカルエリアネットワーク(LAN)でつながったパーソナルコンピュータ(PC)上に実装されている。PCを使うメリットは、十分な能力を持ったハードウェアを安いコストで利用することが可能だからである。説明図1に原研自由電子レーザーのレイアウトと制御系の配置を示す。


図1 原研自由電子レーザーの主要機器と制御ユニットの配置(原論文1より引用。 Reproduced from Nuclear Instruments and Methods in Physics Research A 1993; 331:340-345, Figure 4(p.343), M.Sugimoto, Control system with a soft ware simulator for JAERI-FEL, Copyright(1993), with permission from Elsevier Science.)

 制御システムに要求される項目として、(1)将来の変更に対して自由に対応できること、(2)良い応答性を得るためにリアルタイム性があること、(3)いろいろな種類の情報に対して良いユーザーインターフェースを持つこと、(4)信頼性が高いこと、などが挙げられる。これらを実現するために、(a)ハードウェアは市場に広く流通していて信頼できるものを用い、実装は仮想ハードウェアに対して行う、(b)ソフトウェアは実際の要求レベルに応じて階層構造とする、などが必要である。説明図2に階層構造のソフトウェアの概念図を示す。


図2 階層構造を持ったソフトウェアの概念図(原論文1より引用。 Reproduced from Nuclear Instruments and Methods in Physics Research A 1993; 331:340-345, Figure 2(p.341), M.Sugimoto, Control system with a soft ware simulator for JAERI-FEL, Copyright(1993), with permission from Elsevier Science.)

 ハードウェアとしては、ホストコンピュータとしてパーソナルコンピュータと、デバイスとのインターフェースにCAMACとGPIBを使用している。ハードウェアは制御システムを3つのレベルとみなし、1)個々のデバイス(仮想デバイス)、2)関連したいくつかのデバイスや一連の動作(仮想コントローラ)、3)コンソールまたはデータ解析に用いるホストコンピュータ(仮想ホスト)、に分ける。
 
1)仮想デバイスは実際のハードウェアを抽象化したものであり、個々のデバイスを実際に制御するためのパラメータ、デバイスを抽象化した名称、デバイスとのインターフェースの部分などのパラメータを保存したデータベースである。
 
2)仮想コントローラは、デバイスのパラメータの設定や読み出しなどの具体的な動作を抽象化したものであり、制御される個々の仮想デバイス間の関係を保存したデータベースである。
 
3)仮想ホストは制御システムのホストコンピュータの抽象化であるが、ホストコンピュータとして固定されたものではなく、故障のときのバックアップや装置が設置してある現場での動作テストなど場合には実際のコンソールは分散型コントロールシステムとして自由に他のコンピュータで実行される。
 
 ソフトウェアはシングルタスクOSであるMS-DOS上で擬似マルチタスク環境を提供するMS-Windows3.1上で開発され、開発言語にはグラフィカルユーザーインターフェース(GUI)のアプリケーションの開発が容易なObject Pascalを使用した。個々のデバイスに依存した部分を階層構造とし、1)装置依存層、2)ハードウェア依存層、3)アプリケーション依存層の3つの階層に分離されているので、デバイスの変更やコントロール方法の変更に容易に対応できる。
 
1)装置依存層。もっとも下層のレベルであり、直接ハードウェアにアクセスする部分である。タスク制御のためのカーネルもここに含まれる。個々のデバイスの動作をチェックするためのデバイスシミュレータがこの層に含まれる。
 
2)ハードウェア依存層。個々のデバイスの仕様に関連した機能を行う仮想ハードウェアコントロールを扱う層である。それらは電子ビーム輸送のための電磁石、真空装置、超伝導加速器を冷却するための冷凍機など、関連する機能ごとに分類されている。
 
3)アプリケーション依存層。階層構造の中で一番上の層であり、ハードウェアに依存した部分を除く全てのプロセスを扱う。アプリケーションとは、オペレータコンソールタスクと、オペレーティングシステムによって実行されるタスクに関係したものを意味する。仮想ホストはオペレータコンソールタスクを実行するコンピュータである。
 
 アプリケーションはオペレータコンソールタスクと、ビーム光学計算プログラム、データベースマネージャ、ガイダンスプログラムなどの支援ツールなどを含んでいる。ユーザーインターフェースはGUIを用い、マウスやタッチパネルを使って操作する。LANでつながった別のPCではデータのモニタや解析結果の情報を表示させておくのに使われる。ローカルユニットにもモニタがあり、装置を設置してある現場でのデバッグやオフラインでのテストに使われる。
 

コメント    :
 このような階層構造をもった制御系を構築することによって、装置の変更やユーザーインターフェースの変更が柔軟に行える。また、普段から使用しているPCのユーザーインターフェースと操作性を統一することで操作に習熟する時間を短縮でき、リアルタイムでシミュレーションから結果の解析まで行うことで、自由電子レーザーの運転員の負担を軽減できると考える。
 

原論文1 Data source 1:
Control System with a software simulator for JAERI-FEL
Masayoshi Sugimoto
Free Electron Laser Laboratory, Japan Atomic Energy Research Institute
Nuclear Instruments and Methods in Physics Research A331(1993)340-345

キーワード:自由電子レーザー Free Electron Laser、制御システム Control system、ソフトウェアシミュレータ Software simulator
分類コード:140102

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